ピラフとジェンガと炒飯と

 翌日の休み時間。僕は級友と他愛もない雑談に花を咲かせていた。

 慣れない女子とのやりとりで疲弊した心は、男子との馬鹿話で癒すに限る。

 念のため宣言しておくが、僕は陰キャなだけであってぼっちではない。年間を通して春など訪れない僕達陰キャにとって、『群れる』という行為は非常に重要である。

 青い春を謳歌できる陽キャグループに比べ、僕達の学生生活はまさに冬の時代。その寒さを凌ぐため、身を寄せ合うのだ。


「でさ~。って、おい大和やまと。聞いてんのかよ?」


 友人の一人が僕の名を呼ぶ。僕は机に突っ伏したまま返事をする。


「おー。聞いてるよ」


 嘘である。寝不足と榊原破局作戦、それから橘とのやりとり。一度に色々な事が重なり、僕の頭の中はめちゃめちゃのぐちゃぐちゃ。人の脳内を視覚化できたのなら、きっと足の踏み場もなくなっているだろう。


「一之瀬くん」

「聞いてるって」

「昨日の続きなんだけど」

「ああ。……ん?」


 昨日の続き?それにこれは男子の声じゃ……。

 不審に思って顔をあげる。そこには、クラスの変わり者・橘環が立っていた。


「た、橘?」


 気が付くと、周囲の男子は水面に広がる波紋の如く距離をとっている。それは、橘が変わり者だからか、それとも彼等が女子に慣れていないからか……。僕も含め、後者の可能性が少しでもあることに悲しくなる。


「昨日の続きって?」

「うん。話したいことあるから、放課後ワタシの家に来て」

「……はい?」


 家に誘うなど、思春期男子からしてみれば、健全・不健全に関わらず桃色の妄想が止まらないというもの。だが、相手はあの橘環。どんな家庭がまっているのか想像もつかない。

 気が付けばクラス中がザワついている。だが、それもしかたのないことだ。


「一之瀬だっけ?アイツ何したんだよ」

「可哀想に。きっと炒飯の具にされちゃうのよ」

「いーや、ピラフだね。彼はピラフにされるんだ」


 訳のわからない心配をされる僕。アイツら実は楽しんでないか?

 ザワつくクラスメイトの様子を見て、橘がはっとした顔になる。二人の秘密だと言ったことを思い出したのだろう。彼女は突然僕の耳に顔を近づけると、囁くように耳打ちをした。


「ごめんね。みんなに聞かれちゃいけないんだった。……じゃあ放課後」


 耳が、かぁっと熱くなる。やはり彼女は、他人との距離感がバグっているようだ。

 それだけ言うと、彼女は教室の隅にある自分の机へと戻っていった。そして……、あれは……、ジェンガ?大量の文房具を使ってオリジナルのジェンガに興じているらしい。しかも、どうやら左手のみ使用可能という謎の縛りも加えているようだ。……なんでやたらストイックなんだよ。

 そんな彼女の奇行を遠巻きに眺めていると、俺の机に今度は一組の男女が寄ってくる。それは、愛しの幼馴染み・佐山瑠璃さやまるりと、憎き恋敵にして、佐山の彼氏・榊原晴臣さかきばらはるおみだった。

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性根の腐った僕が幼馴染みを取り戻す為、ぼっちの女子と手を組む話。 矢魂 @YAKON

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