急襲


 つまり。

 彼らの狙いは最初からボク、ないしは第二師団の崩壊であり。

 既に手は打っていたって事だね。


「うおおおおおおおっ!!」


 炎剣を振りかざし迫ってくる敵に対し光の槍を投げる。


 魔法同士のぶつかり合いならまだ自信があるけど、相手の攻撃は物理混じりだからな……


 そこまで有利は取れない。

 さっき作った極太槍を力いっぱいぶん投げて無理矢理解決する他ないね。

 これも急造の手だし、次を考えるには――


「ペーネロープ! 周りをよろしく!」

「あとで全部説明しなさいよっ!」


 ペーネロープは周囲で呆然としている騎士達に走って行った。

 

 それでいい。

 ここで一番問題なのは、ボクが本当に彼を殺したと偶然見られることだ。

 炎剣は特徴的だけど、さっきド派手に光の槍を投げまくったのが裏目に出てる。この隊長格の敵が『アーサー・エスペランサが殺した』と叫べば反論できる材料が無いからね。


 しかしまあ……

 隊長格にまで第四師団の手が及んでるんだから、姉上の判断は正解だったと言わざるを得ない。


 数年間自浄をしっかりと行って黄金騎士団オロ・カヴァリエーレを私物化したのはなんていい判断何だと言いたくなるね。


 炎剣と光の槍が衝突し、大きな衝撃が木々を薙ぎ倒していく。

 籠めた魔力の量は出し惜しみしてないし、ただのぶつかり合いで負けるほど惰弱ではない。

 

「ぐっ……!」

「ジン!」

「――――……!」


 魔力の押し合いには勝てる。

 ならあとは物理を抑えるだけで、それを成すのは我が隊自慢の剣豪ジン・ミナガワ。

 

 二剣を構え地を這うような低さで接近するそれを、敵の隊長格はしっかりと視認した。


光の槍エスペランサ】を横に逸らし、その進路にあった木々が次々と消滅していく。あれが流れ弾としてどこにも当たらない事を祈るぜ……!


「――【閃光デステロ】!」


 光の指向性を絞り、敵の視界にだけ集中させた閃光を放つ。


 ジンなら正面からでも問題ないだろうけど、最悪なのはジンの攻撃を踏みつぶされた時だ。


 敵は殺す気で来ている。

 仲間の命を奪った時点でもう引き返せない。

 ペーネロープが周囲の騎士を戦闘から引き剥がしている今、暴れられるとマズい。

 状況が呑み込めなくなった第四部隊の騎士達が敵対する、それは避けないと。


 そしてジンが戦闘不能になるのが最も避けたい未来だ。


 彼女がフロントを張れなくなった瞬間ボク達は崩壊する。


 だからどうにかして、ジンだけを支援し続けなければならない。


 僅かに頭が痛む。

 少し、考え過ぎだな。


「【加速イグニッション】!!」


 ジンの肉体に強化と加速を付与する。

 他者に対する魔力、魔法付与はあまり慣れてないんだ。

 だから暴発しないようにゆっくりと、華をもてなすように丁重に扱う。君の肉体を勝手に覗き見る事を許しておくれ。


 こちらに振り向くことなくボクの付与した魔法に一瞬身をよじらせたものの、即座に適合し更に速度を増す。


「な――――ッ」


 魔力で強化したボクの視界からも消え去って、ジンは一迅の風になる。

 彼女が手に握った灰色の剣だけがその残光を以て存在の証明をして、敵隊長格の鎧をズタズタに切り刻んでいく。


 灰刃、ジン・ミナガワ。

 その名に一切の偽りなく、その強さをここで証明した。


 ――ならば、そんな彼女が信頼をなぜか寄せてくれるボクは。


 それを上回る証明をしてみせなければね。


「――――【光の槍エスペランサ】」


 光を圧縮する。

 右手に握った剣を手放して、両手で抑え込む様に光を練り込んだ。

 バチバチと発光しながら歪んでいく光は暴発するように時折眩い光を瞬かせ、それでいてボクの両手から零れる事は無い。


「いや…………もう、槍なんて呼べやしないな」


 切り札の一つ。

 魔力石を用いなければかなり苦しいけど、まあ、自前の魔力何て最悪無理矢理引き出せばいい。

 死ぬかもしれないけど死なない可能性の方が高いんだから、利用しない手はないよね。


光散弾バラ・エスペランサ……!」


 光が瞬く。


 ジンはボクの攻撃を察して、敵隊長格の視線を背後へと引いてくれていた。


 ありがとう。

 どうやらボクと君の相性はかなりいいらしい。

 ――仲間と一緒に協力するってのは、こういう気分なんだね。


「悪くない」


 無防備に晒された背中に対して、足に【加速】を付与して接近した。


「ぐっ……!?」

「死にはしないよ。死ぬほど痛いけど」


 そして――――その全てを、一瞬で解き放つ。


 ――――ゴシャッッッ!!!


 人体から発せられてはマズイであろう音が周囲に鳴り響き、彼自身の肉体が木に衝突する。

 

 鎧は既にボロボロだ。

 その身体を守る直接的な盾は無く、行動不能に追い込んだのは間違いない。

 彼が一体何者で、誰から直接的な支援を得ていたのかはまだ知らないけど――とりあえず、一難去ったというところか。


 ペーネロープは騎士達の説得を終わらせてくれたらしく、混乱は少しずつ収まりつつある。


 死んだ騎士の亡骸も、確認しないと。

 魔力が切れかけで休みたいのに休めない。

 ああ、くそったれめ。魔法使いは長期戦に向かないって結論が出てるだろう。


「……………………ん」


 座り込んで休むボクのところに、隊長を捕縛したジンがやってきた。


 手を差し伸べられている。

 立ち上がりたくないんだけど……


「…………違う。よく、やった……」

「……ああ。ジンこそ」

「…………いい、援護」

「熟練の兵士に褒められると、すこしむず痒いね」

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