第26話『天墜』

「……──ふぅ。どうにか終わったか」


 そうレオニオルは戦闘を終え、周囲を警戒する。

 しかし、周辺に敵の気配もなく、狙撃時特有の殺意も類も感じられない。

 索敵の次いでにレオニオルは、他の戦場も確認したが、そのどれもが静寂に包まれていた。

 おそらく、この戦いの雌雄は決された。

 あとは、シオリの安否を確認した上でレオニオル自身も撤退すれば、今回の戦争は終わりだ。


「(──ところで。シオリは一体どんな奴と)」


 シオリも、相手方にそれなりの実力者がいるとは思っていた筈だ。

 流石に陸戦軍が出張って来るとまでは想像していたか怪しいが、それでも有数の実力者が出て来るとは思っていたのだろう。

 しかし、それではに説明が付かない。

 あれほどの殺気を放つ者が、クルシュカ共和国にいるとは思えない。

 少なくとも、この戦争にはが介入していると考えるのが普通だろう。



 ──衝撃が奔る。



 まるで、高速で飛翔体が墜落したかのような轟音──。

 そして、それによって生まれた衝撃がレオニオルを襲った。




「──!?」




「……ぁ痛」




 しかして、その飛翔体の正体がまさかシオリとは。

 流石に、レオニオルの記憶にあるシオリが、並大抵の敵に吹っ飛ばされる筈がない。あったとしても、それはレオニオルと同等程度の実力者と考えるのが普通だ。

 そして、前の殺気を考えれば、正体こそ不明なれど実力者である事は確かだろう。


「──シオリを吹っ飛ばすなんて、一体誰が相手だ?」

「……間違っても手を出すなよ」

「お前がそれほど言う相手なのかよ」


 シオリの本来の実力を知っているレオニオルからすれば、一体誰がシオリをこうも吹き飛ばせるのだろうか。

 いや、今のシオリは、何故か夢幻輝石シリウスライトを行使する様子はない。

 だが、たとえ夢幻輝石シリウスライトを使用していなくても、レオニオルの知る玖帳シオリは強い。

 そしてそのは、誰が言うまでもなく答え合わせをされる。



「……──おいおいおい!?」



 影が見えるだけで、素顔は確認できないが、その数は

 だが、レオニオルは彼等を知っている。

 たとえ、姿形が見えずとも、その殺気その闘気には覚えがあるからだ。

 そして、レオニオルの予想が当たっていたとしたら、よくもまぁシオリ単騎で抑え込めたなと尊敬を通り越して呆れてしまうほどだ。


「よくもまぁ、アイツ等を抑え込めたな。──どうする、一旦引くか?」

「……あまり大きな声出さないでくれ。頭打って頭痛が凄いんだ」

「あぁ大丈夫そうだな」

「どこがだ」


 そう言うレオニオルだが、正直アイツ等を相手に逃げ切れるとは到底思えない。

 その上、彼等が部隊の撤退を襲撃しようものなら、甚大な被害が出る事だろう。

 少なくとも、此処を決戦の地とするか、どちらかが殿を努めなければ、レオニオルたちの負けは濃厚となろう。

 故に、此処が選択の時なのだろう。


「……──シオリ。オレが殿を務めるからさっさと行け。まぁ大丈夫だ。シオリに比べたらオレはまだまだだが、それでも時間稼ぎぐらいは出来る筈だ。それに──」




「──つまらん。その程度なのか、……




 だが、そんなレオニオルの覚悟を否定するかのように、三人の内の真ん中の人物が声を発した。

 声色からして、恐らく成人してからしばらくの月日を生きてきた者だろう。

 種族に関しては、外見からは特に分かる事はない。

 しかし、レオニオルの予想──シオリの事を知っている人となれば、である事は確かだろう。



「……



「あぁ、。そう言っているんだ」



 その瞬間、シオリの闘気が増す。

 その一歩は、鋭く重く。

 そして、シオリの包帯を巻いていない左腕。そこには、ノヴァニウム鉱脈症の症状たる黒色の結晶が、腕全体に生えていて淡く輝いている。



「──天墜せよ。」



 一言──。

 その一言に過ぎない言葉が、文字通り

 燃え盛る炎が世界を奔る。

 だがしかし、万物をも焼き尽くす事であろう炎も、シオリの夢幻輝石シリウスライトの余波でしかない。

 そして、厄災の名を冠するシオリの夢幻輝石シリウスライトの本体がこの世界に顕現しようとした、その瞬間──。


「──シオリ! それはちょっと不味いだろうがっ!?」

「レオニオル、止めないでくれ」

「止めるに決まってんだろ阿保っ! テメェ、この辺り一帯を灰燼にする気か!」


 実際、シオリの周辺の地面は、文字通り融解している。

 それほどの炎を振るえば、この辺り一帯がただでは済まない。

 それに加えて、何故今までシオリは夢幻輝石シリウスライトを行使していなかったのだろうか。そしてその答えは、アレ以降チューニングをしていない。

 そして、そんな厄災を解き放てば、何が起きるかなんて分かり切っている事だ。


「……驚いた。私たちを足止めをしている時も思っていたが、まさかその先があるなんて」

「決まっている。あのシオリだ。むしろ、弱体化している事に驚いたほどだ」

「──ならば、我々も本気で掛からねばならない、か」

「あぁ。あの娘──確かレオニオルと言ったな。アレもいる以上、本気で掛かるべきだろう」


 緊張が奔る──。

 相手も、シオリたちへの認識を改める。

 敵から強敵へと。

 先ほどまでの余裕もなく、侮りもない。

 故にこそ──。



「──いや、今回は引かせてもらおう」



 だが、唐突にリーダー格と思われる男がそう告げた。

 その瞬間、他の奴等も矛を収める。既に、先ほどまでの鋭利な闘気も存在していない。


「……逃げる気か」

「戯言を。この場で雌雄を決するほど、つまらない人間ではない。お前との再戦は、いずれ然るべき時を以ってしよう」


 この場を引いてくれるのは、シオリとレオニオルにとっても利のある事だ。

 実際、此処を死地としていたシオリとレオニオルに加えて、もしもあの誰かが撤退する本隊に追撃しようものなら、それだけで勝負が付きかねない。

 それを、彼女たちは知っている。

 だからこそ、此処で態々撤退する意図を理解出来ないでいる。



「──さらばだ。お前との再戦は相応の舞台を用意しよう」



 そう言って、彼等はこの場を後にする。

 その後ろ姿をシオリとレオニオルは追撃しない、する気もない。

 戦力は、あちらの方が上だ。シオリとレオニオルのどちらかが死亡した上で取る事は出来るかもしれないが、そんなリスクを負う理由もないしあまりにも損失が大き過ぎる。



 確かに、今回の戦いはシオリたちは勝利した。

 しかして、今だ暗雲が晴れる事はない。

 あくまでもこの戦いは、所謂序章。いやもしかしたら、のかもしれない。

 だがそれ以上に、アレ等が参戦するとなれば、苦戦は免れる事はない。それどころか、敗北する可能性すら存在している。



 ──戦争は、故にこそ対等と成った。


 

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