エヴァンデイズガーデン〜禁断の赤い果実〜

アメノウタ

第1章 プロローグ 〜悪魔が生まれた日〜

「うわぁ…まじか…。」


 目の前に映るもの、それは山よりも高く立派な大樹だった。

 俺はただ、それを呆然と眺めながら立ち尽くしていて、只々その大樹に魅入られ圧倒された。


「すげぇ、こんなん初めて見た…」


 現在、俺が居るこの場所だが、全く身に覚えのない荒地で、辺りを見渡してみると目の前にあった立派な大樹と、たまに公園とかで見る様な石で出来た休憩所みたいなものがあるだけだった。


「これ、確か四阿‥‥だったか?、…ッ?!」


 俺が、そう口に出したのと同時に四阿は突然光だして、四阿を中心に俺を…そして此処ら一帯を全てを飲み込んでしまう。

 

 あまりの眩しさに俺は、手を顔の前にかざして護るような体制を取って、なんとか凌ごうと試みたが、その光はまるで映画なんかでよく見る閃光弾のように目も開けられい程だった。



「…ッ、もう此処はいったい何なんだよ、

くそったれぇー!!!」



 しばらくして、あの光は消えた。


 先程まで光に包まれていた四阿に関しては、なんの変化もなかったが、一つだけあからさまに大きな変化が見られた。


 それは赤く丸い物、両の手のひらに収まりそうな小さい何か…、俺は恐る恐るそれに近づいて、それを拾い手に取ってみる。



「普通の果実か…?」


(…いやいやいやいや!?ちょっと待ってくれよ、普通って、もはやなんだよ?もういったい何が何だか訳がわからんぞ!!)


 突如として広がる荒野に、高く聳え立つ大樹、突然光出す四阿……。

 情報量の多さに参った俺は頭をかかえながら、田舎のヤンキーが座るような体勢を取るように腰を下ろした。



「どうしろって言うんだよ…もしかして、もう俺はすでに死んでいるとかか?」


 俺はそのまま果実を片手に、その場で固まってしまう。



グゥ〜…♬

 

(…そういえば、ずっと何も口にしていなかったな、あ〜…クソッ!!)


 正直、ものすごく腹は減っている、喉なんてカラカラすぎてこんな状態で今の状況を飲みこめと言う方がおかしい。


(…いや、まてよ?……もしかしたらその為の果実なのか?そっちじゃなくて、こっちを飲み込めと?)



 それから俺は、手に握った果実をジッと見つめる…。



ゴクリッ…。



 俺は果実を手の内で転がし、念入りにその果実が安全なのかどうかをじっくりと確かめてみる。


「ふ…ふはははッ、何だよ!やっぱ普通の果実じゃねえか!」



 見た感じは、至って何の変哲もない普通の果実。

 安心し切った俺は、それを空へと軽く投げたり、手と手のうちで一人キャッチボールなどをして遊んでいたが、何故か途中から果実から全く目が離せない。

 よくよく見ると果実は水々しく、妙に美味そうで、口の中には唾液でいっぱいになっていた。

 欲望に抑えきれなくなった俺は、恐る恐るそれにガブりと口をつける。



(…ッ?!、な…なな何だこれえぇ?!)




「う、うんめぇええ〜???!!!」


(こ、こんなの今まで食べた事がないぞ…?!シャクっとした食感はよく見知った果実と全くと言って良いほど同じだが、噛めば噛むほどに果汁の一滴一滴が、口の中で花火のように暴れ回る、それに何と言っても芳醇な香りが、これでもかと言うほどに、口いっぱいに広がる。あと、極め付けは果実を飲み込むと同時にさっきまでカラカラだった喉は、……いや違うな、これは身体全身が潤っていく様な感じだ!)



 そう、それはたった一口。


 これが俺の何かを大きく変えてしまう入り口だとは、その時は何も知らずに……。


 それからの俺はもう止まらなかった。


 手に持った果実に貪りつき、涎は垂らし、果汁でベッタリな口元、もはや食べ方なんか気にしない!というか何も考えたくない!!

 

 その後、俺は果実の芯を除いて手に残った果汁まで、残さず綺麗に食べつくした。



「はぁ‥‥」


 何故かわからないが、あの果実を口にするまで、不安や焦りとか半端じゃなかったのに、それがまったくない。 

 むしろ精神、身体共に段々と、力がみなぎっていくかの様だった。


「ふぅ…、こんな美味いもん食ったの初めてかもしれないな…。」


 満たされた事で、色々と思考がスムーズに回っていく。


(まてよ?もしかしたら誰かが、ここにくるかも知れない、それにこういう場合はその場から動かない方が消防隊とか自衛隊とかが、救助しやすいとか、何かのニュースでやっていた様な気がするぞ?)

 

 果実を口にしたからか、以前よりも前向きな思考になっていく。


「よしっ!そうと決まれば、…へへっ、なら此処ら、いったいいっちょ調べてみっか!!」



 それからの俺は、四阿を拠点として救助が来るまで動かず、此処で待つことに決めた。



−−その日の夜。


 どうやら此処は、辺りが暗くなると昼間と違って一段と冷え込むらしい、俺が着ているこの白い服なんかは、かなり薄い生地で絶対に耐えきれない程の寒さのはずなんだが、この四阿の中では不思議と暖かく、安心して夜を越せた。



−−2日目。


 昨日と何も変わらず、立派な大樹は堂々とずっしりと聳え立っている。


 空を見上げてみたが、大樹は雲を突き抜けるぐらいに相当高く、どこまで続いているのか見当もつかない。

 その日は、大樹付近を白み潰しに散策してみたが、何の成果も得られなかった。


−−3日目。


 どうやら此処は人はおろか、生き物とかも居ないみたいだ。


 少しだけ四阿から離れて、少し高い丘の様な所から周辺を見渡してみるが、永遠と続きつそうな荒地を見てさすがに諦めがついた。


 (はぁ…あの果実、降ってこないだろうか……ほんと、美味かったな。)



−−7日目。


 (おかしい…、あの果実以降なにも口にしていないのに、身体に異変は起きていない、普通なら空腹と水分不足で、そろそろ倒れてもおかしくないのだが…あの味を思い浮かべるだけで、腹一杯になりそうだ。)


 俺は四阿の快適さに酔いしれ、次第に行動しなくなっていく。



−−14日目。


 (あぁ…果実、あの香り、あの食感がまだ忘れられない、なんだか此処に来てからの記憶がだんだんと曖昧になってきている様な…。

 いやどうでもいい、またあの『果実』が食べられるのなら。)



−−30日目。


(まだなのか?はやく…あのかじつを)



〜XX日

(かじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつかじつはまだなのか?!!)



 初めは救助を待っていたはずなのに…いつの間にか、俺はあの果実の事しか考えられなくなっていた。


 そして…。


「ッ…き、…きた!?」

あれから、どのぐらい待っただろうか。


 でもそんな事は今はどうでもいい。


 あの時と同じ様に俺の視界は光に遮られるが、四阿は強く光り輝く、だが今となってはこの光ですら至高の光、あぁ…あの果実をまた食べられる!そう思うだけで、涎がとまらない。


 徐々に光は弱まり、俺はゆっくりと目を開けると、そこには『ソレ』があった!!


 俺は飛びつくかのように、手を伸ばし宝物の様に優しく両手ですくい『ソレ』を拾いあげた。


 いてもたっても居られない俺は、すぐそれに齧り付いた。


 …だが。


(ッ?‥‥味が、しない……そ、そんな馬鹿な!?)


 次の瞬間、さっきまで大事に手に持っていたはずの果実は消えていた。

 そしてさらに、此処に来た頃は服は真っ白だったはずだが、果実と同じ色『真っ赤』に染まっていた。




『…ッ!うわあああああ!!!!』




 叫びながら目を開けると、そこはいつもの荒地の風景が広がっていた。


 どうやら俺は、知らぬ間に意識を失っていたらしい…、目の前には、あの『大樹』があり、それは今の俺を嘲笑っているかの様に木々が不気味に揺れ動いていた…。


−−待った。


−−俺はずっと、待ち続けた。


−−さらに、さらにさらに待ち続ける…。



 あれから、どのぐらい経っただろうか……俺は、今起きているのか…?、というか息をしているのか?もう……、それすらも分からない。



『待ち続ける』




−−だが、それは『終わり』を迎える。



−−XXX…日。


 あの時と同じ様に突然、四阿は強く光輝く。



(あぁ、夢にまでに見たあの光だ…)



「おぉ…やっ…たぞ!ぉれ…は、この日をど、どれだけ待ったか、………ッ?!」


 俺が閉じた目には涙を浮かべており、光が弱まるまで、あと数秒の辛抱。やっと…やっと終わるんだ…。


 そして光は弱まり、俺は涙を拭いて、ゆっくりと目を開ける…だが、そこに果実は無かった。


 あったのは俺と同じ様に、白い服を着た自分より、小柄な金髪の小女が横たわっているだけだった。



「う、うう…嘘だ…ろ?な、なぜだ?!」



 信じきれない俺は、前のめりに倒れ込み、四つん這いな形で『アレ』がないか地面を探る。


 そうこうしていると、横たわっていた小女は目を覚ます。



「こ、…此処は?」



 少女は困惑した様子で、そう呟いていたが、俺はそんな少女を睨むようにして視線を向ける。



「ど……コへやった。」


「え…?」


「オレのカジツダッ!!お前が持っているんじゃないのか!!!」


 俺はそのまま小女に覆いかぶさる様に飛びつき、自分が出せる力を全てを両手に込めて、少女の首を締め上げる!


「あが、ッ!ぐ、うぅ………」


「ガえせ!ガェセガエセ…がえせええええぇぇぇ『アレ』はオレノダッ!!!!!」



 俺はさらに力を込め、少女の首を絞めあげ、少女が果実を隠し持っているはずだと、殺意いっぱいで事を起こしたが、だが小女はそれをいとも簡単に解き、俺を石柱まで突き飛ばす。


「ガハッ…」


(な、何故だ?、見た感じあの女は10代も満たないガキだ?、それなのに、なぜだ?!それにさっきからまったくと言っていいほど指に力が入らない)


 俺は石柱に背中を預けたまま少女の方を見る。


 そして次の瞬間…、信じられない言葉を少女は口にする。


「ゲホッ…ゴホッ、いきなり何なの?『おじいさん』誰なの?」




(はぁ?…い、今何と言った??)




 俺は恐る恐る、自分の顔を触って確かめてみるが、今となっては、『それ』に気づくのが遅すぎた。


 俺の手は小刻みに、そして次第に大きく震えだす。もう『俺』では無い、『わし』なのか?


 わしは自分の両の手と足に目を向けた。



「…ひ、ヒィイイイイー!!??」


 あるはずの手の指がほぼ無くなっていた……、突き飛ばされるはずだ、なにせ指がないのに相手の喉を締め上げる事など、出来るはずがない。


 そしてさらに、自分の口周りに何か違和感を感じる…。手の甲で自分の口に触れてみると、そこには赤く何か固まった様な物が、べっとりと付いていた。


 言うまでもない、おそらくはそういう事なのだ……。


『アレ』を待ちきれず、わしは無意識のうちに自分の指を食いちぎっとったという事…、よく見ると手足はよぼよぼになっていて、腕は痩せ細く、もう骨と皮だけの身体なっている。


 自分が着ていた服も、初めはあれだけ白かったはずなのに、今では自分が食いちぎった時に付いたであろう血で『真っ赤』に染まっていた。



 なにより、一番恐怖を感じた事は、自分がなぜ『まだ生きている』という事。



「う、あ、あば…ばばばば………。」



 わしはその場に立ちあがろうとするが、足はガクガクと震えだし、立つ事すらままならなくなっている。


 あれから何年、何十年といや、もしかすると100年単位なのかも知れない。


 ただ、ずっと『アレ』を待っていただけなのに、子供の頃に絵本で読んだ浦島太郎のように玉手箱を開けて一瞬にして歳を取ったみたいに…。


(なぜだ、わしは……ただ、あの果実をもう一度、また食べたいと思っただけなのに…あの味は今でもわかるんだ、つい昨日の様に…、もしかすると此処に来た時から、ずっと魅入られたのかも知れない…。)





    アクマ

あの【赤い果実】に!!!







 まるで、今までの呪いが解けたかのように…、わしは前のめりにゆっくりと倒れ込む、次第に身体を動かす事も呼吸する事も難しくなり、だんだんと意識が遠くなっていく。



 その時、偶然にも自分が倒れた先に見えるものは、あの『大樹』だった。



(あぁ、いったいあの立派な大樹は、わしを今までの姿をどう見ていたのだろうか…)




 それからのわしは考えるのをやめた。





 そして、これから開くことのない瞼を、ゆっくりと閉じていく。







「かじ…つ」




 最後に言葉を、そう口にして。






--読者様へ--


初めまして、初投稿です。

文章の打ち間違いなどがあるかも知れませんが暖かく見守ってください笑


もしよければ応援やコメントを頂けるとすごく嬉しいです!これからよろしくお願いします。

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