行商人ウーゴ

 俺や村長、それとショウドを含めた何人かの村人は村の入口へ移動して、馬車の到着を待ち構えた。

 そのうち、オンボロ馬車が入口に到着する。

 しかし、運転していたスキンヘッドの大男はこちらに挨拶をするわけでもなく、自分の世界に入り込んだようにずっと大声で鼻唄はなうたを口ずさんでいた。

「フンフンフ~ン♪ ウーゴは向かうよ、どこへだって~♪」

「あの~……」

 とりあえず声をかけてみたが、気付く気配はない。

「フンフンフ~ン♪ なぜならウーゴは行商人だから~♪」

「ちょっと、すみませーん」

「フンフンフ~ン♪ そう、ウーゴは世界一のなのさ~♪」

「すみませーん! ちょっと、おい!」

「オオオオオ!! ウーゴはアキンドなのさアァァァァ!!」

「うるせぇっ!!」

「おっと! そのような大声を出して、どうしたのですかな?」

 コイツ、やっとこっちに気付いたぞ……っていうかそれは俺のセリフなんだけど。

 気を取り直して、俺は謎の大男――ウーゴ? とやらに素性すじょうを尋ねる。

「あの、ウーゴさんでしたっけ? この村になんの用ですか?」

「おや、どうして私の名前を?」

 お前が自分でうたってたんじゃねぇか!!

 随分ずいぶんとマイペースな男だな……と思いながら俺は質問を重ねる。

「さっきの鼻唄でそう言っていたので。で、あなたはいったい?」

「はい。私はウーゴと申します。大陸をあてもなく旅するしがない行商人です」

 ウーゴはそう言って丁寧に一礼した。


 行商人ね……

 ちらっと村長を見たら、「こんな男は知らない」とばかりに首を横に振っていた。

 こいつからはもっと話を聞く必要がありそうだな。

「俺はトーアと言います。で、こっちはこの村の村長」

 そう紹介すると村長はペコリと頭を下げたが、それきり何も言わなかった。俺が話せってことね。

「ウーゴさんは行商人って言ってましたけど、この村に来るのは初めてですよね?」

「ええ。こちらの地方へあきないをするようになったのは最近のことですから」

 丁寧な態度で質問に答えるウーゴ。最初は変な奴って印象だったけど、意外と紳士的な性格なのかもしれない。

「どういうルートでここへ?」

「まず港町のサバルから出発して、地図を頼りに各地の村をめぐっております。ポポル、シカハラ、ヤエビス、ユラ……ユラの村では入口の前で門番に追い返されてしまいましたがね。こちらはおそらく、ハテノとお見受けしますが」

 もう一度村長のほうを見ると、小さく頷いた。地名に嘘はないらしい。

「確かに、ここはハテノ村です。つまり、あなたはここへ商売しに来たと?」

「左様でございます」

 ウーゴが慇懃いんぎんに一礼した。

「そうですか……ところで、何を売っているんですか?」

です」

「ほとんど……なんでも?」

「ええ。武器に道具に薬に骨董こっとう以外は取り揃えております」

 完全に非合法、ね。なんか引っかかる言い方だな。

 その言い方だと、は売ってるって意味に聞こえないか?

 いや、ちょっとした非合法ってのがなんなのかは分からないけどさ。

 すると、ここまで静観を決めていた村長が初めて口を開いた。

「ならば、食料は取り扱っておるのかの?」

「ええ、もちろんですとも。小麦やいもはもちろん、肉に野菜に魚、各地の特産物や、めったに口にできないような珍味もございますよ」

「!」

 マジか。

 これは渡りに船ってやつじゃないか?

 このウーゴからうまいこと食料を買えれば、え死にはまぬかれるかもしれない。

 村のお金はもうそれほど残ってないが、それでも多少は買えるはず。持ち合わせが足りなかったら、手形を作ってもいい。行商人なんだ。多少の無理なお願いは聞いてくれるだろう。

 ただ、ちょっと気になったことがある。

って言ってましたが、そんなに多くの品物を扱っているようには見えないんですけど」

 そう。このオンボロ馬車にそれほどの大荷物を積めるようには見えなかったのだ。

 しかしウーゴはにっこりと余裕のある笑みを浮かべた。

「ご心配には及びません。品物は全て《《ここ》》に揃っております」

 そう言ってポンポンと自分の胸を叩く。


「……まさかポケットに入ってる、なんて言いませんよね」

 俺は冗談のつもりでそう言ったのだが、なんとウーゴは首を縦に振った。

「ほぼ正解です。私はを使えるんですよ」

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辺境の村のチートな “偽” 領主 ~真の領主が無能すぎるので丸ごと乗っ取って領民を幸せに導くことにしました~ 冬藤 師走(とうどう しわす) @shiwasu8

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