第4話:ハンミョウ

 みなさま、みなさま。本日も私のために広場にお集まりいただきありがとうございます。

 ホラ吹き屋でございます。


 さて、私ですが、ホラを集めて、このようにみなさまにお話しすることを生業としております。ホラというものはどこにでもあるものでございますが、見つかりやすい所というのもございます。

 森や山の隠者、世捨て人は変わった話をしてくださることが多くありまして、私、街で世捨て人の話を聞くとすぐに向かうのでございます。


 先日も森の奥におりまする智慧者の話を聞きまして、森に入りましたが、私不覚にも迷ってしまいました。そこで、せっかくですので以前聞いたホラまじないを試してみようと思いまして行ってみたのでございます。


 まず、厚みがあって光沢のある葉を探し、八枚ほど拝借いたします。

 地面に円を書きまして、葉の柄の部分が内側を向くように円の上に等間隔で葉を乗せます。これは八方を表しているのだそうでございます。

 そして、片手で合掌の型を作り、以下のように唱えます。

「みょんみょん。はんみょん。はんみょん様。私を正しき道へとお導きください」


 片合掌で「みょんみょん。はんみょん。はんみょん様」と唱えながら思いのままに歩いていると、いつのまにか良き所に出ているという寸法でございます。


 私、律儀にも手順を完璧に守りまして、このまじないを遂行いたしました。はんみょん様への祈りを捧げ始めてから十五分ほど経ったころだったでしょうか、私の目の前には色鮮やかなハンミョウが出てきたのでございます。

 はんみょん様とは、このハンミョウの神様でございますですから、私、これ僥倖なりと浮き足立ちまして、後を追ったのでございます。


 みなさまご存知であるか分からないのですが、ハンミョウは変わった挙動のムシでして、止まっては動き、動いては止まり。という行動を繰り返すのであります。また、時に周囲のことを確認するかのように首を振ってキョロキョロと動くのですが、その行動が可愛らしく、一部の愛好家からは絶大な人気を博しているのでありますです。


 私、ハンミョウが行く先を辿り続けました。

 私が近くに来ると、また少し先に。私の足取りが遅い時にはしっかり待っていただきました。道を間違えたのか二度ほど方向転換しましたが、かわいいだけのことでございます。一刻ほど経ったのちに開けた所にたどり着きまして、遠目にこの街が見えたので、ああ正しかったのだと思いまして、喉もカラカラのまま森を出たのであります。

 私が森を出る時、ハンミョウはカタカタと身体を揺らしていまして、まるで私に手を振りながら「もう迷うなよー」と軽く仰っているようでもありました。


 みなさまも、森で迷ってしまい、にっちもさっちも行かなくなった時にはこのホラまじないを試してみて下さい。

「みょんみょん。はんみょん。はんみょん様」でございますよ?


 皆さまの心の迷いも晴らせたのでありましたら、私ホラ吹き屋の冥利に尽きるというものであります。

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