第48話 虹の根元とピケット
「虹の根元とピケット」
クリケディアに雨が散々降ったあと、クリケット・カラアリ・ピケットは友人のカラアリ・ポポッコと一緒に、雨上がりのうるうるした木々の合間を散歩しておりました。木の葉や小さな花などが、日の光を受けきらきらと輝いています。カラアリの黒い体も、きらきら光るようでした。
「ピケットごらん。虹が出ているよ」
「本当だ、きれいだなあ。虹の根元には宝物が埋まってるって聞くけど、今なら行けるかな」
「行ってみようか。なんだかいつもより大きく見えるし、結構近くにあるかもしれないよ」
クリケディアには虹の根元を捕まえたクリケットの話もいくつか存在していました。ある者は金無垢の懐中時計を、またある者はお酒の湧き続ける杯を。そんな話を聞いていれば、もうじっとしてはいられませんでした。
二匹は急いで走り始めました。虹はだんだん濃く大きくなり、どんどん近づいているようでした。
「あったよ、ポポッコ! すぐそこだ!」
期待に胸を膨らませ、二匹がたどり着いたのは大きな、とても大きな虹の根元でした。それは地面からごうごうと湧きだすようでもあり、また、ただ静かにそこにあるだけのようにも見えました。ピケットとポポッコはその存在感に圧倒されぽかんとしてましたが、すぐに気を取り直しました。
「さあピケット、掘ってみようよ」
「なにが出るかな、一緒に使えるものだといいね」
二匹は虹の中に飛び込むと、急いで掘り始めました。虹はだんだんとその色を薄くしていき、姿を消しつつありました。ピケットもポポッコも頑張りますが、なにしろ道具も持たず素手で掘り始めたので、そう深く掘る間もなく虹は消えてしまいました。残ったのはかすかに虹色に光る粘土質な土だけでした。
「あーあ、宝物見つからなかったね」
「いや、そういう訳でもなさそうだよピケット。土をよくごらんよ、光が消えていないよ」
ポポッコは手一杯に土を掘りあげました。ピケットはよくわからないまま、同じように土を集めます。ポポッコはピケットを連れて焼き物屋へ行き、その土を預けてなにかを注文していました。
数週間後、ポポッコが二つの小さなカップを持ってピケットの家に遊びに来ました。
「そのカップどうしたの?」
「前に虹の根元を掘っただろう。その時の土を混ぜて作ってもらったんだよ」
ポポッコはカップに水を注ぎました。何の変哲もないただのカップにしか見えません。
「さあ、乾杯しよう」
ピケットはポポッコがカップをかかげるのに合わせて、二つのカップをコチンとあわせました。するとどうでしょう。二つのカップの間に、小さな虹がかかったのです。ピケットが驚いている間に虹は消えてしまいました。
ポポッコの方を見てみると彼はくすりと笑って、
「なかなかいい宝物だと思うよ」
そう言って水を飲みました。どこからか雨の香りが薄く漂っていました。
おわり
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