エヴァンデイズガーデン〜禁断の赤い果実〜

アメノウタ

第1章 プロローグ 〜悪魔が生まれた日〜

「うわぁ…まじか。」


 俺の目に映ったもの。

 ‥‥それは何年、いや何千年経ったら、ここまで大きくなるんだっていうぐらいの超絶巨大な大樹だった。


 そのあまりのファンタジーすぎる光景に、圧倒されてしまった俺は、その場に呆然と立ち尽くしてしまう。



「すげぇ、‥‥こんな初めて見たわ。」


 現在、俺が居るこの場所だが、全く身に覚えのない荒地で、普段から住みなれた街の風景などは見えず、身に覚えのない平原が延々と続いている。


 だけど、そんな何もない平原にあきらかに目立ったものが二つある。


 まず一つが、目の前に聳え立っている大樹。

 これはもう…、見上げ過ぎて思わず俺の首が地についてしまうんじゃないかってぐらいにすげぇ高い。


 そしてもう一つは、たまに広い公園とかで見かける様な休憩所に似ていた。四つの石柱に円形型の屋根で、だいぶ簡易的な石作りで出来ていた。


 でも、この四阿には肝心な物が足りなかった。それは人が休憩する上で最も必要である椅子やテーブルが置いていない…、例えるなら西洋のガゼボが一番似ていて、それが一番近い答えだろう。


「これ確か、四阿‥‥だったか?」



 そして、俺が目を覚ましたのもこの四阿なのだが‥正直な所、なんで自分がこんな所に居るのか『此処』が何処なのか何も分かっていない。


 ‥なんだか。昔流行ってた異世界物なんかを想像してしまうけど、いざ実際にそんな空想上の話が目の前に現れると、話がぶっ飛び過ぎてて現実味がない。



 シリリーン〜(音色)‥‥‥ピカッ‼︎(光)


 

 「‥ッ?!」



 一瞬、どこからか音色?‥みたいな音が聴こえた気がしたが、それはすぐに聴こえなくなり、その矢先に四阿から激しい光が溢れ出す。


 それは、四阿を中心に俺を‥いや、此処ら一帯全てを飲み込みこもうとする。


 突然の出来事とあまりの眩しさから反射的に反応して、俺は手のひらを光を遮るために顔の前にかざすようにして守る形をとったが、それは遮ることはできず、俺はあっという間に光に飲み込まれてしまう。



「…ッ、何がどうなったんだよぉー!!」



ーーしばらしくて。



 「と、止まった‥‥のか?」

 


 数分経つと光は、四阿に吸収されたかの様に消え去って、とても静かだった。


 目の前で光に当てられた俺の視力は、目を開く事が出来ず、周囲の距離感覚を失ったのもあって、歩く事さえもままならない‥。

 手を伸ばして側にある石の柱に手をつき、身体を預ける様にして視力の回復を待った。



 ーーー数分経つと、ある程度視力が回復しぼんやりと周りが見える様になった。


 ‥ッ、あれ?


 発光を浴びる前と比べると妙に、身体が重かなっている様な‥‥だが、変化はそれだけではなかった。

 先ほどまで、何もなかった四阿の石畳に何かが落ちている。


 俺は、預けていた身体を柱から離して、ゆっくりとそれの前に近づいた。

 


 「は?、これって‥‥‥林檎か?」

 

 俺はその場に腰を下ろして、それを拾いあげる。

 見た目も特に変わった様子はない、近所のスーパーとかで売ってあるような普通の林檎。


 だけど、その普通なのが妙な不気味さを漂わせていた。


 「おい、誰かいるんだろッ?!いい加減にしてくれよ!!」


 痺れを切らした俺は、今までであげた事のないぐらい大声で叫んだが、俺が求める『誰か』からの返事はなかった。

 


「どうしろって言うんだよ…もしかして、もう俺はすでに死んでいるとかか?」


 俺はそのまま果実を片手に、その場で固まってしまう。



グゥ〜…♬


 

 怒ろうが、悲しかろうが俺の身体は正直だった。思えば、起きてからずっと何も口にしていない。

 正直、ものすごく腹は減っているし、喉なんて渇きすぎて、目の前の林檎を見るだけで唾液が溢れてくる。


 ‥‥俺は、握った果実をジッと見つめる。



ゴクリッ…。



 俺は果実を子供がおもちゃのボールで遊ぶかの様に手の内で転がしてみる。



「ふ…ふはははッ、何だよ!やっぱ普通の果実じゃねえか!」



 見た感じは、至って何の変哲もない普通の果実。

 でも何故か果実から全く目が離せない。


 よくよく見てみると果実は水々しく、妙に美味そうだ。今ではさっきよりも口の中は唾液でいっぱいになっている。

 俺は抑えきれず、恐る恐るそれにガブりと口をつける。



 …ッ?!、な…なな何だこれえぇ?!




「う、うんめぇええ〜??!!」


 こ、こんなの今まで食べた事がないぞ…?!シャクっとした食感はよく見知った果実と全くと言って良いほど同じだが、噛めば噛むほどに果汁の一滴一滴が、口の中で花火のように暴れ回る。それに何と言っても芳醇な香りが、これでもかと言うほどに、口いっぱいに広がる。あと、極め付けは果実を飲み込むと同時にさっきまでカラカラだった喉は、……いや違うな、これは身体全身が潤っていく様な、まさに神の果物だ。



 そう、それはたった一口。


 これが俺の何かを大きく変えてしまう入り口だとは、その時は何も知らずに……。


 それからの俺はもう止まらなかった。


 手に持った果実に貪りつき、涎は垂らし、果汁でベッタリな口元、もはや食べ方なんか気にしない!というか何も考えたくない!!

 

 その後、俺は果実の芯を除いて手に残った果汁まで、残さず綺麗に食べつくした。



「はぁ‥‥」


 何故かわからないが、あの果実を口にするまで、不安や焦りとか半端じゃなかったのに、それがまったくない。 

 むしろ精神、身体共に段々と、力がみなぎっていくかの様だった。


「ふぅ…、こんな美味いもん食ったの初めてかもしれないな…。」


 満たされた事で、色々と思考がスムーズに回っていく。


(まてよ?もしかしたら誰かが、ここにくるかも知れない、それにこういう場合はその場から動かない方が消防隊とか自衛隊とかが、救助しやすいとか、何かのニュースでやっていた様な気がするぞ?)

 

 果実を口にしたからか、以前よりも前向きな思考になっていく。


「よしっ!そうと決まれば、…へへっ、なら此処ら、いったいいっちょ調べてみっか!!」



 それからの俺は、四阿を拠点として救助が来るまで動かず、此処で待つことに決めた。



−−その日の夜。


 どうやら此処は、辺りが暗くなると昼間と違って一段と冷え込むらしい、俺が着ているこの白い服なんかは、かなり薄い生地で絶対に耐えきれない程の寒さのはずなんだが、この四阿の中では不思議と暖かく、安心して夜を越せた。



−−2日目。


 昨日と何も変わらず、立派な大樹は堂々とずっしりと聳え立っている。


 空を見上げてみたが、大樹は雲を突き抜けるぐらいに相当高く、どこまで続いているのか見当もつかない。

 その日は、大樹付近を白み潰しに散策してみたが、何の成果も得られなかった。


−−3日目。


 どうやら此処は人はおろか、生き物とかも居ないみたいだ。


 少しだけ四阿から離れて、少し高い丘の様な所から周辺を見渡してみるが、永遠と続きつそうな荒地を見てさすがに諦めがついた。


 (はぁ…あの果実、降ってこないだろうか……ほんと、美味かったな。)



−−7日目。


 (おかしい…、あの果実以降なにも口にしていないのに、身体に異変は起きていない、普通なら空腹と水分不足で、そろそろ倒れてもおかしくないのだが…あの味を思い浮かべるだけで、腹一杯になりそうだ。)


 俺は四阿の快適さに酔いしれ、次第に行動しなくなっていく。



−−14日目。


 (あぁ…果実、あの香り、あの食感がまだ忘れられない、なんだか此処に来てからの記憶がだんだんと曖昧になってきている様な…。

 いやどうでもいい、またあの『果実』が食べられるのなら。)



−−30日目。


(まだなのか?はやく…あのかじつを)



〜XX日

(かじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつはまだなのか?!!)



 初めは救助を待っていたはずなのに…いつの間にか、俺はあの果実の事しか考えられなくなっていた。


 そして…。


「ッ…き、…きた!?」

あれから、どのぐらい待っただろうか。


 でもそんな事は今はどうでもいい。


 あの時と同じ様に俺の視界は光に遮られるが、四阿は強く光り輝く、だが今となってはこの光ですら至高の光、あぁ…あの果実をまた食べられる!そう思うだけで、涎がとまらない。


 徐々に光は弱まり、俺はゆっくりと目を開けると、そこには『ソレ』があった!!


 俺は飛びつくかのように、手を伸ばし宝物の様に優しく両手ですくい『ソレ』を拾いあげた。


 いてもたっても居られない俺は、すぐそれに齧り付いた。


 …だが。


(ッ?‥‥味が、しない……そ、そんな馬鹿な!?)


 次の瞬間、さっきまで大事に手に持っていたはずの果実は消えていた。

 そしてさらに、此処に来た頃は服は真っ白だったはずだが、果実と同じ色『真っ赤』に染まっていた。




『…ッ!うわあああああ!!!!』




 叫びながら目を開けると、そこはいつもの荒地の風景が広がっていた。


 どうやら俺は、知らぬ間に意識を失っていたらしい…、目の前には、あの『大樹』があり、それは今の俺を嘲笑っているかの様に木々が不気味に揺れ動いていた…。


−−待った。


−−俺はずっと、待ち続けた。


−−さらに、さらにさらに待ち続ける…。



 あれから、どのぐらい経っただろうか……俺は、今起きているのか…?、というか息をしているのか?もう……、それすらも分からない。



『待ち続ける』




−−だが、それは『終わり』を迎える。



−−XXX…日。


 あの時と同じ様に突然、四阿は強く光輝く。



(あぁ、夢にまでに見たあの光だ…)



「おぉ…やっ…たぞ!ぉれ…は、この日をど、どれだけ待ったか、………ッ?!」


 俺が閉じた目には涙を浮かべており、光が弱まるまで、あと数秒の辛抱。やっと…やっと終わるんだ…。


 そして光は弱まり、俺は涙を拭いて、ゆっくりと目を開ける…だが、そこに果実は無かった。


 あったのは俺と同じ様に、白い服を着た自分より、小柄な金髪の小女が横たわっているだけだった。



「う、うう…嘘だ…ろ?な、なぜだ?!」



 信じきれない俺は、前のめりに倒れ込み、四つん這いな形で『アレ』がないか地面を探る。


 そうこうしていると、横たわっていた小女は目を覚ます。



「こ、…此処は?」



 少女は困惑した様子で、そう呟いていたが、俺はそんな少女を睨むようにして視線を向ける。



「ど……コへやった。」


「え…?」


「オレのカジツダッ!!お前が持っているんじゃないのか!!!」


 俺はそのまま小女に覆いかぶさる様に飛びつき、自分が出せる力を全てを両手に込めて、少女の首を締め上げる!


「あが、ッ!ぐ、うぅ………」


「ガえせ!ガェセガエセ…がえせええええぇぇぇ『アレ』はオレノダッ!!!!!」



 俺はさらに力を込め、少女の首を絞めあげ、少女が果実を隠し持っているはずだと、殺意いっぱいで事を起こしたが、だが小女はそれをいとも簡単に解き、俺を石柱まで突き飛ばす。


「ガハッ…」


(な、何故だ?、見た感じあの女は10代も満たないガキだ?、それなのに、なぜだ?!それにさっきからまったくと言っていいほど指に力が入らない)


 俺は石柱に背中を預けたまま少女の方を見る。


 そして次の瞬間…、信じられない言葉を少女は口にする。


「ゲホッ…ゴホッ、いきなり何なの?『おじいさん』誰なの?」




(はぁ?…い、今何と言った??)




 俺は恐る恐る、自分の顔を触って確かめてみるが、今となっては、『それ』に気づくのが遅すぎた。


 俺の手は小刻みに、そして次第に大きく震えだす。もう『俺』では無い、『わし』なのか?


 わしは自分の両の手と足に目を向けた。



「…ひ、ヒィイイイイー!!??」


 あるはずの手の指がほぼ無くなっていた……、突き飛ばされるはずだ、なにせ指がないのに相手の喉を締め上げる事など、出来るはずがない。


 そしてさらに、自分の口周りに何か違和感を感じる…。手の甲で自分の口に触れてみると、そこには赤く何か固まった様な物が、べっとりと付いていた。


 言うまでもない、おそらくはそういう事なのだ……。


『アレ』を待ちきれず、わしは無意識のうちに自分の指を食いちぎっとったという事…、よく見ると手足はよぼよぼになっていて、腕は痩せ細く、もう骨と皮だけの身体なっている。


 自分が着ていた服も、初めはあれだけ白かったはずなのに、今では自分が食いちぎった時に付いたであろう血で『真っ赤』に染まっていた。



 なにより、一番恐怖を感じた事は、自分がなぜ『まだ生きている』という事。



「う、あ、あば…ばばばば………。」



 わしはその場に立ちあがろうとするが、足はガクガクと震えだし、立つ事すらままならなくなっている。


 あれから何年、何十年といや、もしかすると100年単位なのかも知れない。


 ただ、ずっと『アレ』を待っていただけなのに、子供の頃に絵本で読んだ浦島太郎のように玉手箱を開けて一瞬にして歳を取ったみたいに…。


(なぜだ、わしは……ただ、あの果実をもう一度、また食べたいと思っただけなのに…あの味は今でもわかるんだ、つい昨日の様に…、もしかすると此処に来た時から、ずっと魅入られたのかも知れない…。)





    アクマ

あの【赤い果実】に!!!







 まるで、今までの呪いが解けたかのように…、わしは前のめりにゆっくりと倒れ込む、次第に身体を動かす事も呼吸する事も難しくなり、だんだんと意識が遠くなっていく。



 その時、偶然にも自分が倒れた先に見えるものは、あの『大樹』だった。



(あぁ、いったいあの立派な大樹は、わしを今までの姿をどう見ていたのだろうか…)




 それからのわしは考えるのをやめた。





 そして、これから開くことのない瞼を、ゆっくりと閉じていく。







「かじ…つ」




 最後に言葉を、そう口にして。






--読者様へ--


初めまして、初投稿です。

文章の打ち間違いなどがあるかも知れませんが暖かく見守ってください笑


もしよければ応援やコメントを頂けるとすごく嬉しいです!これからよろしくお願いします。

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