光(ヒーロー)に憧れて

彁面ライターUFO

光(ヒーロー)に憧れて



「夜景の光は、遅くまで残業を頑張る社員たちによって作られてるんだぞ」

 

「はぁ……けんって本ッ当に空気読めないよね。 彼女との楽しいデート中にそういうこと言う? 普通」

 

 呆れ顔でツッコむと、謙は何故か嬉しそうに微笑んだ。

 駅の屋上にあるこの小さな広場は、私たちのお気に入りの場所だった。ここには私たち以外にも、仕事帰りのサラリーマンや老夫婦、カップルなんかがたくさん居る。人々の安息の地、って感じの場所だ。洒落たオレンジ色の照明が、石段や草木を淡く照らしている。暖色系の光の下で、人々は、そして私たちは、温かい空気に包まれていた。

 

「いや、悪い意味とかじゃなくて。 ほら、あそこで働く人たちのお蔭で、俺たちはこうして夜景を楽しめる訳だろ? 俺もそうやって、誰かに感謝されるような人になりたいな、って思うんだ。 ……今残業してる人たちが、見ず知らずの俺たちから「夜景を見せてくれてありがとう」って、変なことで感謝されてるみたいに、さ」

 

 夜景を見つめるフリをして、ガラス越しに映る謙の横顔をチラッと見た。謙の瞳は、光る街並みを真っ直ぐに見下ろし、まるで世界を穏やかに見守る老成した神様みたいだった。

 

「皆を救うヒーローに、とまでは言わないよ。 ただ……少なくとも、みことのことを守れるヒーローでは在りたい、かな」

 

「はいはい。 私は謙くんに守られてるお蔭で、健やかで幸福な生活を送れてますよー」

 

「ははっ、何か言わせてる感」

 

 

 ━━━━その時だった。

 

 爆音と、立ち込める黒煙が、ガラス向こうの光彩を一瞬にして消し去った。悲鳴と、サイレンと、緊急避難のアナウンスが街を包む。闇が渦巻く街中を、タコみたいな形をした怪物が飛び回っていた。

 ━━━━━━魔獣だ。

 

「尊ッ!!」

 

 呆気に取られながら突っ立っていると、いきなり両肩をギュッと強く掴まれた。振り返るとそこには、真剣な眼差しをした謙の姿があった。

 

「尊は先に逃げて! 俺は、ここに居る人たちを避難させてから行く!」

 

 そう言って、謙は広場の中央へと走り去っていった。爆発の影響か、広場の照明は消えて真っ暗になっている。そんな中、謙の掲げるスマホのライトが、妖精の光みたいにキラキラと辺りを舞っていた。

 

「全く……そうやっていつも一丁前にヒーローしてくれちゃって」

 

 「尊は先に逃げて」という、いつものセリフ。ずるいと思いつつも、やっぱり胸がキュンと疼いてしまう。私は、そうやって今までに何度も助けられてきた。

 

「だから……私も。 私も、謙みたいなヒーローに……!」

 

 暗闇の中を、避難経路とは逆方向に走って行く。フェンスをよじ登り、巻き立つ煙混じりの風に身を任せるように飛び降りる。

 右手に、変身携帯。そして左手には、謙と繋いでいた手の温もりを握りしめて。

 

 

 ━━━━━そして私は、暗闇を照らす一縷の光となった。

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