第47話 焔のアイスとピケット

「焔のアイスとピケット」


 温かな陽気の中、クリケット・カラアリ・ポポッコは外で料理の本を読みながらお茶を楽しんでいました。ぱらり、ぱらりとページをめくりながらポポッコはふと、ひとつの料理に目をとめました。

「おやこれは……。『ほむらのアイス』? 炎のスープを使った料理だって? すでに出来上がったものを使って別の料理を作るのか」

 炎のスープは以前つくったことがあります。友人のカラアリ・ピケットと、クリケット・エガアイ・トモトモの三匹で、スープを作るための香辛料を育てたのでした。このスープは食べると頭から炎が立ち上がるほどすさまじく辛いのです。

「これはピケットの所に行かないといけないな」

 ポポッコはスープとアイスのための材料と料理本を手に、ピケットの家へと向かいました。ピケットの家は洋服ダンスでできた洒落た家です。

「やあポポッコ、いらっしゃい」

「ピケット、いま手は空いてるかい?」

「暇だけどどうしたの?」

「一緒に作りたい料理があるんだ。ひとりじゃ作れなくってね」

 ポポッコは焔のアイスのページを見せました。ピケットはアイスと見るとすぐ目を輝かせ、はやく作ろうとポポッコを急かします。さっそく二匹は炎のスープを作りました。湯気がうっすらと立ちあがるスープは、赤に橙に揺らめいて見えました。このスープを飲んだときに出る炎を使ってアイスの素を温めることで焔のアイスは作られるのです。

「ピケット、君が炎のスープを飲んでよ。僕は君の上でアイスの素を混ぜないといけないから」

 ピケットは「いただきます」というとスープを一すくい、口にいれました。舌にぴりりとした感覚がはしり、飲み込むと体の中からかっかとし始めました。二口、三口と飲んでいくごとに熱は全身に広がり、口の中から目の裏まで針に刺されるような刺激がはじけ、汗が噴き出て頭は爆発しそうでした。その時、ピケットの頭から炎が立ち上りました。スープと同じ色に輝きながら、ゆらゆらと燃えています。ポポッコはさっそく鍋をピケットの上に掲げ、用意していたアイスの材料を入れながら木べらで混ぜました。

「か、からい! ポポッコ、はやくして!」

「もうすぐ、もうすぐだから我慢して!」

 アイスの素が均一に混ざり合い、ようやくポポッコは鍋を下しました。ピケットは涙目になりながらほっとしてミルクを飲んで辛さを和らげました。粗熱を取ったアイスの素はときどき混ぜられながら冷蔵庫で冷やされ、二匹はわくわくしながら待ちました。どんな味がするだろう、あんな味がするだろうか。そんなことを話しながら待ちました。

 そうしているうちにアイスが固まり、いよいよ食べごろになりました。二匹はグラスにアイスを盛り、一緒に食べ始めます。一口め、一瞬冷たいと思った次の瞬間、それは辛さに変わりました。パチパチと弾けるような辛味は舌の上で踊り、勢い余って口から火花が飛び出るようでした。辛さが収まる頃にはアイスの甘い香りが広がり、二匹ともほっと人心地つきました。

「これは……スープに負けず劣らずとんでもないアイスだな」

「でもこのアイス、僕好きだなあ。辛さの後に甘みが来てほっとするの、何度もやりたくなっちゃう」

 ピケットはそう言うと二口めにとりかかりました。ポポッコももう一口食べました。炎のスープの、まるで濁流のような辛さとは違う、小さくはじけるこの辛さを、ピケットもポポッコも大変気に入りました。けれどもこのアイスを食べるには、あの炎のスープも飲まないといけないので、なかなか食べられる物でもないぞと二匹で話しました。


おわり

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