スコッパーの戦術

 今回書くことは、めちゃくちゃ個人的な考えで、個人的な経験に基づく仮説だ。数ある考え方や攻略法の一つ、くらいに読んで欲しい。


 今流行ってる人気ジャンルでランキングに入るチャンスがあるような作品については、今から言うことはあまり当てはまらない。そっち方面は、いろんな人がランキングの攻略法を書いてるし参考になるだろう。


 ランキング攻略においてはスコッパーの心理はほとんど考慮しなくていいと思う。ランキングは圧倒的に読み専の数の暴力が強くて、スコッパー1人の力など塵みたいなもんだ。ここにゲリラ戦の入る余地はない。


 それに、ランキングに上がるような作品の読者の多くをしめるライトな読み専ってのは、基本的に読まれてるものを読む。

 これは審美眼がないとかそういう意味ではなくてプレイスタイルから来るタイパの問題だ。彼らは日常生活の中の限られた時間で、無数にある娯楽の中から web 小説を選んで、さらに無数にある作品からいずれかを読む。

 そうなれば、ランキングの上から見て星が沢山ついてるやつを読むのが当然効率いい。


 普通に考えろ。仮に食通でもなんでもない忙しいあなたが腹を満たしたくて、土地勘のない出張先で限られた時間で飯屋を探してるとする。食べログや Twitter での評判や Google のレビューを見てあまりにも評価が低い店は足切りするはずだ。すぐ行けそうで評価が高い店があれば行くだろう。

 もし、手頃な店が見つかりそうもなかったらとりあえず腹を満たすのに、牛丼チェーンやファストフードに行くかもしれない。すぐ食えるし、少なくとも失敗することはないからだ。

 これは別に、あなたに審美眼がないからではない。

 時間に追われていても敢えて何も調べないで怪しい店に突撃する奴もいるだろうが、多数派ではないだろう。


 時間のない読者はあらすじでさえ読まないかもしれない。さらっと読めるキャッチコピーや長文タイトルが重要になる。どんなメニューを出してるのか一目でわかるようにして「この店は◯◯を食べたいあなたにとって失敗がないですよ」とするわけだ。

 ランキングを支えている読者の多くはそういう層だ。だから、星二桁、下手したら三桁の作品だって統計的に時間の無駄になる可能性が高いと判断され、はなから読まれない。


 さらに、人間は流行ってる店ほど気楽に評価するという厳しい現実がある。


 何かの間違いで流行ってない店に入ってしまい、たまたま美味しかったとしても「流行ってないから、星つけるの勇気いるな」ってなる。

 逆にめちゃくちゃ客が入っていたら注文して届く前から星つける奴だっているかもしれない。

 星 0 を星 3 にするのは、スコップ慣れしてる自分でも「俺はこれが好きなんだ」と意識がいつもより少し必要になる。一般化された正しさではなく、自分の好きで星をつけようという慣れが無いと、人はなかなか流行っていないものに評価しない。


 客が入ってない、評価以前に統計的な判断ができるほど読まれてもいない作品に多数派を呼び込むことは無理ゲーだ。

 埋もれてしまったならまずは先に彼らの足切りに合わないくらいには評価を稼ぐ必要がある。カクヨムで言えば、星三桁くらいまでどうやって伸ばすかという話だ。

 これは完全にゲリラ戦の領分であり、有効な戦術もランキング戦とは異なるだろう。


 前提として「足切りされない星さえ稼げれば、時間のない大多数の読み専に読んでもらえるだけの質と内容がある」作品であることは当然としている。ので、いかにそのような良い作品を書くかって話は俺はしてないし、

 自作はそのレベルにないので、読ませることにそこまで強い意欲を持てず、戦術とかさして考えてない。


 だから、このエピソードのタイトルは〈スコッパーの戦術〉なのだ。

 読まれる作品を書けなくても、読まれる可能性を秘めた作品を見つけることはできる。そして、伸ばすこともできる。


「この作品は星さえ伸びれば一般読者も釣れるはず。それだけのパワーがあるのに埋まってる。どうにかしてやりたい」


 って話だ。本当に伸ばしたい作品のレビューを書く時は多少考えてる。というか、最近多少考えるようになった。


 それじゃ、俺たちの戦い方を見ていこうか。



♦︎



 さて。本当に人がいないなここは。


 まず客層が違うよな。

 変わった属性を探してる客。殆どの有名店は食べ尽くしてしまい、隠れた名店を探してる客。


 そんなことをわざわざする時点でそこそこ時間がある連中なので、あらすじも読んでくれる可能性が高い。ので、ランキングのような主戦場よりもあらすじの影響は高くなるはずだ。少なくとも俺がスコップするときは読んでる。


 現実問題として、マイナージャンルやマイナー癖は作品数が少ない。ランキングを漁るのとは違い、全くふるいにかけられていない検索結果のうち、一定以上の面白さにある作品率はさらに低い。

 ただでも少ないのに、あらすじは読まないとか短文タイトル/長文タイトルを無条件に対象から外すとかしてると、スコップの成果が上がりにくい。

 ワンチャンタイトル詐欺かもと思って貪欲に探して一話くらいは読んでいくくらいじゃないと見つかるものも見つからない。


 したがって、スコッパーを相手にするなら、長文タイトルのみへの依存は低くなるはずだ。

「うちは味噌ラーメンにだけは絶対の自信がある!」とわかるような端的に売りがわかるタイトルなら、むしろ短文タイトルであることが、こだわりのある店のような雰囲気を醸して魅力になるケースもあり得るだろう。


 ホラーなどでは、読者の好奇心を刺激するタイトルや不条理を含んだタイトルも有効になる。これは昔のスパムメールがとっていた戦術にも近い。「うちのおばあちゃんが拾ってきた猫がおかしいんです」「主人が宇宙人に……」みたいなスパムメールがネットの黎明期にはあった。


「いやいやいや、長文タイトルが絶対だよ」と言いたくなるのはわかるのだが、それはランキング主戦場での絶対であって、客層が異なるゲリラ戦だと異なるって話な。

 特にカクヨムの場合、キャッチコピーもあるし。


 キャッチコピー、タイトル、あらすじ。あるいはレビュー。看板となるこれに、何を書くか。そういう客層を釣るために有効なことは何か。


 ランキング主戦場であれば、第一に目立って、誰でも引っかからないで読めるキャッチとタイトルが重要だ。

 逆に、既に埋まってしまった作品ならどうか。


 マニアックすぎるために埋まってるタイプなら、そのこだわりをタイトルやキャッチ、あらすじ冒頭(検索結果で出る文字数)のいずれかに含めてほしい。スコッパー視点だとわりと切実に。

 ランキング主戦場なら「目が滑る」「万人が理解できるわけではない」として避けられる「マニアならピンとくる用語」も場合によっては選択に入るだろう。


 マニアックな癖を飢えて血眼で探している読み手に「ここにあなたの欲しい栄養素があります!」と知らせなければ話にならない。

 これがタグだけでわかるジャンルならまだいいんだが、人外みたいに反対する趣味が多様に一つのタグに押し込められてるジャンルだと厳しい。なので、たいあらキャッチレビューで、栄養素表示しておくのは有効だ。というかして欲しい。こういうあらすじを野暮だと思う作者がいるのもわかるのだけどね。



 カクヨムではマイナー属性の PV はめちゃくちゃ絶望的で、更新が止まると月一桁とか普通にある。

 この状態で有効な導線は――


(相互評価系の活動については言及しない。あれはスコッパー的にはノイズでしかないと俺は思ってる。口汚く言うと「スコップして見つけた作品に本気で星つけてるやつを、単なる営業とみなす教え」を広めてる俺にとってクソ面倒なカルトだ。これ以上はノーコメント)



・新着レビュー


 俺はちょくちょく新着レビューを見てる。「時間が無いけどライトにスコップしたい」というときかなり効率の良い手段だからだ。あと新着レビューは意外と流れるのが遅い。

 レビューはフォロワーに通知もいくしね。(フォロワーのレビュー通知うぜえ!で止めてる人もいそうだけど)


・スコッパーの近況ノートで紹介される


 カクヨムには人の近況ノートを楽しんでる奴がそこそこいるようだ。俺のような弱小読者の近況ノートにさえ、時々フォロワーでもない全く縁のない人のいいねがつくので驚く。

 そしてそのいいねつけた赤の他人が紹介先の作品をフォローしてたりするし、そのあとレビュー書いてくれることもある。


 ああそうだ。「他者の作品を紹介するのが規約違反になるからできない」って思って、紹介したいのにしてないならめちゃくちゃ勿体無いぞ。たまにそういう話をみるのだが、ガイドラインにも規約にもそんな項目はない。当然警告を食らったこともない。グレーでさえないからな。


「小説の執筆活動と関係のない営業、宣伝、勧誘、募集行為」は出会い系やアフィに使われるのを防ぐための条項らしい。これについては問い合わせて確認された方がいるので、そちらをどうぞ。

参考: https://kakuyomu.jp/works/1177354054889095417/episodes/1177354054934765822


「読まれて欲しい! 応援したい!」というとっておきの他人の作品、今風に言えば推しか。そういうのあったらじゃんじゃん近況ノートで紹介してけ。


・スコップのための自主企画に参加して企画主に読んでもらう


 この手のは企画主が読むための企画なので、癖に合致すれば読まれる。俺もそういう企画立てて読んでる。「◯◯で△△な××ください!」みたいな企画がそう。細かく癖指定してるのは大体そうかなと。

 漠然とした本棚企画は参加しても殆ど読まれることないと思う。相互はしらん。相互系の企画多すぎなのでフィルタできるようにならねぇかな……


・関連小説に出る


 これは意図的にやるのは難しいのでノーコメント。


 まぁ、このへんだろう。


 で、近況ノートで紹介するにしてもレビューを書くにしても大事なことがある。

 埋まってるけど推したいという作品は、所謂テンプレではなかったり、マイナージャンルや属性であることも多いはずだ。


 世の中には自分が好きなジャンルや癖を書いたらたまたまマイナー属性だったって人がいる。

「読まれないものを書くなんて頭がおかしい」みたいな勘違いをされがちなのは「彼らはマイナーなものが好きなひねくれものなのだ」と思われやすいからだろうか。


 逆なのだ、逆。

 好きの気持ちはマイナー属性好きな人もメジャー属性好きな人も同じで、好きで書いてる気持ちも同じで、その楽しさも同じ。

 ただ人の好みは色々だから「たまたま好きがマイナー属性だった人」が当然いるってだけ。

 彼らは別に世の中に喧嘩売ってるわけじゃない。まぁ、喧嘩売ってる人もいないとは言い切れないが。


 このあたりの話は

https://kakuyomu.jp/works/16817330649645904183/episodes/16818023212584661920

(当エッセイ中の一話なのでエピソードへのリンクになってます。PV 食わせたくねぇ!って方は踏まないように)

 で散々書いたので、このへんにしておく。


 散々書いたのに何故再度触れたかと言うと、ここを勘違いしてると勘違いしたレビューを書きがちだからだ。


 この理屈はスコッパーの心理にも当然適用される。「スコッパーは世間に喧嘩を売りたい」わけでもなく「流行ってないものが好き」や「流行ってるものが嫌い」なわけでもない。

「自分が欲しい栄養素が探さないとない」だけなのだ。あるいは「流行ってる店は食べ尽くしたので旅をしている」とか。もちろん例外もいると思うが、逆張りアンチみたいな動機でスコッパーやり続けるとか相当心を病みそうなので、それが多数派だとはちょっと思えない。

 あー、自分の好きを語るのではなく、ひたすら流行り物への恨みつらみ非難を書いてるエッセイとかもあるので、いないことはないんだろうが。まぁ、闇にはちかづかんどこ。


 ここを拗らせると「テンプレではない素晴らしい作品! そのへんのランキングにあるような駄作とは違う!」みたいな拗らせたレビュー書きがちで、そのレビューを読んで釣れる人も拗らせた人なので、悪循環なんすよ。


 結論を言うとゲリラ戦では、スコッパーを釣るレビューや近況ノートでの紹介が強い。スコッパーがレビューを書き、それに釣られたスコッパーがレビューを書くってのが星一桁〜二桁あたりの有効なゲリラ戦術だと思う。


 で、さっきの話。ここで「スコッパーって拗らせてる人らのことでしょ。テンプレ否定しとけば釣れるよね」って勘違いすると、好きを探してるスコッパーでなくて拗らせマンが釣れちゃう。

 どっちのタイプがレビュー書くかって話よ。


「うおおお! ここに癖の鉱脈があるぞおお! 旨い旨い旨いっ。◯◯好きなみんなー!きてくれー!」「なんてこった! ここには〜も〜もあるっ」ってレビューに釣られて来るようなタイプの方が、拗らせマンよりレビュー書く気がするんだが、これも偏見か?


 あと、レビューを書くようなスコッパーって文章を読み慣れてて長文読む時間ある人だろうから、ネットのノリだと「長い。3行で」「で?」「キモwww」「怪文書かw」ってスルーされがちな長文レビューも有効打になりやすい。

「よくわかんねーけど、これだけの熱意のある固定客いるなら悪い店じゃなさそうだなー」って雰囲気は出せる。

 実際、長文レビュー書いた後にフォロー増えてるのを見てるので、完全スルーの無意味ではない。


 ようは、ゲリラ戦ではイノベーターやアーリーアダプターを釣るようなレビューも比較的有効になるってことだ。早い話がマニア向けな。


 そうやって〈レビューや近況ノートで紹介して導線を作って、レビューを書きそうな読み手を釣って、正の循環にする〉のが星 0〜二桁あたりのゲリラ戦でスコッパーの取れる、有効な戦術だと思ってる。


 とはいえ、今までしっかり考えてレビューしてきたかというとそうでもない。正直勢いでやってた。最近考えないとなぁと思い始めた。まぁ、なのでこれを書いたのだが。



♦︎



 とにかく、推し作品が伸びるのを眺めるのはクソ楽しい。


 先日のノートでも書いたが、ともすればこれは、他人の作品に無賃乗車しているコスい楽しみ方だ。だが、よほど変なレビューを書いたりしないかぎり、作者とスコッパーと新たな読者の三者間で得しかない。


「一度埋まってしまったら、一生這い上がれない」よく言われることだ。実際、殆どの作品にそれは当てはまる。だが、例外はちょくちょくある。

 なろうのアクセス解析は作者以外でも日付指定や月別で過去のアクセス数を見返せる。人気作の過去のアクセス数を見ると、数ヶ月〜一年もの潜伏期間を置いているものもある。最近の極端なケースだと魔女と傭兵とか。

 スコッパー一人一人の力の積み重ねが、奇跡に繋がる可能性はゼロではないのだ。


 読まれる作品を書けなくても、読まれる可能性を秘めた作品を見つけることはできる。そして、伸ばすこともできる。


 どんどん、他人の作品に無賃乗車していきたいものだ。

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絵は描けるが文が書けない人間が十万字書けるようになった覚書 八軒 @neko-nyan-nyan

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