第49話 思い出とポポッコ

「思い出とポポッコ」


 雨続きだったクリケディアも晴れの日が続くようになり、夏の気配を感じられるようになりました。そんな晴れの日の午後、クリケット・カラアリ・ポポッコは今日も散歩を楽しんでおりました。図書森から借りていた本を片手に、今日はどんな本を借りようかと思いながら、機嫌よく鼻唄混じりで歩いています。

「おやポポッコ、君も散歩かい?」

「ピケット、これから図書森まで行くところさ」

 途中、友人のカラアリ・ピケットに出会いました。ピケットは特に目的もなくふらふらと歩いていたので、ポポッコと並んで歩くことにしました。

「どんな本を借りていたんだい?」

「料理の本だよ。この間一緒にほむらのアイスを作っただろう? そのときの本さ」

 そんなことを話しながら歩いていると、少し先に崖崩れの跡が見えました。連日降り続けた雨のせいで、木々を巻き込みながら流れてきた土砂が道をふさぎ、向こうに行くことが出来なくなっていました。

「困ったな、ここは図書森への近道なのに」

「戻って遠回りしないと。でもまあ今日はいい天気だし、大丈夫だよ」

「森の掲示板まで近いし、注意書きも書いて行こうか」

 その時でした。崖崩れを起こした上の方から、土をこびりつかせた丸い石が転がってきました。コツン、コツンと土砂の中を転がり、跳ね上がり、その石はポポッコの頭にぶつかりました。

「ポポッコ!」

 ピケットが叫びます。ポポッコの体はぐらりと揺れて膝をつき、そしてどっと倒れてしまいました。ピケットが何度か呼びかけ、誰かを呼びに行こうとしたとき、ポポッコの目がぱちりと開きました。

「ああ! ポポッコ、よかった!」

 むくりと起き上がったポポッコに、ピケットは抱き着きました。

「ポポッコ、君の頭に石が当たったんだよ。覚えてる?」

「…………」

 ポポッコは何も答えませんでした。ただ不思議そうにあたりを見渡して、そしてピケットの目を見ました。

「……あなたは誰ですか?」

 ピケットは初め、ポポッコが何を言ったのかわかりませんでした。

「ここはどこだろう……すみません、僕の先生知りませんか?」

「ここは、図書森に行く途中で……君の先生は僕の先生で……。ポポッコどうしたの? 僕のこと忘れちゃったの?」

「僕はポポですけど……。先生が同じってことは僕の先輩ですか? 前に会ったことありましたっけ?」

 ポポとはポポッコが独り立ちする前に先生に呼ばれていた名前です。ポポッコはピケットのことをまるで知らないクリケットであるかのように話しかけていました。その様子は今までのピケットとの思い出を全部どこかに落っことしてしまったようでした。


つづく

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