第6話:稀覯書
みなさまみなさま、本日も私めの為にお集まりいただきありがとうございます。この街に来て早一ヶ月、皆様とも顔なじみになって来ましたでありますな。
今日は私の趣味であります稀覯書、稀少な本についてのお話をさせていただこうかと思っておりますです。
私、このように旅の多い身であります。新しい街に着くと、必ず行うのが古書巡り。これが実に胸踊るのです。
本というものは人の気持ちが詰まっておりまして、込められたものが強い想いというレベルであればよいのですが、時に度を過ぎて、妄執という域に達してしまうものも少なくありません。そのような本というのは装丁にも特徴が現れます。
豪華な装丁というと、まず真っ先に革装が浮かびます。革の本というのは、基本的に羊などの革を使うわけでございますが、世の中というのは摩訶不思議でありまして、珍しい動物の革では飽き足らず、ミノムシの巣、タケノコの皮などを用いた装丁の本というものも存在します。
そして、中には人皮の本も存在します。
私が先日、この街で見つけた本はまさにこの人皮装丁の本でして、作者は女性でございました。この女性、病死された想い人の皮を使って本の体裁を整えておりまして、中には彼への愛が綴られています。なんとも見上げた愛情と申せばよろしいのか、深淵に身を投げすぎだと申せばよろしいのか私には判断がつきません。
ただ、この本には奇妙な点が一つあります。本の内容によると、彼女はその想い人と直接言葉を交わしたことがないそうなのです。人皮を使った神秘でございますな。
さて、私、明朝にはこの街を発とうと思っております。もしかしたら皆様とお会いするのもこれが最期であるかもしれません。もし少しでも皆様のお心に私の話が残っているのならば、私ホラ吹き屋の冥利に尽きるというものでございます。
ホラ吹き屋の話 藤花スイ @fuji_bana
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます