奇妙な林

kou

奇妙な林

 鬱葱うっそうとした木々。

 その林を3人の小学5年生の子供達が、進んでいた。

 社会の授業での地図とコンパスを使っての、何気ない寄り道。

ちょっとした探検気分を味わいたくて、林を突っ切ることにしたのだ。

 しかし……。

 3人の子供達は迷子になってしまったのだ。

 地図では100m四方程の小さな林であるにも関わらずにだ。

 先頭を歩くのは、戸山翔とやましょう

 その後ろに水無月春斗みなづきはると

 最後尾には蔦木彩つたぎあや

「おーい! 誰か居ないか?」

 翔が大声で叫ぶも返事はない。

 暫く歩いていると、少し開けた場所に出た。

 そこは大きな木があるだけで、特に変わったところはなかった。

「何だここ?」

 現在位置を探ろうと、翔は地図とコンパスを広げる。

 コンパスの針はグルグルと回っていた。

 翔は辺りを見回す。

 この大きな木から異様な雰囲気を感じる。

 3人とも何とも言えない不安感に襲われていた。

「ここ、何か変だよ」

 彩の声を聞き、翔は目の前の木を見て奇妙なことに気がつく、木に根が生えていないのだ。

 地面に対し、木が根も生やさずに垂直に伸びている。

「何だよ、この木」

 翔は、木の周りを確認しようとして、少し回り込むと青ざめる。

 その様子に気づいた春斗と彩は、何事かと翔の後を追って気がつく。

 大きな木は地に根を張っていたが、ひらがなの《し》を描くように木が曲がっており、根の反対側から見ていたために木の根が確認できなかったのだ。

 奇妙な生え方、伸び方をしている木に3人は恐怖を覚える。

 更におかしな事に気がつき始める。

 不気味なほど静かで生き物の気配が全くない。

 鳥などの鳴き声も聞こえず、風の音すらないのだ。

 まるで、この空間だけが切り離されたような感覚に襲われる。

 位置を探ろうと枝葉に覆い尽くされた天を見上げるが、太陽の位置も分からない。

 すると白い霧のようなものが漂い出してくる。


 ドンッ


 いきなり、大きな音がした。

 3人が後ろを振り向くとそこには、木が動いているのを見た。

 木は地面から浮き上がると、場所を変えて地に突き刺さり、そしてまた浮かぶという動作を繰り返している。

 彩は、不安なままに上を見上げる。

 翔がよく見ると、木々の上に大きな影がある。

 3人が一様に気がつく。

 地に突き刺さっては抜ける木は、木ではなく二本の脚であることに。

「逃げるぞ」

 翔は提案する。

 3人の子供達は走り出す。

 その巨大なから逃れる為に必死になって走った。

 翔達が逃げ出そうとしている間にも、次々と脚は降ってくる。

 追いつかれそうになる中、小さな小屋を発見すると、翔達は、その中に逃げ込んだ。

 小屋の中は閑散としており、1m程の木の棒が転がっているだけであったが、武器になると思い翔は棒を手にする。

 外を見ると脚は通り過ぎて行くのが見えたので安心したが、まだ油断はできない。

 翔は棒から手を放し、緊張を解くと二人に話しかける。

 それは、今自分達がいる場所は普通ではないということだ。

 なので、一刻も早くここから脱出しなければならない。

 すると、春斗と彩の視線が翔ではなく、別の方向に向いていることに翔は気がつく。

 二人の顔が変に青ざめていた。

 翔は、その方向を恐る恐る見る。

 すると、そこには翔が手を放した、木の棒が垂直に立っていた。

 何の支えも無く。

 翔は、棒を少し押してみると木は倒れかかるが、釣りで使う棒浮きのようにゆっくりと起き上がっていく。

 あり得ない現象だった。

「翔!」

 春斗は窓を指差す。

 翔が背後にあった窓を振り返ろうとすると、窓枠には巨大な玉が張り付いていた。

 翔は、直感的にそれが目だと思った。

 目が合った瞬間、窓ガラスが破れ、赤い液体が流れ出し翔達に向かってきた。

「逃げろ!」

 春斗は彩の手を引っ張り、翔は棒を槍のように突き立てる。

 棒が目の一つに突き刺さる。

 どのような結果になっているか確認もしないままに、3人は小屋から逃げ出す。

 翔は棒を持ったまま走る。

 しかし、いくら走っても林からは抜けられない。

 まるで同じところを走っているかのように錯覚してしまう。

 翔達が、疲れ果て足を止めた瞬間、世界が光に包まれていた。

 気がつけば、目の前に道路があった。

 背後には、林がそびえ立っていた。

「何が起こったんだ?」

 翔の問に、

「分からない」

「私も」

 春斗と彩も呟く。

 3人共、夢でも見ていたのかと思う程、奇妙な出来事であった。

 だが翔の手には、先ほどまで持っていた木の棒が握られていた。


 【オレゴンの渦】

 アメリカ合衆国オレゴン州に、そう呼ばれる場所がある。

 開拓される以前より、先住民たちや動物が決して近づかない場所であり、迷い込んだ者は生きては出られない悪魔に呪われた地、彼らはそこを禁断の大地と呼んだ。

 そこでは木がねじ曲がり、磁石がグルグル回り、人の身長が変わり、支え無しの箒が直立したりする。重力を無視しているとしか思えない現象が発生する。


 3人の子供達は、不思議な体験をした。

 あの場所から無事に戻れたことを不思議に思う。

 この出来事は3人にとって、一生忘れられないものになった……。

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奇妙な林 kou @ms06fz0080

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