これからも(由佳視点)
ろーくんが転校してから、私の生活はかなり変わった。
私の人生におけるろーくんの比重が高かったことなんて、わかっていたことだけれど、それでもダメージは大きかったと思う。
ただ幸いなことに、私には友達がいた。
ろーくんのお陰で少し社交的になれたから、私は友情によって少しずつ元気を取り戻すことができたのだ。
その中でも、榊原風子ちゃんとは特に仲が良かった。
私と風子ちゃんのタイプは随分と違ったけれど、不思議と気が合ったのだ。
ろーくんが転校してからは、ずっと彼女と過ごしていたような気がする。
しかし風子ちゃんとは、小学校までしか同じ時間を過ごすことができなかった。
諸々の事情もあって、風子ちゃんは私とは別の中学校に進学することになったのだ。
一番仲が良い友達と別れることになるのは、正直辛かった。
ろーくんといい、私は仲が良い人と別れることになることが多い。そう考えて、小学校の卒業式前くらいは、よく落ち込んでいたものだ。
とはいえ、風子ちゃんは別に引っ越しをしたりする訳ではないため、そこまで絶望的な別れという訳でもなかった。
連絡先もきちんと交換しているし、会おうと思えば会える。そんな状態であったため、私は心機一転して頑張ることができそうだった。
そんな私は、中学校に入学した。
私はそこで、四条舞と出会ったのである。
「それじゃあ、その髪は染めてるんだ?」
「ええ、私はそうね」
私と舞は、出席番号が並んでいて入学式の時には席が隣だった。
そういう位置関係もあって、舞が話しかけてきてくれたのだ。
そこからはなんというか、すらすらと話をすることができた。私は舞とも、不思議と気が合ったのだ。
「立浪竜太っていう小学校の頃からの付き合いの奴がいるんだけど、そいつが金髪で……まあ、そいつは地毛なんだけど」
「地毛? すごいね。外国人なの?」
「血が入っているのは、入っているみたいね」
その舞の知り合いである竜太君とも、程なくして知り合うことになった。
後に翔真君や孝則君と知り合うのも、竜太君からの繋がりだ。
千夜や涼音と知り合ったのも、舞との出会いがきっかけだといえる。彼女の金髪に興味を持った千夜が、声をかけてきたのだ。
ろーくんがよく言う四条一派という集まりは、そこから始まった。
まあ、私達としては一派というか、仲が良いメンバーで集まっているというだけなので、そんなに大きなことでもないとは思っているけれど。
「私も染めてみようかな……」
「へえ、瀬川さんもそういうのには興味があるんだ? どんな色に染めたいとかあるの?」
「うーん……ピンク色かな?」
髪の毛を染めるという発想は、当時の私にはないものだった。
でも舞を見て、そうしてみたいと思うようになった。その理由は、いくつかある。
ただ一番の理由はやっぱり、ろーくんに見つけてもらうためだった。ろーくんに似合うと言ってもらったこともあるけれど、ピンク色という目立つ色を選んだのもそれが理由だ。
もちろん、ろーくんがどこにいるのかもわからないし、髪の毛を染めたくらいで再会に繋がる可能性は低い。
それでも私は、できることをしようと思っていた。もしも町中とかでろーくんと出会った時に、気付いてもらえるようにしておきたかったのだ。
実際の所、それが再会に繋がったのかは定かではなかった。
だから、それについてろーくんに聞いてみたことがある。
「言われてみれば、確かにその色が目立っていたから、俺は由佳のことを認識したのかもしれないな……」
「やっぱり、そう?」
「ああ、というか四条一派が目立っていたからな」
「……そっか。効果がない訳ではなかったんだね」
ろーくんの言葉に、私は少しだけ複雑な気持ちになった。
よく考えてみれば、私が目立たずろーくんに気付かれなければ、ろーくんが私のことを避けるようなことはしなかったと思うからだ。
そうなっていたら、学校で偶然顔を合わせて、一年早く再会できていたかもしれない。たらればの話なので、考えても仕方ないことだけれど、そう思ってしまう。
「由佳」
「あっ……」
そんな風に考えていたら、ろーくんに抱き寄せられていた。
多分、私の後悔を察してくれたのだろう。それはなんというか、とても嬉しい。
そうやってろーくんの温もりを感じていると、過去のことがそこまで気にならなくなった。
そんなことを気にするよりも、今のろーくんと一緒に過ごせる時間を楽しむ方がいいと思えるようになったのだ。
ろーくんの温もりを感じながら、私はそっと思い出していた。二年生の四月、ろーくんに再会した時のことを。
あの出会いから、私の日常というものは大きく変化することになった。今までも楽しかったけれど、より輝かしい毎日を送れるようになったのだ。
あの時の衝撃は、今でも鮮明に覚えている。
同じ学校に通っているはずがないと思っていたろーくんが、いたのだ。とても驚いたし、とても感激した。あそこまで驚くことは、今後の人生でないと思える程の衝撃だったと思う。
でも、ここ一年で一番強く記憶に残っているのは、その場面という訳ではない。
それよりももっと、記憶に残っているのは、ろーくんに告白された時の記憶だ。
あの時から、輝かしかった私の毎日はさらに輝かしくなって、幸せが溢れるようになった。その幸せは、今でも確かに続いている。
「由佳、どうかしたのか?」
「あ、うん。なんだか、ここ一年のことを思い出していて……」
「ここ一年?」
「ろーくんと出会って、告白されて、それからすごく楽しかったなぁって。付き合ってから一年は、もう少し先ではあるけど、再会してからはもう一年近く経つんだよ?」
「確かに、もう一か月くらいすれば、あれから一年経つのか……」
私の言葉に、ろーくんは少し驚いているようだった。
その気持ちは、よく理解できる。私も、一年経つという事実に、感慨深さのようなものを覚えていたからだ。
「といっても、付き合ったのもそれから一か月くらいしてからのことだからな」
「それはそうだね……えっと、再会したのが四月七日で、付き合ったのが五月三日だから」
「正確には、一か月も経っていないのか。再会してから、早すぎるな。あの時は、色々と思っていたことがあったはずなんだが」
そこでろーくんは、苦笑いを浮かべていた。
いくらなんでも、再会してから付き合うのが早すぎると思っているのだろう。
でも、そんなことはないと思っている。だって、お互いに別れてからずっと積もってきた想いがあったのだから、その年月を考えると、むしろ遅すぎるくらいだ。
「一週間くらいでも、良かったって私は思っているよ?」
「そうなのか?」
「うん。その期間で、ろーくんは変わってないってわかったし、そこから一歩踏み出せなかったのは、私に勇気がなかったからで」
「……よく考えてみれば、俺もそうだったかもしれないな。一緒に遊園地に行った時くらいには、もう憂いは消えていたか」
「うん、そうだね」
実際の所、私は再会した当日くらいにはもう心を決めていたと思う。
少し話しただけで、ろーくんはろーくんだとわかっていたし、それは多分ろーくんだって同じだったはずだ。
でも多分、その時点では告白するのはお互いに無理だったと思う。再会してから初めてのデートで、観覧車の中で話すまでは、もやもやが残っていたはずだ。
ただ逆に考えると、そこからは気にすることなんて一つもなかった。
もっと早く告白していても、結果は変わらなかったと思う。
しかし、それは今だから言えることだった。当時は断られるかもしれないと尻込みしていた訳ではあるし。
「舞とか竜太君とかに聞いても、遅すぎたくらいだって言われるし」
「それはそうだな……ああ、今でも覚えているよ。あの二人に最初詰められた時は、とても怖かった」
「それについては、舞が結構気にしているみたいだから、あんまり言わないであげてね」
「もちろんだ。今はもう、友人だからな」
舞は私のことをいつも大切に思ってくれている人だ。
一番の親友だと、私も思っている。中学で出会ってから、舞はずっと親身に私の話を聞いてくれていた。
だからこそ、ろーくんには少し厳しい所があるかもしれない。でもきっと、ろーくんのことを誰よりも認めてくれているのは、舞だと思う。
「さてと、それで由佳、今日が何の日であるかを覚えているだろうか?」
「うん、もちろん覚えているよ」
「そうか。それなら、由佳にお返しだ。何を返すかは悩んだが……」
「これは……マカロンだね?」
「ああ、お返しにも色々と意味があるらしいからな。その中でも良さそうなものを選んだつもりだ」
「ありがとう。すごく嬉しい」
私も、ホワイトデーのお返しについては調べていた。
マカロンには、「あなたは特別な人」という意味があるようだ。ろーくんにそう思ってもらえていることは、何よりも嬉しい。
「……ろーくん、キスしてもいい?」
「ああ、構わない」
「うん。それじゃあ……」
私は、ろーくんのことが大好きだ。
これからもずっと一緒にいたいと思っている。
いや、そんなことでは駄目かもしれない。ろーくんを逃がさない。それくらいの気概でいる方がいいだろうか。
そんなことを考えながら、私はろーくんとキスをした。
幸せと嬉しさで、どんどんと気持ちが昂ってくる。今日もこれから、ろーくんと長い時間を過ごすことになりそうだ。
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最後までお読みいただきありがとうございます。
今回の更新はこれだけです。
次回の更新は3月下旬を予定しています。また次回の更新が、最後の更新になると思います。
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