第四師団の策謀


 幸いなことに──いや、今回の場合は不幸な事にか。


 周囲から戦闘音がしない。

 つまり、第四部隊もボク二番隊も遠く離れた場所にいるということ。

 この森の中はそこまで広くないからその内遭遇できる筈だけど、この状況でむやみやたらと動き回るのは得策じゃない。


 互いを代表して一人探索へ、といきたいところだけど……


「お前たちの内誰かと二人きりになるのは流石にまだ無理だ。こちらから三人引き抜いて向かわせるのはどうだ?」

「……ま、そうだよね」

「お前達から一人引き抜いても良いが……そうなると、そっちも警戒しないといけなくなるだろう」


 その通りだ。

 気絶している隊長を見張るためにはボクら三人の中から一人選んでいる。

 仮に彼らの中に裏切り者がいたら隊長の拘束を解くかもしれないと念には念を入れた形で、彼らもそれに納得している。


 だから、機動力で言えばペーネロープを斥候に出したいんだけど、それをするとボクかジンしか残らなくなる。


 そうなればパワーバランスが傾く恐れがあるから向こうの騎士から三人出すよ、って話に繋がる訳だ。


 混乱しているとは言っても少しずつ回復してきたようで何よりだね。

 代表して交渉してくれる騎士は中々頭の回転が早く優秀だ。


「それでいこう。……しかし、第四部隊はどこに行ったのやら」

「機動力がウリだからな。軽い陣地構築をしてそこを転々と移動し続けるって戦法が基本だ」

「おおう、それを言ってもいいの?」

「隠したところで防げるようなものではない」


 自信たっぷりだ。

 確かに、隊長の裏切りが無ければもっと苦戦を強いられていただろう。


「それに我々は仲間という訳ではないが、敵同士という訳でもないさ」

「……ふうん。君はボクらに責任があるとは考えてないんだね」

「少し頭が冷えた。それだけだ」


 そう言って遺体を見てから、改めて隊長を見た。


「……彼との付き合いは長い?」

「……大体、四年程。真面目な男で、妻子がいる」

「殺された人は?」

「仲は悪くない。プライベートでの付き合いは無かったが、職務に忠実な奴だった」


 なるほどね。

 計画的に殺された訳ではないっぽい。

 暫くこの膠着状態が続くだろうし、仲を深めつつ情報を引き出していくのが良さげだ。


「隊長は元々魔法を?」

「いや…………全く。自慢気に魔道具が反応しないと語っていたし、俺達もそれをみていた。だから余計わからなかったんだ」


 …………ふうん。

 魔力が無かった男が、唐突に魔法を使った。

 そして恐らくその魔法本来の使い方では無かった。

 これは実際に魔法を使った事のある人間にしかわからない感覚かもね。


「その魔道具は本物だったのかな……」


 気になるのはそこだ。

 魔力の無かった人間に魔力を生やすのは可能なのか。

 少なくともボクの知識でそれを行うのは無理だという結論が出ている。


 ……ボク自身、もう一回勉強し直さないとダメかも。


「人が変わったりも、していない。……これが本当に、第四師団の…………?」


 騎士は不安そうに呟いた。

 腐敗が進んでいる、というのは共通認識であっても、まさかここまで堂々とやらかしてくるとは思わなかったんだろうね。

 これも第二師団にとってはプラスの出来事だけど張本人からすればたまったものじゃない筈だ。

 もしもここでケリをつける為に第四師団が戦いを仕掛けてきていれば、我々は為すすべなく壊滅していたかもしれない。


 そうはならなかった。


 未然に防げる領域でしかなかった。


「────そうだ。一つ言えるのは、彼の死に意味はあったってことさ」


 励ましにすらならない。

 それでもボクが今言える言葉はそれくらいだった。

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