05 サメ対策(1)
「──ああ、ちょっと。私はマイアミビーチ市警のマーティー・マクフロリィー警部だ。君らはどこの部隊なんだ? 責任者とちょっと話がしたい」
救急車も到着し、救護班が負傷者の手当てに追われている中、肩に毛布をかけられたマーティー警部は兵士の一人を捕まると、取り出したバッジを見せつけながら、サメの死骸を片付けていた彼にそう言って詰め寄った。
「それは私だ! 私は合衆国海軍カルカロドン・ハンター隊のカリントー大佐だ、マクフロリィー警部」
すると、近くにいたマッチョで大柄の、某未来から来たサイボーグにも似ている一人の中年男性が、いかにも軍人らしい威圧的な口調でそれに答える。
「カルカロドン? 聞かない部隊名ですな、大佐。到着もやけに早かったし、その上、戦闘機まで投入するとは……おかげで助かったが、どうにも準備周到すぎる。あんた達はこの事態が起きることを事前に知ってたのか?」
そのマッチョな大佐を不審そうに眺めながら、相手が軍人でも気負うことなく、マーティー警部は率直に尋ねる。
「ここ最近、不可解な遺体がこの近辺で見つかっていたが、空から降ってきたサメの仕業だと考えれば合点がいく……そうか、オリックス・ギンナーンを連れ去ったのもあんた達か?」
話すうちに、これまで不可解に思っていた点と点が一つの線に繋がり、マーティー警部はその真実に思い至る。
「も、もしかしてあれか? あのよく聞く軍が秘密裏に生物兵器を開発してるとかいう……じゃあ、あのサメを造ったのもあんた達か! それで目撃したオリックス・ギンナーンを誘拐して隠蔽しようと……」
「残念ながら不正解だ。妄想が過ぎるぞ、マクフロリィー警部」
そして、よくある都市伝説の陰謀論を口にする警部であったが、カリントーと名乗るその大佐は即座にそれをキッパリと否定してみせた。
まあ、サメが空から降ってくるところからして、もう何が妄想で何が現実なのか判断に苦むところではあるのだが……。
「我々がオリックス・ギンナーン君を保護したのは彼が目撃したものについての事情聴取がしたかったのと、その目撃証言が広まることによる市民のパニックを避けるためだ。我々も不審な遺体の情報を掴み、ずっと警戒していたのだがな……まさか、このような事態に発展するとは……」
「ずっと警戒していた? ……あんた達はいったいなんなんだ?」
さらには陰謀論的妄想をも上回るカリントー大佐のトンデモな解答に、マーティー警部は動揺を隠しきれず、得体の知れない恐怖を感じながら青褪めた顔で再び尋ねた。
「我々〝カルカロドン・ハンター〟は、近年、頻繁する超常的サメ現象に対処するために組織された特殊部隊だ。まさに今回のような事件に発展する恐れのある兆候を常に監視し、やむなく発生した場合は速やかに解決するよう努めている」
「ああ! 聞いたことがあるぞ! そんな政府肝入りの特殊部隊がサメ事件の隠蔽に当たったり、宇宙人との密約同様、その真実を国民にひた隠しにしていると!」
続くカリントー大佐の説明に、今度はDr.ペーパーが興奮気味に声をあげる。
「隠蔽とは人聞きが悪い。それも深刻な市民のパニックを避けるためだ。もしも陸の上を泳ぐ人喰いザメや、ゾンビ化したサメが実在するなどという話を聞いたら、さすがに安心して日常生活を送ることなどできないだろう?」
しかし、そのありがちな陰謀論も、カリントー大佐は口籠ることなく、はっきりとした口調でまたも否定してみせた。
「まあ、隠蔽のことはともかくとして、あんたらのおかげでヤツらを撃退できたことだけは確かだ。これでもう、これ以上の危険は回避できたと考えていいんだな?」
あまりにも非現実すぎる話についていけないマーティー警部ではあったが、なんとかその頭を切り替えると、今、目の前にある確かな事実のみを考えるようにする。
「いや、話はそう簡単じゃない。さっき積乱雲を追って行ったF-22から報告があって、雲は沖合の海上で霧散して消えたそうだが、総合的判断をするに我々の撃ち込んだミサイルで消滅したわけではない。発生のメカニズムもわかっていないし、いつまた現れるかも予測できん……事態は収拾するどころか、むしろ今始まったばかりだ」
だが、安心を得たい彼のその質問も、カリントー大佐によって一蹴されてしまう。
「なんだ。そんなこともわかっていないのか? 特殊部隊にしては優秀なオブザーバーがいないようだな。わしはもうあの積乱雲の正体についてとっくに検討がついておるぞ? その消滅のさせかたもの」
と、そこへ横から口を挟んだのはDr.ペーパーだった。
「あなたは? さっきも我々の存在を知っていたような口ぶりだったが……」
なんとも大口を叩くその人物に、今さらながらにカリントー大佐はその素性を問う。
「陸棲サメ研究家のDr.ペーパー・ブラウンだ。水中以外の領域で活動できるサメについては第一人者を自負しておる。なんなら、わしがオブザーバーをやってやろうか?」
「ほう……そこまで言うのなら、ぜひともその見解を聞かせてほしいところですな、Dr.ペーパー」
大佐に訊かれて素直に答えるばかりか、あわよくば自分を売り込もうとまでするペーパーであるが、その普通聞いたらノーサンキューな世迷い事に対して、あろうことかカリントー大佐は真に受けたような態度を示してみせる。
「…え? あ、いや、相談した私が言うのもなんですが、それは時間の無駄のような気がしますがねえ……もっとまっとうな学者先生に話を聞いた方がぁ……」
「なに。今は猫の手も借りたいところだ。これから臨時作戦本部でミーティングを行う。君も来たまえ、マクフロリィー警部。捜査をしていた君の意見も聞きたいからな」
思わぬ反応のカリントー大佐にご注進申し上げるマーティー警部だが、なぜか自分までがむしろ誘われしまい、こうして二人は予想外の展開にも、〝カルカロドン・ハンター〟の作戦会議に参加することとなったのだった──。
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