第50話 ピケットとポポッコ

「ピケットとポポッコ」


 ピケットは一生懸命考えます。きっと石が頭にぶつかった時、思い出を頭の奥底に落っことしてしまったのでしょう。ポポッコは今、子どもの頃の思い出しか持っていないようでした。

「ポポ、僕と一緒にお家に帰ろう。さあ、歩ける?」

 そわそわと不安げなポポッコを子どもの頃の名前で呼び、手をとってゆっくりと立ちあがらせます。ふらついた様子もなく、一人で歩けそうです。頭にできたたんこぶを触りながら、ポポッコはピケットに尋ねます。

「ありがとうございます。すみません、貴方の名前はなんですか?」

「……僕はピケットだよ」

「ピケットさん。不思議ですね、僕の友達もピケって言うんですよ」

 それから少し歩くと、ポポッコの家に辿り着きました。たんこぶを手当てしながらピケットは言います。

「ポポ、君はいま記憶喪失になってるんだ。記憶が戻るのはすぐかもしれないし、時間がかかるかもしれない。でも必ず、君の思い出を見つけ出すから、大丈夫だからね」

 ポポッコの家の中で、彼の記憶を思いだせそうなものを探します。彼の大好きな瓶いっぱいの海硝子、何冊かの日記、他にもいろんなものを探しました。念のため、ポポッコにぶつかった石も拾ってきました。

 それから数日たちました。ポポッコの記憶はまだ戻っていません。ピケットの探したどんなものも、ポポッコの記憶を取り戻せませんでした。

「どうすればいいんだろう……」

 ピケットはポポッコのベットの下を覗き込みました。すでに何度も見返しているそこは空っぽで、埃もありません。ぼんやり床板を撫でていると、指に引っかかるものがありました。爪を立てると開きそうです。開けてみるとそこにあったのは小さな箱でした。ピケットが夜光街に行ったとき、お土産に持ってきた小箱です。最初に開けた人の一番大切な思い出をしまっておけるその箱を、ピケットは急いでポポッコに見せました。

「ポポ、これを見てごらんよ! 君の大切な思い出が入っているよ!」

 ポポッコは不安気に、思い出の小箱を開けました。そこには小さな小さなクリケットたちが歌の練習をしていました。先生と幼いピケットとポポッコとピチット、四匹のクリケット・カラアリが楽し気に歌っています。ポポッコはそれをじっと見て、動かなくなりました。ピケットは、

(やっぱり思い出が古すぎたかなあ、戻ってほしいのは今の思い出だからなあ)

 と思いながら、ポポッコにぶつかった丸い石を見ました。するとなぜかその石がぶるぶると震えているのに気がつきます。

「これって、もしかして……!」

 ピケットは金槌を持ち、震える石を思いっきり叩きました。石は大きくひび割れ、そこからキラキラしたものが飛び出しポポッコの頭に入っていきました。すべてがポポッコの中に入ると、ポポッコはばったり倒れてしまいました。ピケットが慌てて駆け寄ります。ポポッコの体に触れる直前、彼はぱちりと目を開きました。

「あれ、ここは僕の家だ。図書森に行こうとしてたのに、なんでだろう?」

 ピケットは少しぽかんとすると、勢いよくポポッコに抱き着きました。

「ポポッコ! ポポッコ! 本当に良かった! 石に記憶が移ってたなんて、こんなの聞いたことがない!」

 ポポッコはぎゅうぎゅう抱きしめられながら、訳も分からないという風でした。

「ピケットってば、一体どうしたんだい。おや君、泣いているのかい?」

「ポポッコ、君ってば記憶喪失になっていたんだよ。本当に心配したんだから」

「さあほら泣かないで、僕は君にたいへん迷惑をかけたらしいね」

 ぐずぐず泣き続けるピケットの顔をハンカチで拭きながら、ポポッコは言いました。

「まったく僕は本当にいい友達を持ったなあ」


 今までそうであったのと同じように、これからも二匹はずっと友達です。


おしまい



※41~50話覚書

https://kakuyomu.jp/users/kiyato/news/16817330661169924318

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くりけっと・まーち 猫塚 喜弥斗 @kiyato

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