第12話 訓練
「えーっと、本当にこれで習得出来るんですか?」
不安になってトム爺さんに尋ねる。
俺は座禅していた。
ほぼ一か月程。
というか、爺さんとこの空間に入ってからひと月ずっとこれしかしていない。
「早々簡単にはいかんよ。気長にやらんと」
今俺がやっているのは、座禅してへその下あたりに意識を集中し続けるという物だ。
これは武極剣の基礎にして、名前の元である武極と言うスキルの第一段階目を習得する為の訓練だった。
「習得までに早くても1年はかかるもんじゃが……まあ24時間休みなくできる者など普通はおらんから、坊主の場合は半年とかからず習得出来るじゃろう」
「ガッツですよ!セイギさん!」
精神修養にガッツも何もあった物ではない……いや、精神修養だからこそ重要なのか?
まあとにかく、俺はトム爺さんの指示通り座禅を組んで集中し続ける。
「一緒にいてもアドバイスできる事がある訳でも無し。ワシがいるとこの空間を使える時間が減る様じゃから、その段階が終わるまでは一人で頑張るんじゃ」
確かに座禅を組んで集中するだけなら、爺さんのアドバイスはいらない。
なので次回からは爺さん抜きで訓練を行う。
翌日。
1年丸々座禅を組んで集中するが、結果は出なかった。
爺さんの予想では半年程だった訳だが……
「何となくそんな気はしてたんですが……セイギさんはどうやら戦闘系の才能がないみたいですね」
「そうみたいだな……」
元の世界ではただの一般人。
転生先はこれまた平凡な奴隷の少年。
才能があると考える方がおかしいというもの。
「まあですがセイギさんには他人の何百倍もの時間がありますから!質より量で勝負ですよ!ファイト!」
「ああ、頑張るさ」
とにかく続けるしかない。
俺は強くならなければならないのだから。
その後、更に2年程訓練空間で修練した所で、俺はやっとスキルの第一段階目に到達する。
「感じる!確かに俺の中にある力を感じる!」
へその下あたりの、丹田と呼ばれる部位に感じる熱。
きっとこれこそが気と呼ばれるエネルギーだろう。
やっと一段階目完了だ。
爺さんの予想が半年だったと考えると、俺は習得に六倍かかった事になる。
訓練空間があって本当に良かった。
「おめでとうございます!」
「ありがとう!」
第一段階を終えた俺は、時間を余らせるのももったいないので、残りを普通の訓練で過ごし外に出てから爺さんに報告する。
「うむ、では次の段階に移るとしようか」
次の段階も中で指導を受ける程ではなかったので、夜中こっそりやり方を学んで俺は訓練空間へと入った。
次に取り組んだのは、全身の力を丹田の一点に集めるという訓練。
それと並行して、丹田内にあるエネルギーを体内に巡らせ動かすという物だ。
前者は気の収束方法を。
後者は、気を操る術を身に着ける為の訓練だ。
「既に気を感じ取れてますから、最初のに比べたら簡単な筈です。頑張りましょう!」
キュアの言う通り、掴み所のなかった気の察知よりも、既に感覚を掴んでいる物に手を加える方が楽ではある。
とは言え、だったら余裕で出来るのかというとそう簡単な事ではない。
何せ丹田に力を集めるのも、そしてその力を動かすのも、本来持って生まれた機能ではないのだ。
なので当然苦労はする。
感覚的には、怪我で動かなくなった手足を動かすリハビリの様な物と言った所だろうか。
とにかく、俺はそれをひたすら続ける。
1年頑張って、外に出て夜中に進捗を爺さんに確認して貰い。
そしてまた1年頑張ってと言う感じに。
そして訓練空間で3年程が経ち。
訓練を終えた今の俺の状態は――
気の収束は、元あった物の3倍位の塊。
動かす方は、体をぐるりと一周させるのに10秒。
――といった感じだ。
「よく頑張ったな。二段階目終了じゃ」
「ありがとうございます」
爺さんから合格を貰った俺は次の段階へと進む。
「次は、気を収束させながら動かして貰う」
「分かりました」
といった感じに少しづつステップアップして行き、気づけば訓練空間の修行は20年分ほど過ぎていた。
「基礎はまあこんなもんじゃろう。ここからじゃな、戦闘訓練は」
……やっと基礎終了。
20年と言えば、子供が生まれて成人する期間を余裕で越えている。
圧倒的に訓練に向いた空間でこれだからな。
俺はどんだけ才能ないんだよって話だ。
「流石に戦闘訓練はワシが見ていた方が効率がいい。今日からは、ワシも中に連れて行ってくれ」
「はい」
トム爺さん指導の元、俺の訓練は続く。
奴隷スタートした俺の異世界逆転劇~俺は奪われた家族を取り戻し、この修羅の様な世界を住みやすくする~ まんじ @11922960
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