第11話 修行開始
訓練空間。
いつもの風景に、今回は異物が混ざっている。
――それは足のない、体が半分空けたまるで幽霊の様な姿のトム爺さんだ。
……まるで幽霊だな。
「ここは一体……」
「ここはセイギさんの訓練空間です」
「ぬ、おぬしは一体?」
それまで俺にしか見えなかったキュアだが、この空間内ではトム爺さんにもその姿が見える様だ。
「私はセイギさん専属のスパーアドバイザー、Q&A——キュアと申します」
「ブラッドポーションで最初に交換した子です」
「ほほう、こんな可愛らしいお嬢さんまでとはな……ふむ、どうやら寿命が延びると言うのも信じて良さそうじゃな」
キュアの様な不思議生物が手に入るられるのなら、寿命も伸ばせる事も出来るだろうと判断してくれた様だ。
「ここにワシを連れて来たという事は、この場でワシに坊主を鍛えろという事かの?」
「はい。トム老人には武極剣をセイギさんに伝授して頂きたいんです」
武極剣ってなんだ?
伝授って事は、流派か必殺技関連だとは思うが。
「む……ワシが武極剣の使い手である事を知っておる訳か」
「私には、世界中の常識から知識を得ると言う能力がありますので。ファランクス王国将軍トーマス・ファイヤードが、武極剣の使い手である事は有名――つまり一般常識です」
ドヤ顔でキュアが言う。
彼女には一般常識となる知識を、世界中から掬い取る能力がある。
その掬い取れる範囲は広く。
世界全体の共通認識から、ちょっとした集団内の常識にまで至っている。
但し、一般常識という言葉からも分る通り、例えそれが集団の常識であっても、徹底して外部への隠ぺいをしている様な情報は手に入らないらしい。
まああくまでも徹底している物だけで、周囲に当たり前の様に知られている公然の秘密的なのは別だそうだが。
「それはまた、便利な能力じゃな。しかし……武極剣は門外不出の流派じゃ。それを教えて欲しいと言われてものう」
爺さんが渋る。
まあ選別的なクローズド技術を、ホイホイ人に教える訳にはいかないのだろう。
爺さんは真面目な性格してるし。
「流派に義理を立てたい気持ちが分からない訳でありません。ですが……よーく考えてみてください。貴方がクーデターで敗れ、家族を捕らわれ投獄されていると言うのに、その流派の人達はなにをしてくれましたか?そしてその義理は、家族を生かす事より本当に重要なんですか?」
「……」
キュアの言葉に、爺さんがしかめっ面で黙り込む。
どうやら迷っている様だ。
危機的状況で手助けしてくれない相手への義理と、家族の命。
どれ程の恩義があろうとも、俺なら迷わず家族の命を取るだろう。
――そしてそれはトム爺さんも同じ様だった。
「分かった。その代わり寿命の件、もし嘘だったらワシはおぬし達を決して許さんぞ」
「ご安心を!このキュア!セイギさんの命をかけて嘘偽りない事を誓います!」
勝手に人の命かけんなよ。
いやまあ、嘘じゃないから問題ないっちゃないけど。
「では早速、武極剣の奥義をセイギさんに伝授しちゃってください。ここでは死も疲労も一瞬で回復するんでバシバシきつめでお願いします!」
「わかった。これからワシは坊主を弟子とし、全身全霊を持って鍛えよう」
こうして俺はトム爺さん指導の元、武極剣の修行を開始する。
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