第10話 同行
鉱山内の一日は、朝に銅鑼で叩き起こされる所から始まる。
その後、質素な朝食をとって午前の作業だ。
因みにこの世界の人間は排泄をしないため、お尻の穴が無かったりする。
まあそんな事はどうでもいいか。
で、昼になると1時間程食事休憩が与えられ。
出て来る食事は、朝より若干豪華な物となっている感じだ。
午後の作業は間に30分ほどの休憩が二回挟まり、労働終了後夕食を取ってそのまま就寝。
それがルーチンとなっている。
そして6日ごとに休日が1日挟まる感じで、奴隷生活は過ぎていく。
まあここには娯楽などないので、休日は1日中寝そべって体を休ませる以外する事は無いが……
え?
奴隷なのに何で休日があるのかだって?
基本的にこの世界の奴隷は、日本の教材に載っている様な黒人奴隷と比べればかなり緩い環境になっていた。
1日のルーチンからも分かる通り、仕事は死ぬ程きつくても休憩はしっかり取らせて貰えるし、食事も糞不味くはあっても必要な栄養価はきっちりと取る事が出来ている。
そして極めつけは、定期的に与えられる休日。
厚遇……というのはあれだが、それでも俺達には最低限生きて行けるだけの環境が与えられていた。
――その理由は、奴隷が決して安い買い物ではないためだ。
産出の都合上――戦争で連れ去ったりがそうそうない――奴隷はそこそこいいお値段になる。
高い金を払って買った奴隷が、簡単に死んだら買った奴は大損である。
だから所持者達はいかに利益率を上げるかを考え、その結果、劣悪な環境で短く使い潰すよりも、細く長く搾り取った方が得だと判断したのだ。
ぶっちゃけ、こういった環境じゃなかったら、俺は12歳を迎える前に命を落としていた筈である。
比較的緩めでよかったよ、ほんと。
『鍛えて貰うって……爺さんに真面に指導して貰えるのは休日だけだぞ?」
奴隷の環境が緩めとは言え、そこまで時間に余裕がある訳でもない。
そして人目を避ける必要も考えると――皆の見ている前で指導してもらう訳にもいかないので――指導を受ける事が出来るのは休日ぐらいの物である。
正直、6日に1度の指導の為だけに、1ヵ月も期間を延長するだけの価値があるとは流石に思えない。
『それなら心配ありません。トム老人には、訓練空間で指導して貰いますから』
キュアの言葉に俺は眉を顰める。
何故なら――
『訓練空間に来てもらう?俺のスキルで作った空間は、俺以外の生物は入れない筈だけど?』
――訓練空間に入れるのは俺自身だけだからだ。
他の生物を中に入れる事は出来ない。
当然、その事をキュアは把握している筈なのだが……
『確かに、トム老人の肉体を連れて入る事は出来ません。ですが……このキュアの力を持ってすれば、精神だけを空間に引き込む事は可能だったりします』
『え?まじで!?』
『キュアは嘘を吐きません!』
常識から情報を抽出して質問に答えるだけかと思っていたのだが、どうやらキュアには他にも能力もあった様だ。
流石は神様が付けてくれた初回特典である。
『成程。確かにそれなら指導して貰えるな』
精神だけというのが少し引っかかるが……
まあ手取り足取りとは行かなくとも、精神——口出し――だけでも爺さんクラスの強者なら、指導を受ける価値は十分あるはずだ。
『まあですが、その場合少し弊害も出てしまいますが』
『弊害?』
『はい。他者の魂を空間に引き入れるとその維持時間が10分の1になってしまうんです。なので、1度の使用が1年から1ヵ月ちょっとになってしまいます。ですが、それでも尚、究極騎士の指導を受けられるならそれだけの価値があるかと』
キュアがハッキリと、それでも価値があると言い切る。
彼女がここまで言うのだ、実際そうなのだろう。
『わかった。爺さんに指導を頼もう』
「爺さん、実は爺さんの寿命を3年延ばすアイテムがあるんだ」
「何じゃと!?本当か!?」
爺さんが、俺の両肩を掴んで言葉を荒げる。
トム爺さんにとって3年の延命は、実質家族全員にとっての3年でもある。
家族を守る為黙って奴隷生活している爺さんからすれば、寿命を延ばせると聞かされ興奮するのも無理ない話ではあるが……
「爺さん、声がデカいよ」
「ぬ、ワシとした事がつい……」
今は真夜中で、周囲には他の奴隷達が寝ているのだ。
大声を出せば、彼らに爺さんとのやり取りに気付かれてしまう可能性が出て来る。
俺はともかく、爺さんの状況を考えると、万一気づかれて看守達にでも報告されたら一大事だろう。
「それで……今の話は本当なのか?」
「嘘じゃないよ。けど……それを手に入れる代わりに、爺さんには頼みたい事があるんだ」
「頼みたい事?」
「うん。爺さんには、俺を鍛えて欲しいんだ」
「鍛える?それは別に構わんが……周りにばれずにとなると、かなり時間が限られて来るがいいのか?」
「それなら心配ないよ」
『セイギさん!準備オッケーです!トム爺さんの体に触れてください』
「爺さん、ちょっと手に触れるよ」
「む」
俺が爺さんの手を握ると――
『連れて入ります!』
――次の瞬間、俺とトム爺さんの魂が訓練空間の中へと入り込んだ。
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