JAWS SQUALL/晴れ時々サメ
平中なごん
01 突然のサメ
アメリカ合衆国フロリダ州マイアミビーチ市・Tアイランド……。
「──アハハハ、おい待てよ」
「ウフフフ…ほら、捕まえてごらんなさいよ」
美しいオレンジ色の夕日に染まる、
どちらも金髪碧眼のバービー人形が如き、いかにもな地元のセレブ層だ。
「ほうら捕まえたぞお!」
「アハハハハ…捕まっちゃった」
波の音も心地よい砂浜で、追いかけっこをしていた若い二人は、そのまま抱き合って白い砂地の上へと倒れ込む。
「ほんとステキなビーチね、オリックス」
「だろう? パパが一目惚れして買ったんだ。でも、今は僕ら二人だけのものさ、クリリーン」
温かな砂の上にゆったりと寝そべり、可愛らしい笑顔で微笑みかける彼女に対して、青年は金持ちオーラ全開に口説き文句をその口にする。
「でも、サメとかはだいじょぶなの? ここら辺、ホオジロザメが出るって聞いたんだけど」
「なあに、沖まで出なければ心配ないさ。さすがに波打ち際までは上がってこないよ」
だが、不意に不安げな表情を浮かべて安全性を心配する彼女に、青年は鼻で笑うとその懸念を一笑に付してみせる。
「あら、知らないの? 最近のサメは陸にも上がって来るのよ? 空も飛んだりするし」
「ハハハ…それはB級映画の話だろ? 現実にはあり得ないって……ま、空は飛べないけど……じつは僕、宇宙人の遺伝子で作られたサメ人間だったんだあ……」
それでも虚構と現実がごっちゃになっているちょっとおバカでカワイイ彼女に、恐ろしげな声色に変えておどけてみせる青年だったが。
「なんてね。君を食べちゃうぞお? アハハハ…ハハ……ハ……」
小芝居をやめ、高笑いをあげていた彼が急に口を開いたまま、顔の筋肉を硬直させて固まってしまう。
「もう、なにそのトンデモネタ? いくらあたしだって、そんな陰謀論者が言ってそうな話に騙されるわけないんだからね…ん? どうかしたの?」
無論、さすがにそのジョークまでを真に受けることはなく、眉間に皺を寄せると口を尖らす彼女だったが、青年は彼女の背後、斜め上方を見上げたままなおも固まっている。
「さ、サメだ……サメが空から……」
「もうなにぃ? まだあたしを騙そうとしてるのお……」
さらには目を小刻みに震わせ、譫言のようにして呟く彼に、呆れ顔の笑顔で背後を振り向いた彼女だったが。
「……え?」
その碧い瞳には、空から真っ逆さまに落ちて来る巨大なサメの姿が映り、次の瞬間、ドーン…! と大きな地響きを立てて、その巨体は地面に激しく衝突したのだ。
推定25フィート(約7.6メートル)くらいはあろうかという巨大なホオジロザメだ。
「キャアアアーッ…! んぐぅ…」
彼女は咄嗟に悲鳴をあげ、四つん這いでその場を離れようとするが、サメは落下しただけに止まらない……そのまま砂の上を蛇行して迫り来ると、彼女の身体に噛みついたのだ。
一口にパクリと下半身を飲み込んだサメは、鋭く巨大なノコギリのような歯で、彼女の肉体を一気に両断する。
「う、うわあああああーっ…!」
砂浜でのたうつ巨大なサメと、血塗れの上半身だけとなった無惨な彼女の姿を目にした青年は、すっかり血の気の失せた顔で絶叫すると、飛び起きるようにしてその場を逃げ出す。
「く、来るな! ひ、ひああああーっ…!」
しかし、道沿いに停めてあった黒いランクルまで必死に走る彼を、サメも高速で砂地を這って追いかけてくる……彼女だけでは飽き足らず、青年も喰らおうというのだ。
「は、早くかかれ! なにしてんだよ…うわあああっ…!」
なんとか自分の車までたどり着き、急いで乗り込むとキーを回す青年だったが、エンジンをかけるのに手間取っている内にも、ドン…! と後方から追突されたかの如き強い衝撃が走る……見れば、突進してきたサメがリアガラスを突き破り、その尖った鼻先が座席のすぐ後まで迫っている。
最早、ホラーかSFパニック……まるでクローン技術で蘇らせた恐竜が暴れ回る某大ヒット映画の一シーンみたいである。
「か、か、か、神さまぁあああ〜…!」
腰の抜けた青年は転がるようにして運転席から這い出し、サメが車に刺さって動けない内にと、大慌てでビーチ沿いの一本道を駆け出した──。
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