世界一になるため

ゲーム好きの魚

第1話 妄想よりも現実

「これが最終ゲームとなるのか、世界一を決めるにふさわしい決勝戦となりました。」


チームメイトが次々と相手を倒し、そして倒されていく。

相手チームの残るメンバーは一人、こちらも自分ひとり。

相手を倒せばここで勝利ってな。


「最後に決めるのは、もちろんこの人エスウェーブだ!」


実況の大きな声とともに、会場は割れんばかりの歓声を上げている


そう、ついに俺たちが世界一になったんだ……


「ってそんな妄想しても意味ないか。」


飲みかけのコーヒーを片手に窓の外を見つつつぶやいた。


妄想はさておき、俺は一応プロゲーマーといわれる存在だ。

現在日本ではeスポーツは盛んで、俺がやってるゲームにおいては、各県に一つチームをおいているほどだ。


そんな状況もあって、プロゲーマーといっても割と珍しい職業でもなくなってたりする。


別のジャンルでは、日本チームが世界一というの結構見る光景だ。

だけど俺たちがやっているFPSの分野では、いまだ世界一は取れていない。


俺がプロになって3年、チームは最高順位4位と世界大会には出られないものの、日本では一応強豪という立ち位置だ

今年はリーダーこと杉さんのの調子が悪く、ベスト16での敗退だ。

一応地区予選は抜けたけど決勝トーナメントの初戦敗退って感じかな。


シーズンも終わって早々、来シーズンに向けた会議が始まり、今日最終報告があるということで、メンバー全員が集まっていた


ちなみにチームメンバーは五人

一番年上でチームのキャプテンでもある、杉内孝也(25歳)、ゲーム内ネームはSugi

最年少でインゲームリーダー※1の矢沢大河(19歳) ゲーム内ネームはTiger

どんな時でもチームを盛り上げる白羽達也(23歳) ゲーム内ネームはwing

寡黙なエースの酒井敏明(20歳) ゲーム内ネームはShake

そして俺、糸波 翔(21歳) ゲーム内ネームswave


少し重苦しい雰囲気の中、杉さんが口を開いた。

「実は俺今年で引退しようと思っている」


「いやいやいや、ちょっと調子悪いぐらいで引退とか、日和すぎちゃいます?」

達也が次の言葉を言わせない速さで反応する。


「ほんとそれ」

「ちょっと調子悪いぐらいで引退なんかしたら、この世からプロゲーマーはいなくなってますよ」

全員がそれに合わせて、反応を返す


「みんなありがとう。当然俺だって引退なんかしたくない。」


「だったらなんで……。」


「ありがとうな。でも大河、お前が一番わかってるんじゃないか?

 俺の動きが他のメンバーとかなりずれが出ていることに。」


「それはでも、今回調子が悪かっただけでしょ。」


「いや、調子は今までで一番良かったと俺自身は思ってるよ。」


「えっ!?」


「お前らに俺がついていけなくなったんだよ。悔しいけどさぁ。」


俺たちの戦略は、ソロでプレイしていると馬鹿にされていることが多々ある。

ゲーム内のリーダーの指示も「倒せ、引け、行け」とか非常に簡単なものだったりする。


もちろん、作戦を決めてプレイすることもあるし、コーチやアナリスト達が対戦相手を分析し弱点や強みを教えてくれている。


だが、頭の悪い我々は、最終的には各々の感覚で押し切ったほうが強いのだ。


「それでも引退なんてまだ早いよ。チームからも抜けろなんて言われてないでしょ。」


「その通りだ。お前が引退するのはコーチとしては認められない。」

部屋に入ってきたコーチは開口一番そう言ったのだ。


「盗み聞きなんて趣味悪いですよ、コーチ。」


少し茶化すように言った俺を一瞥したコーチは

「いや、元から相談はされてたんだよ。」

とくそ真面目に返してきた。


「来年に向けてだが、運営からはチームメンバーの変更を要求されている。

ということで杉、お前にはサブメンバーに回ってもらう。」


「コーチ、俺このチームで出来ることなんてもうないよ。」


「本当にチームにかかわりたくないなら、引退してもいい。でもお前はそうじゃないだろ?それに俺一人じゃ、こいつらの面倒見切れないんだ、頼むよ。」


「わかりました。そういうことなら、もう一年頑張らさせてもらいます。」

そういった杉さんは少しほっとしたような表情していた。


「杉さんがサブメンバーってことは、新しいメンバーはもう決まってたりするんですか?僕より年下だったりしますか?」


「大河、残念ながらお前はまだ最年少のままだ。といってもまだ本決まりでもないんで、続報は来月以降かな。というわけで今日は解散だ。」


新たなチームメンバーの合流から、俺のゲーム人生が大きく変わっていくことになることを今はまだわかっていなかったのだ。

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