最終話






 * * *



 教会のある小さな農村の一角で、親子は仲睦まじく生活を営んだ。

 髪こそ肩より先に伸びることはなかったが、淑やかな女へ成長していくエイリスはいつも、村民の話題の中心にいた。

 何人もの男が求婚し話題になったが、彼女は生涯独身をつらぬいたという。どれほど結納金を積まれようとも、どれほど地位と名声のある相手であっても、けして婚姻を誘う言葉に対し、首を縦に振らなかった。

 そして最期は修道女となって人々に奉仕し、孤児達に見送られ天へ召されたという。

 親交の深かった友人たちは、彼女の心を射止めるのは無理だと、冗談半分に周囲へ伝えていたほどだった。


 それほどに彼女が求婚を断る際、必ず口にした言葉がある。

 それは全てを伴い愛を捧げた、一人の婚約者のことであったという──。


 

「ごめんなさい。わたしには、わたしの生涯を越えて愛する、婚約者さまがいるんです。……命と等しく愛おしい、天翔あまかける白馬の婚約者さまが」













 

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天翔る白馬の婚約者さま 向野こはる @koharun910

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