第4話「生霊さん、アクロバティックに決めてみる」
「こぉのアホタレがっ‼︎ だ〜か〜ら〜修行せいといつもゆ〜とるのに。よりにもよって自らの生霊を生み出して人様を危険に晒すとは、何たる事ぢゃっ‼︎」
「ううっ……ごめんなさいっ」
お爺ちゃんにこれまでの
「まぁまぁ……私達はこうして無事だったんです
し……ね、
「そ、そうですよ〜、それに生霊さん、今は更生して
「それは結果論ですぢゃ‼︎ もしお二人に何かあったら、ワシはご両親に何とお詫びすればよいものか……そもそもこやつは昔っから霊力だけは強いクセに精神修養のひとつもしやせんからこういう事態を引き起こすんぢゃ‼︎ いい機会ぢゃから、今度こそみっちり修行を……」
「そ……それよりお爺ちゃん、コイツの処遇は?やっぱり除霊を……」
冗談じゃない。 いくら私の未熟さが原因とはいえ、このままなし崩しに修行なんてさせられたらたまったもんじゃないよ……ここは話を逸らさなきゃ。元々コイツをどうにかする為にに来たんだし。
『ちょっと〜‼︎ あたし除霊されるような事してないよ? ね、じーちゃ〜ん。優しいじーちゃんなら何も悪い事してない可愛い孫の生霊を除霊なんかしないわよね〜?』
生霊の奴、いつの間にかお爺ちゃんにぴったり寄り添ったかと思ったら、猫撫で声でそう言いながらお爺ちゃんの腕に指先を這わせて耳に息(出ないけど)を吹きかけてる〜‼︎ 私の姿で何て事するのよ〜‼︎
「コ……コラ‼︎ よさんかっ‼︎」
と言いつつ、お爺ちゃんは耳まで真っ赤になってる。なんかすごく複雑……
「ウオッホンっ……あ〜、こやつの除霊ぢゃが……うん、無理ぢゃな」
こ、このエロジジイ……まさかコイツの色香にほだされて……え、あれ⁉︎ それって言い換えれば私の色香⁉︎ ちょっとヤダ‼︎
「コ……コラ
私の視線と表情から考えを察したのか、お爺ちゃんは必死に取り繕った。必死の態度がますます怪しい……
「ウオッホン……よいか? こやつは生霊と言ってもその辺の霊体とはワケが違う。お主の無駄にデカい霊力を触媒にしとるからか、自我まで芽生えとる」
確かに……大概の霊体の思念はこの世への未練をエンドレスで繰り返してるのがほとんどで、あとは自分を認識してくれそうな相手を見つけたら寄ってくるくらい。
まれに恨みつらみから意思を持つに至る、いわゆる悪霊なんかがいたりもするけど、コイツのそれは完全に自我と言ってもいい。
「言わばこやつは生霊であると同時に由香、お主の分身体ぢゃ。無理に除霊などしようものなら、お主の存在にまで影響しかねん」
「そんなぁ〜‼︎ それじゃ、どうすればいいのよ〜⁉︎ 」
「簡単な事ぢゃ。お主が自身の霊力を鍛えて完璧に制御出来るようになれば、こやつと再び1つに戻る事なぞ造作もない事ぢゃ」
「……お爺ちゃん⁉︎ そう言ってなし崩しに修行させようとしてるんじゃない?」
「ち、違うわアホたれ!大体お主がいつもそうやって逃げ回るからぢゃなぁ」
「そんな事言って、そもそもな話、うら若き乙女に滝行や山籠りさせようって方がどうかしてるでしょ⁉︎ じゃあ別に戻れなくていいから、コイツを実家で引き取ってくれない?こんなんじゃまともな生活もままならないんだから‼︎」
『え〜⁉︎ それひどくない〜⁉︎ 』
ひどかろうがなんだろうが、こっちには平和な生活がかかっているのだ。修行だってゴメンだし、なんとか厄介払いくらいはしなきゃ……
「愚か者‼︎ 自分が生み出した生霊ぢゃろうが。ちゃ〜んと自分で責任持って世話をせいっ‼︎」
「うっ……」
『……ちょっとじーちゃん? あたしペットじゃないんだけど……』
「それにの、先程もゆ〜たように今のお主達は元々ひとつぢゃった霊力をお互いで分け合っている状態なのぢゃ。あまり離れるのはよろしくないかもしれん」
……うそぉ〜‼︎
「共に行動する中でお互いの霊力の同調を常に心掛けるのぢゃ。時間はかかるぢゃろうが、同調率が上がっていけばいずれ元の1人に戻れるようになるぢゃろう」
「コイツと同調〜⁉︎冗談‼︎」
『別にあたしだって、このままで全然構わないし〜♪』
「そうも言っておれんぞぃ? このような特殊なケースを見るのはこのワシでも初めてなんぢゃ。この先お主達の身にどのような事が起こっても不思議ではない。どちらにせよ霊力の安定は図るに越したことはないのぢゃ」
……え⁉︎ この上まだ何か起こるって事⁉︎
「本当なら由香、お主が山籠りなり滝行なりして早急に霊力を高めて、さっさとこやつを取り込んでしまうのが1番なのぢゃが……やはりそうするかの⁉︎」
「……いや、それは断固遠慮します‼︎」
…………
………
……
「活霊さん、除霊されなくてよかったね〜♪」
「でも、この先どうなるか分からないんだったら、やっぱり元の1人に戻る事を考えなきゃいけないんだよね?」
実家を後にして、私は絶望感に打ちひしがれつつ、2人の会話を聞くとなく聞きながら歩いていた。
『まぁ、まだよくない事が起こるって決まったワケじゃないし、とりあえずこのまま離れないようにしてればOKでしょ! よろしくね、相〜棒♪』
生霊の奴が派手に私の背中を叩くが当然その手はすり抜ける。
私は一瞬、このまま実家に引き返して山籠り修行してコイツを取り込んでやろうかとも考えたが、実際そのような事、出来るはずもなかった。
「はぁ……この先、私の生活どうなっちゃうんだろ……」
『そんな悪い方にばっか考えてたら老けちゃうよ〜?』
(お前が言うな……‼︎ )
「でも由香、活霊さんの言う事も一理あると思うよ? 私だったら明るい妹が出来たと考えたら嬉しいかも……きゃあっ‼︎‼︎」
後ろから走ってきたのであろう若い男の乗る自転車が、瑞樹を一瞬掠めて走り過ぎて行った。
あまり広くない道を横に並んで歩いていた私達も私達だけど、ぶつかりそうになっておいてひと言も声掛けないなんて、なんて奴なの⁉︎
「私のバッグ‼︎‼︎」
走って行く自転車に向かって瑞樹が叫んだ。
見ると男の手には今まで瑞樹が肩から下げていたバッグが……あいつ、ひったくりだ‼︎‼︎
「こいつ‼︎ 待てーーっ‼︎‼︎」
咄嗟に走って追いかけようとしたが、いくら高校時代陸上部で足に自信がある私でも、全力で走っている自転車に追いつける訳がない。
自転車はもう先の角を曲がって視界から消えようとしている。
『あいつ、よりにもよってこのあたしがいる前で瑞樹からひったくろうとは……運のない奴ねぇ』
生霊の奴はそう言って不敵に笑ったかと思うと……
『由香、ちょいと身体借りるよっ‼︎』
(えっ⁉︎ なになに⁉︎ ちょっとーーーっ‼︎‼︎ )
そう言うが早いが生霊は私の身体にスッと入り込み、そして私の身体は私の意志とは無関係に駆け出した。
『このあたしから、逃げられると思うなよ〜‼︎』
生霊(が乗り移った私の身体)はそう叫ぶや否やジャンプ1番、手近なポストに足をかけ、更に塀の上から屋根へと次々と飛び移って行った。
(嘘嘘嘘嘘うそうそうそうそ〜〜〜‼︎‼︎‼︎ )
そして屋根から屋根へ飛び移りながら、最短距離でひったくりの自転車へ迫っていく。
(死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬしぬしぬしぬ〜〜〜‼︎‼︎‼︎ )
『……ちょっと黙っててくれる……?』
(そんな事言ったって〜〜‼︎‼︎ )
想像して欲しい……自分の身体が自分の意思とは関係なく
そして生霊(私の身体)は遂にひったくりの乗る自転車を眼下に捉え……
『ラ○ダァァァ……キイィーーックッッ‼︎‼︎』
(きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっーー‼︎‼︎‼︎ )
仮面ラ○ダーよろしく飛び降りざまにキック一閃! 反動で宙返りして華麗に着地を決めた。
………
……
その後、追いついた瑞樹と陽菜が呼んだ警察にすっかりのびているひったくり犯を引き渡す事になったのだが、どうやって追いついたかを誤魔化したり(近道して先回りした事にしておいた)だの、相手が凶器を持っていたら危険だから無茶はしないようにとお説教されたりだの、事情聴取は散々だった。
………
……
「生霊さんすご〜い! あんな事も出来るんだね〜」
『まぁね〜♪ 前に2人に迷惑かけた時も由香に取り憑いた訳だし、ま、霊体の特権ってやつ〜?』
「元の1人に戻るのとはやっぱり違うの?」
『うん、あくまでも融合じゃなくて、あたしが由香の身体を借りるだけだから。それに長時間は無理だし』
……いやいや、そこじゃないでしょ! 大事なのは私の身体を勝手に使った事でしょ? それに私の身体、何であんなアクロバティックな事が出来たの? てゆ〜か何で誰もそこツッコまないの⁉︎
「と……とりあえず、瑞樹のバッグを取り返してくれた事には礼を言っとくわ。でもね、人の身体を勝手に使ったり、それに何よ⁉︎ あのパルクールは‼︎ 何であんな事が出来るのよ⁉︎ 」
『ちゃ〜んと身体借りるよって断り入れたでしょ? あと、元々あんたの運動神経だったらビビりさえしなければあれくらいの芸当は出来るんだよ♪ 』
「いや、普通ビビるでしょ!」
『まぁ、ちょっとだけ霊力でドーピングはかけてるけどね、明日くらいに筋肉痛来ると思うけど、瑞樹のバッグを取り返せたんだから別にいいよね♪』
「……え……⁉︎」
……翌日、私が激しい筋肉痛に襲われて1日寝込む羽目になったのは言うまでもない……
生霊さんは活きがよすぎ‼︎ ツネち @tsunechi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。生霊さんは活きがよすぎ‼︎の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます