第3話「生霊さん、除霊の危機!?」

 ……私の実家は代々続く神社で、前神主でもあるお爺ちゃんは、かなり有名な霊媒師さんだ。


 そのお爺ちゃんの遺伝子を色濃く受け継いでいるのか、私は幼い頃から並外れて霊感が強かった。


 お爺ちゃんには私の能力ちからの事は周りに内緒にするように言われていたけど、その意味がわからずにどうしても自慢したかった幼い私は、当時すごく仲の良かった友達に得意げに霊能力の事を打ち明けた。


……そして結果、すごく気味悪がられた(注:いきなりそこにオバケがいるよとか死んだお婆ちゃんが守ってくれてるよ、なんて言われたら普通誰でも引くよね〜)。


 以来、私は自分の能力ちからの事を誰にも話す事なく、普通の女の子として振る舞った。


 むしろ普通の女の子らしく(注:普通!?)友達同士の怪談には積極的に首を突っ込み(注:ながら、集まって来た浮遊霊達に人知れずガンを飛ばし)、心霊スポットで肝試しがあれば参加して(注:そこにいる地縛霊が悪さをしないように隠れて睨みを効かせて)いた。



……ってコラッ!! 人のモノローグに勝手に割り込んでいらん註釈いれるなっ!!



『(なんで〜? ホントの事じゃん♪)』



 お爺ちゃんは、霊能力を受け継がなかった現神主のお父さんに代わって私を自らの後継者にしたいらしく、何かと私に修行をさせようとしてきたけど私はいつも逃げ回っていた。

 高校卒業と同時に親戚の経営するアパートを格安で借りて、地元なのに一人暮らしを始めたのもその為だ。


 巻き込んでしまった瑞樹みずき陽菜はるなにはちゃんと伝えなきゃと何度もカミングアウトしようとしたけど、踏ん切りがつかずに結局ここまでずるずる引っ張ってきた。


 そうしているうちにまたこんなヤツまで出てきてしまった。

 この先またどんな事態に巻き込んでしまうかもわからないし、やっぱりちゃんと話さなきゃ……



…………


………




「おっはよ〜♪ あれ? 活霊いきりょうさん、ここにいたんだ〜」


由香ゆかおはよう♪ どうしたの? 改まって話って」



 2人に部屋に来てもらい、私は意を決してずっと黙っていた自分の秘密を打ち明けた。



…………


………



「何? 改まって話があるって言うからてっきり恋の相談かもって期待してたのに、なんだそんな事かぁ〜、今更じゃ〜ん」


「へっ……!?」



 私は最悪気味悪がられても仕方がないと覚悟して打ち明けたのに、何? このリアクション、ど〜ゆ〜コト!?



「今更って……知ってたの? なんで?」


「あはは……ほら、由香のお爺さんがすごい霊能力者さんなのは有名な話だし、こんな生霊を生み出しちゃうんだから由香も絶対雷能力高いよね、って陽菜と話してたの」


「由香がその辺触れないから、もし由香に自覚なかったらショックかも? って私達もあえて言わなかったんだよね〜」



 んな……それじゃあ私のこのひと月の悩みって一体……


 生霊の奴が後ろでふわふわ浮かびながら腹を抱えて爆笑している。



「ま、まぁ、わかってたのなら話は早いわ。実は今から私の実家に一緒に着いてきて欲しいのよ」


「実家? 確か神社さんだよね?」



 それを聞いた途端、今まで爆笑していた生霊が血相を変えて食い付いてきた。


『あんたまさか、あたしを除霊しようなんて考えてないでしょうね!?』


「まさかも何も、あんたをこのままほっとく訳には行かないでしょ?」


『(ヤバっ……爺ちゃんから逃げ回ってるコイツがまさか自ら爺ちゃんとこに行こうとするとは思わなかった。ちょっとからかい過ぎたか

な……)』


『瑞樹〜、陽菜〜、あたし消えたくないよぉ』



 生霊のヤツはこれでもかってくらい悲しげな顔でで2人に訴えかけた。私と同じ顔だけになんか腹立つ……!!



「由香、さすがに除霊はやり過ぎなんじゃないかなぁ」


「そ〜だよ〜、活霊さん面白いし」


(コイツ、まんまと2人の情につけこみやがった……)


『(フッ……1人で実家に行きにくいからって2人を呼んだのが、あんたのミスだよ)』


「あ〜もう、わかったわよ! でも一応本当に害とかがないか観てもらって、お爺ちゃんが要除霊って判断したら、その時は覚悟しなよ!?」



……もうこうなったらお爺ちゃんの判断にかけるしかない。最悪でもコイツを引き取ってもらわなきゃ……



「大丈夫だよ〜、ちゃ〜んと私らが弁護したげるから〜」


「活霊さん、全然悪い感じも怖い感じもしないからきっと大丈夫だよ!」


『2人とも、ありがと〜♪』



……なんか、すっかり打ち解けてない? 先月、あんだけ怖い目に遭わされたんだよ? 瑞樹なんか怖いのまるでダメななのに……



 そんなこんなで私達は私の実家である神社へ向かう事になった。



「そういえばあんた、私はともかくなんでこの2人に見えてんの?」


『さぁ? 多分2人とは深く関わったから、霊的な繋がりかなんかが出来たんじゃない?』


「じゃない? ってあんた、まさか他の人にも見えてるなんて事ないでしょうね!?」


『それはないよ〜、だから気を付けないと由香、痛い人になっちゃうよ〜?』



 ハッとなって周囲を見回せば、道行く通行人が皆私に注目している。

 周りから見れば、私は何もない虚空に向かって食ってかかっているアブナイ人にしか見えていないだろう。

 いつの間にか、瑞樹達まで私と少し距離を取ってるし……ヒドイ。



…………


………



「そ〜いえば、由香のお爺ちゃんってどんな人なの? やっぱ怖い感じ?」


 実家である神社の鳥居の前で不意に陽菜が質問してきた。


「有名な霊媒師さんって話だし、厳格そうなイメージだよね?」



 瑞樹も陽菜に同意する。



「ん〜、なんて言うか……変わり者、かなぁ?」



 そう言いかけた瞬間……



「くぉらぁぁっっ!!修行もせんと遊び呆けとる不良娘が、何しに帰ってきおったぁぁぁ!!!」



 私のすぐ後ろから突然、耳をつんざくばかりの絶叫が鳴り響いた。



「!?!?!?!?!?」



 本日2度目の至近距離からの絶叫不意打ちに、今度こそきっかり1秒は心臓が止まった気がした。



「ふぉっふぉっふぉっ♪ 注意力散漫ぢゃぞ!? 由香、やはりまだまだ修行が必要なようぢゃな」



 振り返るとそこには立派な白髪と髭の老人が、風格をたたえた姿で立っていた。



「お、お爺ちゃん……ただいま」


「うむ、よう帰った。ようやく本格的に修行する気になったのぢゃな?」


「いや、そうじゃなくて……」


「ん? お主達は由香の友達かの? おぉ、よ〜来なさったのぅ〜! 」



 お爺ちゃんは瑞樹達に気付くと、私への態度とは打って変わって好々爺こうこうやオーラ全開で2人に話しかけた。



「あはは……初めまして」


「こ、こんにちは〜」



 2人共、圧倒されているのかドン引きしているのか、なんとも言えない表情だ。


 しかし、そんなムードも束の間。お爺ちゃんは改めて私の方に向き直ると私の後ろの空間を一瞥いちべつし、一言こう告げた。



「時に由香、お主……いつから双子になった?」



 その鋭い眼差しは、今しがた瑞樹達へ向けられたものとは全く違う、凄腕霊媒師のそれだった……

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