協力者
片思いの幼馴染み・佐山瑠璃を取り戻す為、僕は戦う決心をした。ならばこの戦いにおける勝利とは?……勿論僕と佐山の交際である。あわよくば、せ、せ、……接吻まで行ければ申し分無し。だが、そんなことは捕らぬ狸の皮算用。身の丈にあわぬ高望みは身を滅ぼすだろう。
そもそも物事には順序と言うものがある。一般的に交際関係にある男女は、その他の異性と付き合うことはできない。そんな当たり前のルールも守れないモテ男・モテ女は世にゴマンと存在するが、佐山はそんな女性でないと仮定する。つまり、佐山があのサッカー部エース・榊原晴臣と付き合っている以上僕の出る幕は一生無い。故に、さしあたっての目標は
『佐山と榊原の破局』
である。
人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ。とは言うが、僕の身にもなってほしい。視点を変えれば先に恋路を邪魔されたのは僕だとも言えなくもないし、榊原は馬に蹴られるべきだとも思う。だが、そんなことを言い出したら世の馬達の蹄は血に染まり、人類の頭蓋はもれなく割れ放題になるだろう。だからきっと、僕が佐山と榊原の中を引き裂こうとするのはまだ常識の範疇に違いないし、ロマンスの神様も許してくれるだろう。……多分。
客観的に見て、自分に都合のいいクズ特有の思考回路を僕は辿る。だが、僕は自分の性根が腐っていることを自覚している。だからセーフ!他のクズとは違う!そう自分に言い聞かせながら僕は考えを巡らせた。
放課後。誰もいなくなった教室から外を眺める。視線の先には練習中のサッカー部……を応援する佐山の姿。背の小さい彼女が声援を飛ばす度、一つに束ねた綺麗な髪がピョコピョコと揺れる。その他にも、別のマネージャーや練習中のサッカー部などがいた気がするが、特に目には写らない。恋は盲目なのである。物理的にも。
「どうしたもんかなぁ?」
彼女を眺めながら、僕は呟く。
榊原晴臣は男女問わず人望のある優等生だ。そんな人物にちょっかいをだしたとなれば、僕の残りの学生生活は、それはそれは暗いものとなるだろう。そう考えた場合、一人では作戦の幅が狭すぎる。
「協力者が欲しい……」
だが、誰がこんな馬鹿げたことに協力してくれるというのだろう?例えば僕と目的を同じく、佐山を狙っている人物がいたとする。そいつと協力し、無事二人が破局した場合。僕には幼馴染みブーストがあるので、きっと佐山と付き合えるだろう。だが、そしたら今度はその協力者が僕達の邪魔をするかもしれないし、榊原にバラすかもしれない。
「詰みじゃないか」
そうだ!逆に榊原の事が好きで佐山と別れてもらいたい女子ならどうだろう?そのうえ足がつきにくいように、極力交遊関係の狭い所謂『ぼっち』の女子なら……。
「ってそんなヤツ、都合よくいる訳ないか」
「はぁ……」
「!!」
突然の声に驚き、振り返る。全然気が付かなかったが、窓際の一番後ろの席に一人ぽつんと女子が座っていた。彼女はどうやら僕には気が付いていないらしい。そして、アンニュイな表情で窓の外を眺めている。視線の先には練習中のサッカー部。……この状況。僕の脳内のビンゴカードに物凄いスピードで穴が開けられていく。そして。
「はぁ……榊原くん」
恋患いでもしたかのような儚げな溜め息。その瞬間、脳内の僕は勢いよく挙手すると共に元気よく叫んだ。
『ビンゴ!』
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