交渉と推理


 小休止する暇も無く、ボクとジンは他の騎士達と協力して死体を確認した。


 捕縛された隊長から魔力の反応もない。

 これ以上絞り出したら彼が命を絶つだろうと予想して、そうさせないためにペーネロープに見張らせてる。

 不審な動きをしたら即座に無力化してくれるはずだ、こういう時魔力持ちがもう一人居てよかったと思うね。


「さて…………」


 ここからの動きはどうしようか。


「…………なあ」

「うん?」

「お前、アーサー・エスペランサだったか」

「そうだよ。君達の隊長が目の敵にしていた男さ」


 その理由は知りたいけど最優先じゃない。


 ボクが今一番確定させたいのは、他に第四師団の人間がいるかどうかだ。

 マルティナが見に来てるからそりゃ居るんだけどさ。

 この場に居るかどうか。


 つまり、この騎士達に第四師団の魔の手が伸びているのかってことを知りたい。


 話しかけてきた騎士は僅かに躊躇うように、少しボクと遺体を交互に見てから言葉にした。


「正直……何がなんだか、わかってない。ただ一つだけ確かなのは、隊長はあいつを殺して、お前は隊長を殺さなかった。おかしくないか……」

「その認識で間違いないよ。ジン、袋は流石に……ないよね」

「……………………」


 ジンは無言で首を横に振った。


「現状ボクが理解している事は三つ。第四部隊の隊長格に、第四師団から金を受け取りボクらの暗殺を請け負う人物が居たこと。そしてその人物が仲間を殺したこと、あとは……」


 一枚岩ではないと彼は言った。


 ボーイ、そう名乗る人物。

 レディを名乗ったマルティナと酷似する。

 だけどマルティナは直接的に害を与えようとはしてこなかったし、ハンスがこんな回りくどい手段を取るとは思えない。


 ここから推察できるのは、『ハンス以外の大隊長若しくはそれ以上の権限を持つ人物がボクら黄金騎士団を害そうとした』という事実。マルティナはこの状況をどう見る……? 


 死んだ彼と殺さざるを得なかった隊長には同情するけど、ボクにとってかなりの情報だ。


 ああ、くそっ! 

 これで人が死んでなければ手放しで喜べたのに────……と、危ない。


 思考が偏っている。


 それはよくない。

 思考の偏りはそれだけ状況判断と思考にノイズが生まれる。


 ハンスに対する手札はともかくとして、今の整理をしよう。


「まず大事なのは、現状は最悪ではないってことだね」


 彼らの部隊から見れば最悪だろう。

 でも第二師団としては最悪じゃない。

 事を起こす前──つまり、ボクら黄金騎士団が中心となって第四師団と全面対立する前に、スパイが潜んでいると全体に通知できるのは大きい。


 ただそれを伝えて向こうがそれを知ってどう動くか。

 普通ならバレた事を悟って別の手段に移ると思うんだけど、こんな滅茶苦茶強引な手段で詰めて来ようとするような相手だ。

 安易な予測は良くないかも。


「……出来れば、君達の大隊長とボクらの大隊長にこの話を伝えたい。勿論この場にいた人間全員一緒だ」

「……俺は、お前が何者なのかもわかっていない。信用は出来ない」

「だから全員で行くんだ。ボクが嘘を吐いて君達を悪者に仕立て上げる可能性も、君達の誰かが第四師団の関係者だった可能性もある。それを防ぐには一緒に一番上に報告するしかないだろう?」


 向こうは仲間を殺されている。

 しかも顔見知りであり上司だった人間が突然殺した。

 混乱するのも無理は無く、ボクらも情報を確定として取り扱うのは中々に神経を使う。


 ジンがボクの話を遮らない辺り、そこら辺を一任すると姉上に言われているのかもしれない。それとも彼女自身の判断か。


「ボクはアーサー・エスペランサ。魔法使いだけど第二師団に所属してるんだけど、知ってる?」

「名前くらいは……だけど、おかしいだろう。魔法使いを殺しにどうして魔法使いが?」

「それも含めて、師団内に共有するときが来たのかもしれないんだ。だから協力して欲しい」


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