俺達の未来はきっとこれからも明るい。
一年の終わりというのは十二月である訳だが、俺達にとっての区切りとなるのは三月だ。
一つの学年が終わり、次の学年へと進級する。その区切りとなるのが、三月なのだ。
以前までは、その区切りに対して、大した感情は抱いていなかった。
学年が一つ上がる。それ以上でもそれ以下でもない時だった。
そもそも俺は、一つの学年を全うできるかもわからない立場だった。転校を繰り返した俺にとって、学年の終わりというものは特別な区切りではなかったのかもしれない。
「思い返してみると、早いものだな」
「うん。そうかもしれないね」
終業式が終わってから、俺と由佳はそのような会話を交わしていた。
一年という期間はとても長い期間であったはずなのに、今となっては一瞬の出来事だったように思えてくる。
楽しい時間はあっという間に過ぎるなんてことは、わかっていたつもりだった。だが改めて振り返っていくと、なんだか笑えてくる。
「楽しかった」
そんな俺の口から出たのは、そんな単純な一言だけだった。
ただ、それ以上の言葉なんて必要ないだろう。今の俺の気持ちを表すのには、その一言だけで充分だ。
「私も楽しかったなぁ……ろーくんのおかげだね?」
「いや、それを言うなら、俺が楽しかったのは由佳のおかげだ」
「ふふ、それならお互い様ってことだね?」
「そういうことになるか」
一つの区切りに物悲しさを感じながらも、清々しさも感じている。
今日という日を迎えられたことが良かった。柄にもなく、俺はそんなことを思っている。
そのように思えるようになったのは、由佳と再会したからだろう。彼女は俺の世界をいつも明るくしてくれた。そしてきっとこれからも、明るくしてくれる。
「来年も楽しい一日になるといいな……」
「うん。でも、少し不安なことがあるんだ」
「不安?」
「来年、同じクラスになれるかな?」
「それは……」
由佳は、不安そうな顔をしていた。
その気持ちは、理解できる。確かに、クラス替えというのは一大事だ。
今までそれに何かを感じたことがなかったため、すっかり忘れていた。
「まあ、こればかりは俺達が決められることではないからな……」
「そうだよね……」
当然のことながら、できれば由佳と同じクラスになりたいと思う。
ただ、これに関しては祈る以外にできることはない。だから祈っておこう。由佳と来年も同じクラスで過ごせますようにと。
◇◇◇
「日記?」
「うん。実はね、毎日つけていたんだ」
「書いている所を見たことがないんだが……」
「見られるのは少し恥ずかしかったから、一人の時に書いていたんだ」
「そうだったのか……」
由佳の言葉に、俺は驚いていた。
彼女が日記をつけているなんて、初耳である。
まあ、日記というものは滅多なことがなければ、人に見せるものではない。秘密にしていても、何もおかしくはないことであるだろう。
「……いつのから見てもらおうかな?」
「何?」
由佳は、クローゼットの中から取り出した可愛らしい箱の中から、ノートを取り出していた。
それは恐らく、由佳が今までつけてきた日記なのだろう。
しかし今、彼女はなんと言っただろうか。見てもらおうかな、ということは、まさか俺に日記を読ませてくれるのだろうか。
「見てもいいのか?」
「うん。そのつもりでつけていたんだもん」
「そのつもりで?」
「離れている間に何をしていたのかとか、ろーくんに知らせたくって」
「それは……」
由佳が日記をつけていた理由に、俺は固まっていた。
彼女は、俺と再会できることを信じて日記をつけてくれていたのだ。
それはなんとも、嬉しい事実である。彼女は本当に、長い間俺のことを想い続けてくれていたのだ。それを俺は、また改めて実感していた。
「由佳……」
「え? ろ、ろーくん?」
「お礼を言うのも変かもしれないが、ありがとう」
俺は、由佳を後ろからそっと抱きしめてお礼を伝えた。
彼女の心遣いは、本当にありがたいとしか言いようがない。
「……私が勝手にやっていたことだけど、ろーくんに喜んでもらえたなら良かったかな?」
「読むのは少し気が引けるような気もするが……」
「ううん、遠慮なく読んで欲しいな。そのために書いたものだから」
「そうか……」
由佳は少し頬を赤らめながらも、俺に日記を渡してきた。
俺はそれを読ませてもらうことにする。彼女が俺のために書いてくれたのだ。心して読まなければならない。別れていた間のことを噛みしめながら。
「それじゃあ、ろーくん、一緒に読もっか」
「ああ、そうしよう」
由佳は、俺にゆっくりと体を預けてきた。
俺はそんな彼女の温もりを感じながら、日記を開く。
それから俺は、彼女の日記を読んでいった。そこに書かれた様々なことに、俺は笑顔を浮かべるのだった。
◇◇◇
「なんだか、すごく安心した」
「ああ、本当によかった」
春休みが終わって登校してきた俺と由佳は、無事に同じクラスになることができたという事実に安堵していた。
それについては、春休みの間ずっと不安だったことである。由佳と違うクラスになっていたら、きっとかなり落ち込んでいただろう。
「それにしても、見知った面子が多いな」
「うん。皆一緒なんて、楽しそうだね?」
「ああ、とても楽しそうだな……」
同じクラスには、四条や竜太、それに四条一派の面々や江藤や七海などもいる。
そんな見知った顔ばかりのクラスで一年間を過ごすのは、とても楽しそうだ。
「これから一年、また一緒に頑張ろうね、ろーくん」
「……ああ」
そして何より、俺の傍には由佳がいてくれる。
それが俺にとっては、何よりも嬉しいことだ。
丁度一年前のあの日から、俺の人生は一変した。由佳という太陽は、きっと俺のこれからの人生を照らし続けてくれるだろう。
そんなことを思いながら、俺は新たなる一年の始まりに心を躍らせるのだった。
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最後までお読みいただきありがとうございます。
本作品はこれで改めて完結とさせていただきます。
長い間お付き合いいただき、誠にありがとうございました。
結婚の約束をした幼馴染と再会しましたが、陽キャになりすぎていて近寄れません。 木山楽斗 @N420
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