他人の不幸で食う飯はウマイ

 彼女のその一言に、僕は内心ガッツポーズをした。だが、そんなことは尾首おくびにも出さず、あくまで平静を装う。女子の前では極力COOLに。世の高校二年生男子の約四割はこの行動に共感してくれるだろう。


「じゃあ、決まりだな。僕達は運命共同体、この事は二人の秘密だから。わかったか?」

「うん……二人だけの秘密」

「作戦は後日考えよう。じゃ!」


 そう言って僕は足早にその場を去ろうとした。何となく恥ずかしくなってきたのだ。だが、彼女はそんな僕の制服の裾をガッチリと掴む。……何故なにゆえ!?


「連絡先、交換しよ?」

「う、うす」


 そして僕は、佐山以外で初めて女子と連絡先を交換したのだった。


「じゃあ、今度こそ帰るから」

「あ……一之瀬くん」

「次は何だよ?」

「さっき言おうとしたんだけど。一之瀬くん、『他人の不幸でご飯を食べる』って言ってたでしょ。アレ、辞めた方がいいと思うの。栄養が偏るから」

「は?」


 あれは比喩表現だということがわかっていないのか、橘は腕を組むと難しい顔で考え始めた。


「人の不幸は……そう。おやつとかならいいんじゃないかな?多分嗜好品だと思うし。……ワタシ、食べたこと無いけど。」


 真顔でそんな事を彼女は言った。……橘環たちばなたまき。やはり、変な女だ。

 その日は家に帰ると、スマートフォンを片手に悶々とした時間を過ごした。


(やはりこちらから何か送った方がいいのだろうか?)


 演説モードが解け、陰キャ高校生へと戻った僕にとって、女子とのやりとりはハードルが高過ぎる。寧ろ、ハードルと言うより反り立つ壁だ。

 そんな事を考え、メッセージアプリを閉じたり開いたりしていた僕のスマホが突然振動する。


「!!」


 何かのメッセージを受信した音。その送り主は橘環だった。


『こんばんは』

『おやすみ』


 そして、犬のスタンプ。

 送られてきたのはその三つだけ。だが、その日は何故かドキドキして浅い眠りを繰り返す羽目になった。

 そう。この時初めて知ったのだが、僕も大概チョロいのだ。

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