第2話 エルフの掟
異世界二日目の朝。
私としては珍しく早く起きたので、まずは文字の読み書きということで、昨日エミリアが貸してくれたドリルを使ってひたすら勉強した。
「さてと、ドリルをかなりやったからエミリアに採点してもらおうかな。あとは、この部屋の鍵をエミリアに預けないとね」
私は窓の外に向かって独りごちた。
そう、昨日はバタバタしていて忘れていたのだが、なにかあった時に備えて、このログハウスの鍵を預ける事を忘れていたのだ。
「よし、母屋にいこうかな」
私はドリルの束を手にして、ログハウスを出た。
さほど距離はなく、私は母屋の扉をノックした。
「あっ、おはようございます。これから朝食の準備をはじめるところです。どうぞ」
玄関扉が開き、エミリアが笑みを浮かべた。
「おはよう。ドリルをたくさん片付けたから、あとで確認してね。あと、これログハウスの鍵を預けるのを忘れていたよ」
私はドリルと鍵をエミリアに渡した。
「はい、確かに預かりました。ラシルさんにもここの鍵を預けます。忘れてはいけません。私たちは家族ですからね」
エミリアが笑って、ポケットから鍵を取りだして私に手渡した。
「あっ、ログハウスは勝手に入っちゃっていいからね。見られて困るものはないから」
私は笑った。
「ここも同じです。ノックしないでいいですよ」
エミリアが笑みを浮かべた。
「分かった、じゃあ今度からそうする」
私は笑った。
キッチンでエミリアが朝食を作りはじめると、ランスロットが自分の部屋から出てきた。
「おはようございます。…眠い」
室内着を着込んだランスロットが、眠そうに目を擦りながら、リビングのソファに座っていた私の隣にちょこんと座った。
「おはよう、昨日は遅かったからね。眠い?」
「うん、眠い。よく平気だね」
ランスロットの答えに、私は笑った。
「私も朝が弱いから分かるけど、無理はしないでね」
私は笑みを浮かべた。
「分かってるけど、ちゃんと朝ごはん食べないと怒られちゃうから。顔洗ってくる」
ランスロットが立ち上がり、家の奥の方にある洗面台に向かっていった。
「ラシルさん、助けていただいた時にいつもやっているのですが、マルシルさんの里にお礼のご挨拶に行きたい思います。同行は出来ますか?」
エミリアが笑みを浮かべた。
「うん、もちろん同行するよ。私のためだったんだから」
私は笑みを浮かべた。
「分かりました。食事が終わり次第準備しましょう。車ならそれほど遠くないですよ」
エミリアが小さく笑った。
「お母さん、また行くの?」
少し目が覚めた様子のランスロットが、目を輝かせて笑った。
「はい、行きますよ。あなたは、あの里が好きですからね。ラシルさん、気楽でいいですよ。客人に対しては、全く固いところがない里なので」
エミリアが笑った。
「それはいいね。私の里は比較的開放的だったんだけど、どこか一線を引いているというか、仲良くはなれても友人にはなれないって感じだったから」
私は笑った。
「はい、それは問題ありません。私が保証します」
エミリアが笑みを浮かべた。
朝食が終わって片付けも終わり、あとはマルシルの里に出かけるだけになった。
身支度を調えていると、外から車の音が聞こえ、玄関扉が二回ノックされた。
「あら、こんな時間に来客は珍しいですね。まだ、朝早いのに」
エミリアが呟きながら、扉を開けた。
「朝早く申し訳ありません。昨日、こちらにラシルという名のエルフが訪ねてきたと思いますが、ご在宅でしょうか?」
私と似たような服を着たエルフが二名、玄関扉の向こうに見えた。
「…どなたですか?」
少し声のトーンを落としたエミリアが、静かに言葉を返しながらそっと背中の後ろで拳銃を手にしたのが見えた。
「おっと、エミリア。私が応対するから…」
これは私の問題。
私は玄関にいたエミリアを押しのけるようにして立ち、小さく笑みを浮かべた。
「私がそのラシルだけど、どんな用事かな?」
私が笑みを浮かべると、二人は黙ってナイフを抜いた。
「この家は完全に包囲されています。素直に…」
相手の言葉を聞きもせず、私はショートソードを抜いて、二人を叩き斬った。
その体が倒れるのをみないまま私は素早く走り、家を囲っていた四人を瞬時に始末した。
「用件がなんであれ、名乗りもしないうちに、人に刃物を向けたらこうなるの。覚えておいて」
首を斬り飛ばし、もはや返事をしない死体に向かって、私は笑みを向けた。
「ラシルさん、大丈夫ですか?」
慌てた様子で駆け寄ってきたエミリアに、私は笑みを浮かべた。
「大丈夫だよ。でも、これはどこの里なんだろう?」
私は剣を鞘に収め、小さく息を吐いた。
「そうですね…。このシャツのボタンに刻印された紋様が、なにかの参考になるかもしれません。一つ取っておきましょう」
エミリアが倒れているエルフからシャツのボタンを引きちぎった。
「やれやれだね。エルフの情報伝達速度が速いのは、こっちでも同じか」
私は苦笑した。
なにか知らないけど、異物が入ってきた。エルフらしい。とにかく排除…。
実にエルフらしい思考パターンだった。
「さて、この死体を片付けたら、仕切り直ししよう。このままじゃダメだから…って、どこに埋めるか…」
私は思案した。
「あっ、それについては大丈夫です。町の警備所にいって事情を話せば、後始末してくれます。平和な町ですが、たまにこういう事件が起きるので」
エミリアが笑った。
「分かった、そっちは任せるよ。なにか書類を書けっていわれると困るし」
「分かりました。さっそく行ってきます。災難でしたね」
エミリアが笑みを浮かべた。
ちょっとした襲撃があった事から、家の周りは町の警備隊がガードしてくれると、エミリアが笑った。
「さて、遅くなってしまいました。マルシルの里に向かいましょう」
「大丈夫かな。留守中に放火でもされたらシャレにならないし…」
私の呟きにエミリアが笑みを浮かべた。
「大丈夫ですよ。ここの警備隊はしっかりしていますから」
エミリアが笑った。
「よし、エミリアがいうなら間違いない。分かった、いこう」
私は笑みを浮かべた。
「あの、本当に大丈夫だよ。ここの警備隊は強いから」
ランスロットが小さく笑みを浮かべた。
「そっか、なら大丈夫だね。車かな?」
「はい、さっそく行きましょう」
私の問いにエミリアが答え、私たちは家を出て車に乗った。
「大体十五分くらいで到着します。マルシルに、先ほどのボタンをみてもらいましょう」
エミリアが笑い、車を出した。
砂利道を走って黒い道路に出て、今度は空港とは反対方向に車を走らせはじめた。
しばらく進むと森が見えてきて、そこに突き刺さるように道路は続いていた。
「あっ、いい森だね。ここからでも、豊かだって分かるよ」
私は笑みを浮かべた。
「さすが、分かりますか。この森はガガゼト族のテリトリーです。季節に応じて、様々な果実や野草が手に入ると、よくマルシルが自慢しています」
エミリアが小さく笑った。
車が森に入ると、すぐに道端に休憩所のようなものが作られ、店もたくさんあり食事も出来るようだった。
「へぇ、エルフの森にこんな…」
少なくとも、私の世界ではこんな事はあり得なかった。
「ここは、ガガゼト族が切り盛りしているパーキングエリアです。里に行くには、ここに車を駐めて、森の中を軽く散歩する程度の距離で到着します」
エミリアが笑った。
車が駐車場に入り適当な枠に収まると、エミリアが一息吐いた。
「さて、行きましょう。あっ…」
エミリアが声を上げ、窓の外を見ると、私もそちらをみた。
すると、恐らく護衛だと思うが武装した二人を連れて、マルシルがこちらに向かって歩いてきた。
「向こうからきてくれるとは珍しいですね。とりあえず、降りましょう」
私たちは車から降りた。
その私たちに、マルシルが笑みを浮かべた。
「うむ。昨日は遅くまで頑張ったな。久々に大仕事だと、里の皆が喜んでいるぞ」
「それは良かったです。急にお願いしたので」
エミリアが笑みを浮かべた。
「それは気にしなくていい。常に暇だからな。ところで、今朝方なにか襲撃まがいの事がなかったか。ある部族の仕業と分かっているのだが確認したい」
マルシルが真顔で問いかけてきた。
「うん、あったよ。大した事のない小物だったけど、きっちり始末しておいた」
私は笑い、エミリアが例のボタンを差し出した。
「…間違いない。カリン族だ。あそこは、暴れたいヤツらばかりばかりだからな。なにを思ったか、この里に襲撃してきたほどだ。そんなことをされたら、どうするか。そちらの世界は分からないが、こちらでは部族間戦争になってもいいほど、徹底的に叩きのめすまで。そうでないと、周辺の部族から甘くみられてしまうからな」
マルシルがニヤッと笑みを浮かべた。
…やる気満々だ。
私は苦笑した。
「ま、まあ、程々に」
ちなみに、私の世界でも同じようなもので、対人間なら見張りの油断ということで、特に問題にはならないが、対同族だとそうはいかない。
どんなに穏やかな里でも、さすがに黙ってはいないと、持てる武器を全て使ってでも、全面対決になってしまう。
これは、反撃にでないと甘くみられて、里の存亡に関わるからだ。
「うむ、程々にだな。ラシル殿も関わっておいた方がいいだろう。全く、黙していると付け上がる、このエルフ体質はなんとかならないものか」
マルシルが苦笑した。
「本音をいうとやりたくないんだけど、ここで黙っているとまた襲撃されかねないしね。やるしかないな」
私は小さく息を吐いた。
「あのラシルさん、まさか…」
エミリアが心配そうに声をかけてきた。
「そう、やりたくはないけど、今後を考えるとやる必要があるんだ。今朝のバカ程度ならいいけど、ちゃんと考えて行動する相手がきたら、ちょっと厳しいから」
私は笑みを浮かべた。
「えっ、戦うの!?」
ランスロットがポカンとした。
「これは、必要な事だと思って。それじゃ、マルシル。里で打ち合わせしよう」
私は笑みを浮かべた。
マルシル率いるガガゼト族の里は、パーキングエリアから森に入って少しのところにった。
森の細道を歩いていくと急に視界が広くなり、そこに森の中に埋まるような感じでそれはあった。
「広いね…凄い」
私は思わず呟いた。
エルフの里は大体こぢんまりしていて、そこに住むエルフの人数も少ないというパターンが多いのだが、ここはかなり大規模な里で、住んでいる人も多そうだった。
「うむ、これでも手狭になってしまってな。皆で緩やかに拡張工事を行っている最中だ。よし、私の家にいこう」
マルシルが里の中を歩きはじめ、私たちはそのあとをついていった。
「あの、マルシルさんがお話し下さった、異世界の方というのはあなたですか?」
歩く道すがら、子供を連れたお母さんが声をかけてきた。
「あっ、聞いていたんだ。そうだよ、私が異世界エルフ」
私は笑った。
「そうですか。ようこそ」
お母さんが笑った。
「ありがとう。またね」
私は笑って、また歩みを進めた。
特に問題ないまま私たちは敷地が少し広めに取られた、マルシルの家に到着した。
「私の世界ではあり得ないな。よそ者が里長の家まで案内されるなんて」
私は笑った。
里が違うだけで、同じエルフとは思われない。
これは、直して欲しい悪しき習慣である。
「うむ、もはやよそ者ではないぞ。昨夜の舞いが効いたな。あんなに感謝してもらえるなんて思わなかったと、職人たちがざわめいていてな。またもう一棟建てようかなどといいだしている」
マルシルが笑った。
「もう大丈夫だよ。必要なものは揃っているし、暇になったら庭に張ったままのテントで寝転がってぼんやり魔法書を読んだり…色々楽しみだよ」
私は笑みを浮かべた。
「うむ、それならいい。増改築したくなったら一報をくれ。よし、中に上がってくれ。エミリア、ランスロットと遊んでいてくれ。私とラシル殿はちょっと用事があるからな。なに、すぐに片付く」
マルシルが笑った。
マルシルがエミリアとランスロットを連れて家の奥に連れていき、玄関に立ったままだった私のところに戻ってくると、表情が険しいものになっていた。
「…何人やられたの?」
私は小声でそっと聞いた。
「うむ、見張りが八人、放火されて焼けた家が四件、そこで出た死者はないが、火傷を治療中だ。これは、放置出来ない事態だ」
マルシルが頷いた。
「なるほど、それはエルフじゃなくても怒り狂うだろうね。よし、そういう危険な里はさっさと潰そう。作戦は?」
「すでに動いている。偵察も終わって、私の側近が作戦を練っている頃だろう。忙しいがさっそく現地に赴こう。目立つので車は使えん。徒歩で三十分くらいだな。森の中を行くぞ」
マルシルが笑みを浮かべたが、その目は笑っていなかった。
「あまり気負わない方がいいよ…って、ダメか。私も頭にきてるくらいだから」
私は苦笑した。
「うむ、冷静になるように努力をしている。では、いこうか」
マルシルの声に頷き、私は武器の装備一式を確認した。
「うむ、その拳銃は交換した方がいいぞ。護身用に使うにしても頼りないな。これが終わったら、私のものを無償で譲ろう。予備があるから、そこから新品をな」
マルシルが笑みを浮かべた。
「ありがとう。急いだ方がいいかも…」
「うむ、少し早歩きになるぞ。急ごうか」
こうして、私とマルシルは家を出た。
鬱蒼と茂った森の中を、私とマルシルは急ぎ足で進んでいた。
見立て通りかなり豊かな居心地のいい森だったが、今はその空気を楽しんでいる場合ではない。
神経を徐々に戦闘モードに切り変えながら、マルシルに続いて茂みを飛び越え、小川を渡り…。里からほどほどの距離に、私の世界にもあった、低認識マントを羽織った一団が伏せるようにじっと待機している箇所に付いた。
「お疲れさま。どうだ、状況は?」
マルシルと私は、片膝を地面について身を低くした。
「はい、偵察隊の報告を元にマップを起こしました。作戦は…」
小声で話す女性に頷きながら、マルシルはじっとマップを見つめた。
「うむ、よかろう。実行だ」
マルシルの声に頷き、女性はエミリアが王都の空港で使ったもののような機械で、小声で指示を送りはじめた。
「…無線機だね」
「うむ、これがないと話しにならん。さて、動こうか」
マルシルが移動を開始したので、私もそれについていった。
「マルシル、どんな作戦?」
「うむ、今この場所にいるのは約百名。すでに里を取り囲むように配置している。見張りに発見された様子はないので、このまま攻撃魔法の一斉射撃で里をボロボロに破壊したあと、私とラシル殿で正面切って突っ込むという感じだな。私たちの役目は残党狩りのようなものだ。間もなく始まる」
マルシルの言葉に小さく頷き、全速力で森を走って所定の場所に着いて、身を低くしてその時を待った。
ここから見える里の防備は薄く、柵は木で組んだだけの粗末なものだった。
「…ここだけ見ると、楽勝なんだけどね」
私はこっそり小声で呟いた。
「…攻撃力だけで、防御が薄い魔物のようなものだ。始まるぞ」
マルシルが小声で呟いた。
それから数秒後、いきなり雨のように攻撃魔法が里全域に降り落ちた。
まるで、里が爆発したような勢いで粉砕されたタイミングで、マルシルが防御魔法を使ってくれた。
青白い光りに包まれた私は、マルシルに向かって頷き、二人で一斉に飛び出した。
燃えている柵を切り飛ばして里に入った私たちは、マルシルは魔法、私はショートソードを抜いて、大怪我をしている敵にとどめを刺して回った。
「攻め込まれると弱い。攻撃一辺倒な典型例だね」
私は剣を振って戦い続け、時々遭遇する攻撃魔法から逃れた敵をなぎ倒して進み、里の最奥部にあるという、里長の家を目がけてつき進んだ。
程なく、倒壊して炎上している大きな建物が見えてきた。
「あれが里長の家だと思うよ。急ごう」
私はマルシルに声をかけ、走る速度を上げた。
家に近づくと、数名のエルフが瓦礫の陰から出てきて、一斉に攻撃魔法を放ってきた。
「おっと…」
私はその場でスライディングして飛んできた火球などを避け、勢いに乗ったまま立ち上がって一気に加速した。
慌てた様子で逃げようとしたそのエルフたちに、マルシルの攻撃魔法が炸裂して粉々に吹き飛んだ。
その向こうにガタイのいいオッサンが立っていて、ニヤッと笑みを浮かべた。
「やるじゃねぇか。ここは一つ里長同士の…」
オッサンのどうでもいい口上など聞いてやる義理はないので、私はその首を斬り飛ばし、地面に倒れたところであとはどうぞと、マルシルに任せて場所を空けた。
「全く、手だしするのは私だったのだが…」
マルシルが苦笑して、倒した里長の死体を魔法で燃やして片が付いた。
「よし、後始末は待機組に任せて、私たちは先に里へ戻ろう。エミリアとランスロットが心配しているだろう」
マルシルが笑みを浮かべた。
戦場から里に戻ると、エミリアとランスロットがホッとした様子で迎えてくれた。
「あっ、触らない方がいいよ。返り血でベトベトだから。服についたら落ちないから」
近づいてきたランスロットに、私は慌ててストップをかけた。
「あっ、そうか。血まみれだけど、怪我していない?」
ランスロットが心配そうに問いかけてきた。
「うん、擦り傷くらいだよ。マルシル、差し支えなかったらシャワーを貸してくれるとありがたいな」
私は笑みを浮かべた。
「それは構わん。私も浴びるからな。ただ、その服は諦めた方がいいと思うぞ」
マルシルが笑みを浮かべた。
「そうだね。人の血って落ちないから」
私は苦笑した。
「よし、いきなり出だしでバタバタしてしまったが、ようやく落ち着ける。エミリアとランスロットには申し訳ない事をした」
「いえ、昨夜のご挨拶に伺っただけなので」
エミリアが笑った。
「そうか。よし、体を清めてこよう。申し訳ないが、もう少し待って欲しい。ちょうど時間だ。昼食の準備をさせよう。ラシル殿には替えの服を。サイズ違いでも我慢してくれ」
マルシルが笑った。
マルシルが用意してくれた昼食を摂り、着替えてスッキリした私とエミリアは、改めマルシルにログハウスを作ってくれた事について謝意を述べた。
「うむ、気にしなくていい。久々の仕事だと、職人たちが喜んでいたからな。礼をいうのは、むしろこちらの方だ。先の討伐戦で、かなり助けてもらったからな」
マルシルが笑みを浮かべた。
「魔法が使えれば、もう少し効率が良かったんだけどね。私の我流剣術も役にたったようでよかった」
私は笑みを浮かべた。
「そうか、我流なのか。てっきり、どこかで学んだのかと思えば…。実戦に勝る先生はないという事が」
マルシルが笑みを浮かべた。
「ほとんどは魔法で対処していたから、だいぶ錆びていたけどね」
私は笑った。
「ほう、あれでか。今度この里になにかがあったら、助けてもらうとしよう」
マルシルが笑った。
「うん、連絡があれば微力ながらお手伝いするよ。なるべく早く、魔法を使えるように努力するから」
私は笑みを浮かべた。
「うむ、それは心強い。さて、あとは予定がない。なにもないが、ゆっくりしていくといい。里を案内しよう」
マルシルが笑みを浮かべ。私たちは家からでた。
里の中はぎっしり家や店が建ち、里の住民たちで混雑していた。
「ここは里の中心部だ。特に人が多くてな、いつもこのような感じだ」
マルシルが笑った。
「これ凄いね。ここまでエルフが集まる場所は、他にはないかも…」
私は笑みを浮かべた。
「ランスロット、はぐれないで下さいね」
私に続いているエミリアの声が聞こえた。
混雑しているエリアを抜けると、店の数もまばらになり、歩く人も少なくなった。
「ここは、いわば下町だな。この里には、このような場所がいくつもある」
マルシルが笑みを浮かべた。
「本当に大きな里だね。これは、貴重な経験だよ」
私は笑った。
「ラシルさん、この里には温泉という大きなお風呂があります。シャワーだけでは、血のニオイが落ちていません。行きましょう」
エミリアが笑みを浮かべた。
「温泉は私の世界にもあったけど、ここにもあるんだね。マルシル…」
「うむ、最初からそちらに向かっている。こういう時は、温泉で気分転換が必要だ」
マルシルが笑みを浮かべた。
マルシルに先導されてしばし、行く先に少し大きな建物が見えてきた。
「あれが温泉施設だ。ゆっくりしよう」
マルシルが笑った。
温泉施設に入ると、無料でタオルの貸し出しを行っていて助かった。
女風呂の脱衣所に入り、服を脱いでカゴに入れ、浴室の扉を開けて中に入った。
「タイミングが良かったみたいだね。空いてる」
私は笑みを浮かべた。
「うむ。ここにくる者は、気分転換や自宅の風呂より開放感を味わいたい時だからな」
マルシルが洗い場の椅子に座り、頭を洗いはじめた。
「よし、ラシルを綺麗にしよう。そこに座って。これは約束だから」
ランスロットに手を引かれるまま、私は椅子に座った。
「そんな約束したっけ?」
「うん、背中でもなんでもやるって、ちゃんと約束したし、あの時の勢いでいったわけじゃないからやるよ」
ランスロットが笑って、私の頭から体まで丁寧に洗ってくれた。
「よし、きれいになった。お風呂に入ろう」
ランスロットが笑みを浮かべ、先にお湯に浸かっていたマルシルとエミリアに横並びになって、湯船の底に座った。
「はぁ、染みる…」
一応、エルフとしては若いのだが、思わず年寄りのような言葉が漏れてしまった。
「はい、お疲れさまでした。無事に帰ってくるか心配していましたが、杞憂に終わってよかったです」
エミリアが笑みを浮かべた。
「ごめんね。エルフってどこか固い思考があるからね。今日の様子をみていれば、私やこの里にちょっかいかける人はいないと思うよ。エミリアとランスロットも安全だと思う。家族に手を出されたエルフがブチ切れるとどうなるか、知らない人はいないと思うから」
私は笑みを浮かべた。
「そうですか、朝方襲撃された時はどうしようかと思いましたが、これで安心です。ところで、家族といってくれましたね。これほど力強く嬉しい事はありません。なにか困ったら、遠慮なくいって下さい」
エミリアが笑った。
「うん、なにかったら素直に頼るよ。さてと、温泉から出たら帰りなのかな。いつもはどうなの?」
「はい、いつもはお礼してからここにきて、そのまま帰ります。あまりお邪魔するのもあれなので」
私の問いにエミリアが頷いた。
「分かった。マルシル、またくるよ」
「うむ、いつでも歓迎だ。今はゆっくりしていけ」
マルシルが笑った。
私の髪の毛はセミロングなので乾かす作業は大変だったが、ランスロットがせっせとやってくれた。
てっきりタオルドライなのかと思ったら、この世界にはドライヤーという便利な道具があり、これは助かった。
全員で身支度を整えて温泉施設を出ると、私たちはまずマルシルの家にいった。
「私たちはこれで引き上げます。今後もよろしくお願いします」
エミリアが頭を下げた。
「うむ、もっと気軽にきてくれ。寂しいからな。そうだ、ラシル殿には渡すものがあったな。少し待ってくれ」
マルシルが足早に家の奥にいき、拳銃とホルスター、弾丸一箱という一揃えを待ってきた。
「変わった拳銃だね。どうやって…」
「基本的に弾丸を飛ばす機械に変わりはない。リボルバーからセミオートに変わっただけともいえる。射法はあとでエミリアに聞くといい。慣れるまで少し時間がかるかもしれんが、より実戦的だ」
マルシルが笑みを浮かべた。
「うん、慣れる。ありがとう」
私は一式受け取って、小さく笑みを浮かべた。
「私もその拳銃は気になっていたので、助かりました。では、帰宅しましょう」
エミリアが笑みを浮かべ、私たちは里から出る事にした。
「うむ、送ろう。ついでに、パーキングエリアで飲み食いしていってくれると助かる。人間の金は重要だからな」
マルシルが笑った。
「はい、お土産でも買っていきます。では、いきましょう」
エミリアの声で、私たちは里から森の小道を通って、パーキングエリアまで戻った。
「うむ、では気をつけてな。私は戻るとしよう」
マルシルが手を振って、里に戻っていく様子を見てから、私たちは車に戻った。
「ちょっと、饅頭でも買ってきます。エンジンをかけてエアコンを効かせておくので、先に乗って待っていて下さい」
「あっ、待って。私も…」
みたい。そう声をかけたかったが、この世界、この国のお金を持ってない事に気がついた。
「あっ、どうしました?」
「いや、大丈夫。先に乗って待っているよ」
私は苦笑した。
エミリアが車の前席に乗って機械音が響くと、そのまま出てきて土産物が山積みになっているお店に向かっていった。
「よし、お利口さんに待つか」
私は笑って、ランスロットが開けてくれた扉から車内に乗り込み、奥につめてランスロットが座る場所を空けた。
すぐにランスロットが乗り込んできて扉を閉めると、もわっとした熱い空気が襲ってきた。
「いや、暑いね」
「うん、すぐに涼しくなるよ」
ランスロットが笑みを浮かべた。
しばらく待って、エミリアが土産物の袋を持ってきて、自分の席の隣席に置いた。
「お待たせしました。いきましょう」
エミリアが笑って、車を運転しはじめた。
帰りの道も快適で、さして時間も掛からず、私たちは家に戻ってきた。
「さて、少し休みましょう。温泉疲れで少し眠いです」
エミリアが笑みを浮かべた。
「そうだね、私も寝るよ。色々と疲れちゃった」
私は笑みを浮かべ、真っ直ぐ庭のログハウスに入り、ベッドに飛び込んだのだった。
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