第4話 エルフの里は戦が絶えず

 魔王退治の翌日、私は朝からログハウスの中で、なんとなく魔法書を読んでいた。

 国語のドリルの方は、いよいよ説明と設問がややこしくなり、まだ字が読めない私には解きようがなかったので、結局は外出の際はエミリアかランスロットが付き添う事となった。

 そちらはこれでクリアとして、あとは魔法が問題だった。

「元の世界で人間が使う音声発動式魔法はともかく、エルフ魔法が使えないエルフなどシャレにならないよね」

 私は苦笑した。

「まあ、慌ててもはじまらないか。可能であれば、マルシルに魔法の教典を読ませてもらおう。極秘扱いだから、見せてもらえたら奇跡だけど」

 私はもう一度苦笑した。

 ふと扉がノックされたので、私は扉を押し開けた。

「おはようございます。朝食の準備ができました、リビングまでどうぞ」

「うん、分かった。ものは頼みなんだけど、あとでマルシルの里まで連れていって欲しいんだ。エルフ魔法の教典を読ませてもらおうと思って」

 私は笑みを浮かべた。

「はい、分かりました。今日は特に予定はないので、いつでも構いませんよ」

 エミリアが笑みを浮かべた。

「ありがとう。それじゃ、朝食が終わったらすぐいこう。早い方がいい」

「分かりました。では、急ぎましょう」

 エミリアが笑みを浮かべた。


 朝食を食べに母屋に入ると、ダイニングのテーブルには、トーストとゆで玉子という、いかにも朝食らしいメニューが並んでいた。

「あっ、忘れていました。ランスロットを連れてきます」

「えっ、今までずっとお仕置き部屋だったの?」

 私は苦笑した。

「はい、このくらいは日常です。ゆっくり朝食を食べていて下さい」

 エミリアは笑みを浮かべ、家の奥に向かっていった。

「あーあ、受難のランスロットだね。でも、確かに召喚術は危険だから、せいぜいこのくらいしておかないと」

 私は呪文を唱え、指でサモンサークルいう魔法陣に似たものを描いた。

 すると、空中に描いたサモンサークルが光り、シルフという小さな精霊が出てきた。

「久しぶりの召喚ですね。なにか、世界の勝手が違うというか、よく分かりませんが別世界ですね」

 呼び出したシルフが小さく笑った。

「どこまで召喚出来るか分からないけど、この世界まで四大精霊の一つなんだね。さすが、召喚契約。死ぬまで解除できないだけの事はある」

 色々困っていたこの世界で、召喚術が使えるという事は十分過ぎる朗報だった。

「これで切り札が出来たよ。安心した。それじゃ、またね」

 私は笑って、シルフを元の世界に戻した。

「ラシルさん、私は見ていましたよ。今のは召喚術ですね」

 いったいいつ来たのか、ランスロットを連れたエミリアが笑った。

「うん、ちょっとお試しね。基本的に召喚は契約を結んだ、

特定の誰かを呼びだすものだから、多分空間の制約を抜けてでも呼び出せるかもね…程度で試したんだ。ちゃんと召喚できた」

 わたしは笑った。

「そうですか。今のはなんですか?」

 エミリアが物珍しそうに聞いてきた。

「シルフっていう、風の精霊だよ。もっと違うのも召喚できるけど、攻撃的で荒々しいから、機会があったらね。もっとも、きてくれるか分からないけれど」

 私は笑った。

「ラシル、召喚術使をえるんだ。教えて、なんで私は下手くそなの?」

 ずっとお仕置き部屋とやらにいたせいか、疲れが見えるランスロットが、いきなり率直に質問をぶつけてきた。

「うーん、単純に経験不足だと思うけどね。失敗の時は、体に電撃みたいなのが走るから、そこで急いでキャンセルする…。こっちはどうか分からないけれど」

 私は苦笑した。そう答えるしかなかった。

「経験不足に電撃…確かに感じる。無理すると絶対に失敗する。同じだよ」

 ランスロットが笑みを浮かべた。

「こら、無理しない。まだひよっこですから」

 エミリアが苦笑した。

「まあ、召喚はともかく、朝ごはんを食べよう」

 私は笑った。


 朝食が終わり、エミリアが食器を洗って片付けると、一息吐いてから私はエミリアにマルシルの里まで連れて行ってもらうよう、改めてお願いした。

「あっ、分かりました。車の準備をしていますので、荷物を整理してから出てきて下さい」

 エミリアが外に出ていき、車のエンジン音が聞こえてきた。

「荷物っていっても、背嚢くらいしかないけどね」

 私は笑った。

「ラシル、なんでマルシルの里にいくの?」

 ランスロットが聞いてきた。

「エルフ魔法を使えるようにするためだよ。多分、ヒントはあると思うんだけどね」

 私は笑みを浮かべた。

「そうなんだ。それで、さっきの召喚術だけど、サモンサークルを描いてなかったよね。どうやったの?」

「うん、ちゃんと指で描いたよ。見てなかった?」

 私は笑った。

「えっ、あの指で描いたものが…」

「その通り、イメージなんだ。強力なものは召喚できないけどね」

 私は笑みを浮かべた。

「想像も出来ないな。あとで教えて」

「エミリアの許可がでたらね。二人でお仕置き部屋なんて嫌だから」

 私は笑みを浮かべた。

「あっ、私じゃまだダメなんだ…」

 ランスロットが小さく息を吐いた。

「そういう事。今はエミリアのいう事を聞いて、失敗しないようにする事が先だね。そうしたら、教えられる事もあるかもしれないよ」

 私は笑みを浮かべた。

「そうか…。悔しいけど、修行しなきゃね」

 ランスロットが笑った。


 私たちが外に出て合鍵で扉の鍵をかけ、車で待っているエミリアの元に行くと、私とランスロットは後部座席に乗りこんだ。

 相変わらず今日も暑いが、車の中は涼しくなっていた。

「前も思ったけど、なんで涼しいの?」

 私はエミリアに問いかけた。

「はい、エアコンといって空気の温度や湿度を調整する機械がついているんです」

 エミリアが笑った。

「へぇ、夏場の乗り合い馬車にも欲しかったな」

 私は笑った。

 夏暑く冬は寒い。乗り合い馬車は、自然との戦いだった。

「乗り合い馬車というのはよく分かりませんが、この国は機械技術が発展していますので、快適に旅が出来ると思いますよ」

 エミリアが笑みを浮かべ、車を走らせはじめた。

 車はきれいに舗装された道路を走っていくと、行く先にある小規模な村で火災が発生していた。

「大変ですね。お手伝いしましょう」

 エミリアが車の速度を上げ、村の門を潜った先ですぐに止めた。

 私たちは一斉に車から飛び下り、エミリアと私で地面に素早くサモンサークルを描いた。

「…ウンディーネ!!」

 私の方が速く召喚術を完成させ、サモンサークルが光ってきれいな女性が現れた。

「あら、誰かと思えば…。それどころではありませんね。水をぶっかけましょう」

 ウンディーネが笑い、その全身が光ったかと思うと、火災現場に集中豪雨のように、ピンポイントで大量の水を振らせた。

「あっ、凄いですね。それは、なんですか?」

「うん、ウンディーネっている水の精霊だよ。こっちの世界にはいないの?」

 私はエミリアに問いかけた。

「四大精霊力があるので、その源はなにかと研究が進んでいる段階です。本当にいるのですね」

 エミリアが笑い、自分の召喚術をキャンセルした。

「それはいますよ。四大精霊の力が及ぶ世界では。それでは、失礼します」

 ウンディーネは笑みを浮かべ、そのまま姿を消した。

「これは、記念すべき日ですね。精霊は実在したと、この目で確認しましたからね。さて、状況確認をしましょう。あの家が火元ですね」

 三件ほど火災にやられていたが、その中でも特に燃え方が激しい家に向かって、エミリアと私は近寄っていった。

「応援感謝する。今は五名の火傷の治療をしている。全員命に別状はない」

 火災現場から男性が出てきて、小さく笑みを浮かべた。

「俺はこの村の警備団を取りまとめている団長だ。なにか歓迎でもしたいが、今はいそがしくてな。申し訳ない」

「はい、お礼はいいですよ。私たちも通りすがりなので、ここで失礼します」

 エミリアが笑みを浮かべ、私たちは車に戻った。

 車が走り出し、私はようやく一息吐いた。

「な、なんか、凄い召喚をみたな。しかも、お母さんより速くサモンサークルを描くなんて…」

 ランスロットが目を白黒させながら、ポツリと呟いた。

「私はなにを召喚しようかと、一瞬考えた。ところが、ラシルさんはもう最初から決めていた。これが、その差です。召喚士として、これは見習うべき事です」

 車を運転しながら、エミリアが笑った。

「いや、火だから水だって単純な発想だよ。ちなみに、出発前に召喚したシルフは『風』の精霊だよ。もう一回いっておく。四大精霊の一つだから、これで残りは二つだね」

 私は笑った。


 エミリアが運転する車は街道を進み、この前きたパーキングエリアに到着した。

 車から降りると、まるで待っていたかのように、笑みを浮かべたマルシルがやってきた。

「町の周囲には非常時に備えて監視要員を配置しているので、なにか変化があれば連絡が入る。車で出かけたときいて、目的地はここだろうと思って、茶をシバキながら待っていたのだ。どうした?」

 マルシルが笑みを浮かべた。

「うん、私の都合なんだけど、エルフ魔法が使えないんじゃ話しにならないと思って、教典があれば見せてもらえないかと…」

 私は小さく息を吐いた。

「うむ、そう落ちこむものではない。残念だが、教典は見せられん。あれは、最高機密だからな。もっとも、『同じ世界のエルフ』に対してだがな」

 マルシルが笑った。

「えっ、それじゃ…」

「ああ、読んでも構わん。いかにややこしい状況か分かるはずだ」

 マルシルが笑みを浮かべた。

「ややこしい状況…。どんな感じなんだろ」

 私は嫌な予感しかしなかった。

「まあ、すぐに分かる。里にいこうか」

 マルシルが笑みを浮かべ、この前通ったパーキングエリアの裏手に回ったところにある柵の門を開けた。

 森の中の小道を歩き、程なく見えてきた里に入ると、マルシルは私だけ連れて、里の奥にある祠に連れていってくれた。

「ここに教典がある。入ろう」

 私たちは祠に入り、鍵が掛かった金庫のような箱の前で止まった。

「えっと…。これだな」

 マルシルが大量に鍵がぶら下がったキーホルダから一本を選び、その箱の鍵穴に鍵を差しこんで開けた。

「これが教典だ。紙が劣化しているので、このまま手をかざして欲しい」

 マルシルに頷き、私は箱の中に右手を入れ、そっと目を閉じた。

 魔法書でもそうだが、より込められた力が強い教典は、目眩するほど強烈だった。

「ふぅ、困ったね。まさか、『信仰』が必要だったとは」

 私は苦笑した。

 私の世界ではすっかり廃れてしまっていたが、エルフには唯一神がいて、信仰することで様々な恩寵を得る事が出来るとされている。

 しかし、私の世代ではそんな事は親からも教わらない、ただの言い伝えのようになってしまっていた。

「そうなのだ。こちらでは、物心つく前からみっちり仕込まれる。私も同様だ。エルフ魔法は、唯一神の恩寵を得る事で様々な事象を引き起こす。その様子だとラシル殿の世界では神がいないか、いてもロクに信仰されていないだろうな」

 マルシルが苦笑した。

「まあ、廃れちゃってたからね。そっか、エルフ魔法は諦めた方がいいね。いきなり『信じました。よろしくお願いします!』じゃダメだから」

 私は苦笑した。

「だから、ややこしい状況といったのだ。この世界のエルフで、この神を信仰していない者はいないだろう。つまり、ラシル殿はエルフであり、エルフではない。もちろん、人間でもなく、他の種族でもない。全く新しい種族になった。まあ、大袈裟に語り過ぎたが、エルフ魔法は厳しいかもしれんな」

 マルシルが申し訳なさそうな表情を浮かべた。

「気にしなくていいよ。私にはこれがある」

 私は腰の剣を叩き、唯一使える明かりの光球を浮かべた。

「うむ、納得してくれたならそれでいい。私も気がかりだったのだ。この世界の生活に早く慣れて欲しい。困ったら、いつでもくるがいい」

 マルシルが笑みを浮かべた。

「ありがとう。助かるよ」

 私は笑みを浮かべた。


 祠から出ると、エミリアとランスロットが待っていた。

「どうでしたか?」

 エミリアが聞いてきた。

「ダメだね。肝心なパーツが足りず、しかもそれは手に入らない。エルフ魔法は諦めるよ。残ったのは召喚術と、少しは見込みがありそうな普通の魔法だよ」

 私は笑った。

「そうなんだ。召喚術の役に立つか分からないけど、お母さんに聞くといいよ。なんでも教えてくれるから」

 ランスロットが笑みを浮かべた。

「私からラシルさんに教える事はありません。むしろ、私が教えて欲しいです。例えば、シルフとかウンディーネですが…。四大精霊は全て呼べるのですか?」

 エミリアが笑みを浮かべた。

「そうだね。ちょっと広い場所に行こう。マルシル、広場みたいな場所ある?」

「うむ、あるぞ。ついてきてくれ」

 マルシルが笑みを浮かべ、あたしたちを里の広場に案内してくれた。

「よし、それじゃいくよ。これをみて分かるほど簡単に出来るものじゃないけど、私の自慢だと思って」

 私は笑い、空中に字が書ける特殊なチョークで大きなサモンサークルを描いた。

「それじゃ…」

 私は口早に呪文を唱えた。

 召喚魔法は契約で、被召喚者と強い結びつきがある。呪文はオマケ、強く念じるためのものでこれ自体に意味はない。

 ここにも四大精霊の力が及んでいるという事は、シルフを呼び出せたという事で分かっているので問題ない。

 あとはいつもの要領で…。

「…アル・パチーノ!!」

 私が叫んだ瞬間サモンサークルが光り、四大精霊が全員集合して出現した。

「…えっ」

 エミリアが固まり、ランスロットが卒倒した。

 里のみなさんまで驚きの声を上げて集まり、かなりの騒ぎになってしまった。

「うむ、これが四大精霊か。こうして姿をみるのは初めてだ」

 里長らしく冷静さを保ったマルシルが、小さく笑った。

「これで、エミリアのリクエストはかなったかな」

「は、はい、本当にいた。メモメモ…」

 エミリアはペンを取り出し…書く用紙がなかったからか、卒倒して動かないランスロットの服を無理やり脱がせ、背中になにやら書き込みをはじめた。

「せっかくだから、契約しちゃえば。こうして出てきて帰らないって事は、面白くて楽しんでいる証拠だから」

 私は笑った。

「うむ、楽しい。我々がそんなに珍しいか?」

 巨人のような土の精霊、ノームが笑った。

「まだ甘ぇな。不勉強だぜ!!」

 喋るだけで火を吐く、火の精霊サラマンダが笑った。

「私はもうお会いしましたよね。ウンディーネです。水を司っています」

「私は風のシルフ。お話しはしていないけど、見ているはずだね」

 ウンディーネとシルフが笑った。

「け、契約といわれても、どうすれば…」

 エミリアが困惑した様子で、言葉に詰まった。

「なんじゃ、そんな事も知らんのか。我らの体に触れれば契約完了だ。その度胸があればな。ちなみに、そこのラシルは怯えるどころか、目を輝かせてワシらの頬に口づけして契約したのだ。どこまでもバカだな」

 ノームが大笑いした。

「ば、バカって…。まあ、いいけどね。怖くないから、どうぞ」

 私は笑みを浮かべた。

「そ、そうですか。では…」

 エミリアが四大精霊のそれぞれに触れ、すかさずマルシルまで触って契約した。

「そっちの倒れている子も召喚士だな。まだ駆け出しのようだが見込みはありそうだ。おい、ラシル。抱えて我ら全員に触れさせろ。仲間外れは可哀想だ」

 ノームがぶっきらぼうに催促してきたので、私は服を脱がされて下着だけになったランスロットを抱え、それぞれの精霊に肌を触れさせた。

「あ、あの、その子まだ見習いですよ…」

「なに、ワシらは気にせん。召喚されたと感じ取ったら、どこにでも顔をだす。場所さえ分かれば、あとは任せろ」

 ノームが頷いた。

「うむ、なかなか気前がいい連中だな。気に入ったぞ」

 マルシルが笑った。

「よし、これで用事は終わりか。くれぐれも、やりたい事とワシらの属性を間違えるなよ。例えば、火災を鎮火しようと思ったら、水のウンディーネ。湖を造ろうと思ったら、ワシとウンディーネという感じでな。ああ、それとラシル。ワシらの生みの親もきているが、どうする?」

 ノームが笑った。

「…だと思った。今の状況だと、なにかの役に立つかもしれん。契約しよう」

 私がため息を吐くと、居並ぶ四大精霊の隙間から黒い霧のようなものと、白い霧のようなものが現れ、私を一瞬取り巻くと、そのままなにもなく消え去った。

「あの、今のは…?」

「ああ、四大精霊の親だね。黒い方が『破壊』、白い方が『創成』を司っているんだけど、下手すると世界を丸ごと滅ぼしかねないから、元の世界では契約を断固拒否していたんだよ。四大精霊全てに気に入られるなんて、かなり珍しい事例だったみたいで目をつけられたんだ。今回はなにが起きるか分からないし、契約しておいて損はないだろうっていう程度だけどね」

 私は苦笑した。

「それでは、もう用事はないな。ワシたちは引っ込む。また呼んでくれ」

 ノームが挨拶をして、四大精霊全ての姿が消えた。

「どう、ちゃんといたでしょ?」

 私は笑った。

「は、はい、驚きました。しかも、召喚契約まで結んで頂けるとは…」

 エミリアが慌ててランスロットの肌に、なにか文様を描きはじめた。

 そこに手を当ててエミリアが呪文を呟くと、一瞬光りが走りその文様は消えた。

「あれ、なにしているの?」

「はい、封印です。また問題を起こされたら、私の責任ですからね。ここは、きっぱりしっかり封印しておいて、その段階まで成長したら封印を解除します。四大精霊全てですからね」

 エミリアが笑みを浮かべ、脱がせたままほったらかしだったランスロットに服を着せた。

「ラシルさん、今日はいいお土産が出来ました。ありがとうございます」

「いえいえ。基本的に召喚術は契約さえ結べれば、それほど大変じゃないはずなんだけど、なんでランスロットはダメなんだろ…」

 私は考えながら呟いた。

「いえ、完全にダメというわけではありません。ゴブリンやコボルトなど、何種類かは召喚契約出来ています。しかし、イタズラが過ぎるというか、やる気があるのはいいですが、それが暴発してしまうのです。私もそうだったので、よく分かりますが、その危険性も分かっています。事故だけは起こして欲しくなかったのですが、ラシルさんがその被害に…これは、紛れもなく事故なんですよ」

 エミリアが苦笑した。

 ゴブリンは通称小鬼ともいわれ、醜悪な外見が特徴の魔物だが、簡単に契約してくれるので初心者には丁度いい。コボルトは二足歩行する犬の魔物だが、気性は穏やかでちゃんと会話が成立するので、こちらも初心者には最適な相手だった。

「まあ、これも旅。まさに冒険だよ」

 私は笑った。


 しばらく待っていると、ランスロットが意識を取り戻した。

「あれ、なにか凄いものを見たような…」

 ランスロットが首を横に振った。

「四大精霊全てをみたところで、あなたは気絶してしまったのです。これは嘘ではなく本当の話で、あなたは四大精霊全てと召喚契約を結んでいます」

 エミリアが笑みを浮かべた。

「い、いつの間に!?」

 また卒倒しそうでなんとか頑張り、ランスロットの声がひっくり返った。

「うん、四大精霊全てがやっておけっていうからね。精霊の場合、お互いに肌と肌を触れ合わせれば、それだけで契約を結べるから楽だよ」

 私は笑った。

「はい、その通りのようです。今すぐにでも、四大精霊を召喚出来るといったら、あなたはどうしますか?」

「もちろん呼ぶよ…イテ!」

 エミリアのゲンコツを受け、ランスロットが頭をさすった。

「だからダメなんです。自分の力量で、なんとかなるという自信はありますか。そもそも、精霊の名前が分かりますか?」

 エミリアが苦笑した。

「ううう…」

「事前に手を打って、あなたの中にある四大精霊全ての力を封印しました。成長具合によって、徐々に封印を解除していきます」

 エミリアが笑った。

「…文句はいえない」

 ランスロットがため息を吐いた。

「まあ、四大精霊は優しいから、そんなにビビる必要はないよ。お母さんの許可をもらって召喚できるようになったら、ゆっくり話しを聞くといいよ。面白いかもしれないよ」

 私は笑った。

「精霊と話せる…。メモに追加です。ランスロット、服を脱ぎなさい!」

「な、なんで!?」

 慌てて逃げようとしたランスロットを捕まえ、エミリアはあっという間に彼女の服を脱がせてしまった。

「動いたら怒りますよ!!」

 エミリアがランスロットの背中にメモを書き込み、再び服を着せた。

「な、なんなの!?」

「メモです。油性インクのペンなので、ちょっとやそっと汗をかいたくらいでは消えません。あとできれいにします」

 エミリアが笑った。

「お、お母さん。まさか、意識がない私に…」

 ランスロットが言葉尻を下げて、深いため息を吐いた。

「…無駄だけどいうよ。いい加減にしなさい!」

 さすがにこれにはブチ切れたようで、ランスロットが怒鳴った。

「まあ、善処はしましょう。他に書くものがなかっただけです」

 エミリアが小さく笑った。

「凄い親子だね。ある意味」

 私は苦笑した。


 現状では、私にとっては大事なエルフ魔法は使えない。これは、確定的だった。

 そうなれば、人間の魔法を憶えるべし。

 しかし、これも大変な作業で、よく知っているルーン文字ではなく、カラデナ文字というよく分からないものが、ここでの魔法文字のようだった。

 その程度は魔法書から感じ取る『意思』で読めるのだが、意地と気合い、根性をつぎ込んでも、出来たのは儚く弱々しい明かりの魔法だけ。

 いっそ魔法も諦めようかと思ったが、使い慣れた道具がないと困るのは事実で、これは通常の魔法も使えるという、エミリアに教わる事にした。

「うむ、せっかくきたんだ。ゆっくりしていくといい。昼食の用意をしている」

 マルシルが笑った。

「あっ、お構いなく。お昼を頂いたら帰ります」

 エミリアが笑みを浮かべた。

「うむ、そうか。今日は特に予定がなかったのだが、一つ困った事があってな。この近隣に人間が村を作って住みはじめたのだが、お隣として挨拶しておくべきだと思って使者を派遣したのだが、村の中に入れてもらえないらしい。エルフ嫌いという感じではなさそうなのだが、どうも外部から誰かが入る事を嫌っているらしくてな。余裕があればでいいから構わん。少し様子を見にいってくれるか?」

 マルシルが服のポケットから、小さな革袋を取り出した。

「金貨三十枚だ。礼金だと思って欲しい」

 マルシルは私にそれを手渡してきた。

「金貨…硬貨なんだね。価値がイマイチ分からないけれど、大金っぽいしひとっ走りいってくるよ」

 私は笑みを浮かべた。

「うむ、頼んだぞ。護衛と道案内を兼ねて、二人つけよう。パーキングエリアの駐車場で待っていてくれ」

 マルシルが笑みを浮かべた。

「分かった。それじゃ、いってくる」

 私は念のため、出歩く時はずっと装備している革鎧のベルトを締め直した。

「うむ、気をつけてな。無理はしないでくれ」

 マルシルが笑った。


 最後までついていくと粘った、エミリアとランスロットをなんとか説得して里に残し、私は一人でパーキングエリアの駐車場に向かった。

 到着すると、デザインはちょっと違うが、エルフの民族衣装とすぐ分かるものを着た二人が待っていて、黒塗りの車を用意して待っていた。

「お待たせ!!」

 私は笑みを浮かべた。

「暑い中お疲れさまです。里長からの指示で、行く先は分かっています。ここから車で十分ほどです」

 民族衣装を着た一人が、笑みを浮かべた。

「そっか、じゃあ急ごうか」

 私は小さく頷いた。

 私は後部座席に乗り、案内役と護衛役の二人は前席に乗った。

「では行きます。くれぐれも気をつけて下さい。私は一度行きましたが高い壁に阻まれて中の様子は分からず、人の気配がして喋り声も聞こえていたので、無人ではないようですが、どこか不気味な感じでした」

 もう一人が小さな息を吐き、車は町を出て道路をゆっくり走りはじめた。


 車に乗ってすぐ。街道沿いに、少し大きめの村のようなものが見えてきた。

 聞いた通り、村のようなものの柵には高い壁が作られていて、中を伺い知る事は出来なかった。

「…露骨に怪しいな」

 私は苦笑した。

「車をゆっくり進めてくれるかな、村の門を守る見張りが気になる」

「はい、分かりました。ハザードをつけて進みます」

 前席の車を動かしているエルフがなにかボタンを押すと、カチカチという音が一定周期で鳴りはじめた。

「これで、ゆっくり走っていても。何らかの故障と見なしてくれるでしょう。注意しながら進みます」

 車を動かしているエルフが、まるで歩くよう村に近寄っていった。

「…門番がゴブリンだ。人間じゃない」

 はっきり見えてきた村の門を守っていたのは、なぜかどこにいってもいる、小鬼ことゴブリンだった。

「ゴブリンですか?」

 私の呟きを聞いたようで、二人のエルフが顔を見合わせた。

「気が付かないか…。あの尖った縦耳に牙、異様なほど醜悪な顔に背は低い。ゴブリンの特徴を完全に網羅してるよ。こうなると、あそこは人間の村じゃない。人間贔屓しているわけじゃないけど、事情によっては早めに潰しておかないと、里に被害が出る可能性もあるね」

 私の言葉に、前列の車を動かしている方の隣に座っているエルフが、一度みた事がある無線機を手にした。

 それで、口早に誰かとやり取りしたようで、もう一人のエルフが問いかけてきた。

「もう間近です。車を止めますか?」

 車の正面ガラスの向こうに、もう門番がはっきり見えるところにきた。

「いや、このまま行こう。門の前で止めて」

 私はショートソードが腰にある事を確認してから、前を見つめた。

 私の指示で街道から村の前に向かうと、門番二体がこちらに向かって歩いてきた。

「なんだ、この村はまだ開発中だ。邪魔だから帰れ」

 車を動かしている方のエルフが窓を開けると、門番の一体がぶっきらぼうに、取り付く島もなく警告してきた。

「…へぇ、生意気に威嚇するか」

 私は笑みを浮かべた。

「どうしますか?」

「ここで止まってて」

 私は車を降りて、そっとショートソードの握りに手を掛けた。

「なんだ?」

 もう一体が声をかけてきたので、私は笑みを浮かべてショートソードを鞘から抜き様にその一体の首を撥ねた。

「ん?」

 私は素早く動き、異変に気が付いてこちらをみた門番の首に剣の切っ先を突き刺し、声が出せないようにしてから、袈裟懸けに斬り飛ばして第一の障害物を除去した。

「あ、あの、このあとどうすれば…」

 窓を開けっ放しだった、車を動かしていた方のエルフが聞いてきた。

「二人とも戦える?」

「は、はい、エルフ並みには…。危険ですよ。里に応援要請を出したので、待ってから突撃しましょう。とりあえず、邪魔になってしまうので、車を街道に出して駐車してきます」

「あなたは車で待機でいいかな。護衛のあなたは一緒にきて戦力になってね」

 私は笑みを浮かべた。

 護衛のエルフが降りて車が離れて行くと、私はとりあえず門の様子を伺った。

「…間に合わせだね。ベニヤ板だ。大事な門がこの有様なら、外壁はもっと脆いか」

 派手に偵察行動をするわけにはいかないので、私と護衛のエルフは壁を背にしてなるべく見つからないようにした。

 私は迂闊にもまだ名前を聞いていなかったエルフと、お互いに頷いて時を待った。

 里からここまでの距離は短い。

 街道をみていると、見覚えのある大型トラックが街道の道沿いに止まり、さりげなくここへの枝道を塞いだ。

 そして、先に乗ってきた黒い車とトラックの人同士がなにか会話している様子がみえ、ゆっくりトラックと車をワイヤーで繋ぐ作業をはじめた。

「…なるほど、故障車のフリをして近寄ったから、どうやっても目立つトラックの偽装で、引っ張るフリをしたんだ。なんでも、使ってみるものだね」

 私が呟いたとき、いきなり肩を叩かれ、私は反射的に剣を構えた。

「おっと、待ってくれ。私だ」

 いきなりなにもない目前にマルシルの姿が現れた。

「透明化のエルフ魔法か。私の世界にもあったし、もちろん使えたんだけど、悪さする輩が多くて禁術になっていた。まあ、ちょっとした冒険で書物を長の家から盗んだんだけどね」

 私はひっそり笑った。

「なるほど、なかなかのお転婆と見た。それはさておき、これは明らかになにかの住処だな。盗賊団だと思うが、中にはこうして堂々と基地を建てるものもいる。よほど実力に自信があるのだろう。まあ、今日までだがな」

 マルシルがニヤッと笑みを浮かべた。

「やる気満々だね。でも、里長がこんな場所にいていいの?」

 私は苦笑した。

「問題ない。というより、いなければならん。こういった時に、皆に力を示す事が必要なのだ。先日の対エルフ戦もその一つだ」

 マルシルが小さく笑みを浮かべた。

「さて、そろそろ片付けよう。透明化の魔法で、すでに五十人でここを包囲している。一気に潰してしまおう」

 マルシルがハンドシグナルを送ると、十名ほどのエルフたちが透明化を解いて姿を見せ、

 扉になにか仕掛けはじめた。

 透明化の魔法は少し激しい動きをすると、勝手に解除されてしまうという、防御用の魔法だ。

 もっとも、私の世界では主に犯罪に使われる事が多かったが…。

 扉への細工は手早く行われ、マルシルがハンドシグナルを出すと十人が一斉に門から離れ、マルシルに手を引かれて扉から離れた。

「うむ、場所はここでいいな。身を低くしろ」

「分かった」

 マルシルの姿に背負って、まるで王の前で傅くように、片膝をついて座った。

「よし、いくぞ」

 マルシルが無線機を片手に一声呟くとあちこちで爆音が届き、私たちが待機している門の扉もいきなる爆発して粉々に消し飛んだ。

「うわ…」

「うむ、プラスチック爆薬だ。確かコンポジット4だったか。まあ、いいな。いくぞ」

 マルシルの声に押されて、私は騒ぎが収まっていない村のようなものの中に突入した。 恐らく、この前会った警備隊だろう。マルシルが率いる隊員たちが、走っているこの中央通りから分岐する路地に入っていき、敵の排除に向かったようだった。

「それにしても、ゴブリンだらけだね。召喚術を使わない限り、これだけの数は集められない…おっと」

 ちょうど路地から飛び出てきたゴブリンが、私に向かって鉈のような剣を振ってきたが、特注の革鎧がその一撃を弾き、すかさず一撃を返してそのゴブリンを斬り飛ばした。

「そうだな。とにかく、ここの長を探そう。斥候隊の報告によれば、最奥部の広場で取り巻き十体のオークと共にいることが多いらしい。まずは、そこを目指そう」

 マルシルの言葉に頷き、私はさらに走る速度を上げた。

 並み居るゴブリンたちを薙ぎ払うように村の奥に進んでいくと、急に開けた場所に出て、ゴブリンではなく、オークが十体現れて私たちの行く手を阻んだ。

 オークは鬼ともいわれ、ゴブリンよりタフで破壊力のあるパンチを武器にしているが、動作が遅すぎて話しにならない。

「こんなの…」

 ゴブリンより頭一つ分大きいとはいえ、鈍足の力持ちに過ぎない。

 ここマルシルと半分に分けて、私は剣でマルシルは攻撃魔法でという感じで、あっという間に決着がついた。

「あら、やりますね」

 その向こうに、金属製の半身鎧を身につけ、すでに剣を構えていた女性が立っていた。

「…あなたたちは何者なの。こんなに魔物ばかり集めて」

「分かっているはずです。今日日、魔物を主力とする盗賊団など、珍しくはないでしょう。 女性は小さく笑みを浮かべ、鋭く突きを放ってきた。

「…」

 私はそれを避け、がら空きになった女性の脇腹に剣を叩き付けた。

 金属製の半身鎧なので、斬る事はあまり期待出来なかったが、単純な打撃は与えられるので、無駄はないはずだ。

 私と女性は、背後に跳んだ。

「なかなかの使い手だね。名前を聞いておくよ。私はラシル」

「その名を覚えておきます。墓標に刻ってあげますね。私はララ。久しぶりに、本気を出せる相手とみました」

 ララが笑みを浮かべて、今度は剣を中段に剣を構えると、一歩で間合いを詰めて斬りかかってきた。

「…誘いだ」

 私はあえてその一撃を鎧で受け止め、その衝撃に身を任せて倒れるようにしてしゃがみ込んで、剣を横薙ぎに振って足を狙った。

「むっ…」

 短く声をあげてララが跳んで私の剣を避け、飛び退きざまに私の顔を狙って突きを放ってきたが、それは私の頬を掠めただけだった。

 私は素早く立ち上がると、剣を水平に構えて突進し、ララの首を狙ったが剣で弾き飛ばされた。

 それ以後は剣の打ち合いになり、戦いは膠着状態になった。

 そのうち、私の頭が熱くなってきたが、理性がそれを必死に押さえ込んでいた。

 戦いは熱くなりすぎはマズい。分かっていた。

「へぇ、やるじゃん」

 剣を振りながら、私は笑みを浮かべた。

「それは、こちらのセリフです。ここまで打ち合える相手など、そうはいませんからね」

 ララが笑い、さらに剣の速度を上げた。

「なんの!!」

 私はそれを上回る速度で剣を繰り出し、お互いの顔や鎧に入る傷が増えていった。

「そろそろギブアップしたら?」

 私は剣を振りながら、笑みを浮かべた。

「それは冗談でしょ。剣の速度が落ちていますよ」

 ララが小さく笑った。

「…じゃあ、決めますか」

 私は隙を突いて間合いを開け、剣を水平に構えた。

「斬撃、黒水」

 私の全力を込めた横薙ぎ一閃は、確実に上半身と下半身の間。ちょうど鎧がない部分を斬り飛ばした。

「ふう、終わったか…」

 一息吐いた時、いきなり背後に気配が生まれ、背中に強烈な痛みが走り、衝撃で吹き飛ばされてしまった。

「その鎧は、なかなかいい作りですね。革製なので、容易く切り裂けると思っていたのですが」

 私が技を使った隙を突いて、いきなり背後に回り込まれてしまったようだが、確かに手応えはあった。一体…。

「なんでという表情ですね。危なかったですよ。結界魔法です」

 ララが笑った。

 よく見ると、ララの腰から下が青白く光っていた。

「…それ、反則だよ」

 私は思わず苦笑してしまった。

「あるものはなんでも使います。ルールは存在しない、喧嘩みたいなものですからね」

 ララが笑った。

「喧嘩ね…。甘くみられたもんだ」

 私はあえて剣を構えず、一気に間合いを詰めた。

 ララは結界を解き、私が繰り出した構えなしの一撃を受け止め、そのまま力の押し合いとなった。

 しばらくつばぜり合いが続いたが、最終的に私が押し返した瞬間、ララに大きな隙を作った。

「刺突、紙桜!」

 私は渾身の一撃をララの首に叩き込み、その首が飛んだ。

 しばらく様子をみていると、痙攣していたララの体が静かにピタッとやんだ。

「うむ、見事だ。皆の者も賞賛しているぞ」

 どうやら、戦いを見守ってくれていたらしいマルシルが拍手した。

「あれ、みんな集まっちゃった?」

 私は笑った。

「うむ、もうここを焼くだけになった。残敵はもういないぞ」

 マルシルが笑みを浮かべた。

「よし、どうせ焼くならララの遺体も燃やそう。誰か、油と火を…」

 このままだと、半分焼けただけになってしまう。

 事前に火葬しておこうと頼もうとしたが、その前にマルシルが呪文を唱え、ララの遺体がスッと消えた。

「骨を残しても魔物か野獣の餌になってしまう。魂の浄化と肉体の細分化を行った。これはエルフ式の弔いだ。立場が違ったものならば、よき友人になれたもしれんが、残念としかいいようがない」

 マルシルが小さく頷いた。

「そうだったかもね。でも、盗賊の頭に手加減は無用だから」

 私は笑った。


 私たちは、結局は盗賊のアジトだった場所から出ると、応援で駆けつけてくれた里の皆さんが魔法で放火して、できる限り痕跡を消し去った。

「うむ、用事は終わった。早く里へ戻ろう」

「うん、分かった。私は返り血や怪我で汚しちゃうから、あの黒塗りの車には乗れないよ。トラックに乗る」

 私は笑みを浮かべた。

「そうか、別に構わないのだが、空荷なのはもったいない。私が乗って帰るとしよう」

 マルシルが笑った。

「うん、分かった。里でまた!」

 私は笑って、すでに全員が乗車しているトラックの荷台に乗りこもうした。

 すると、背後から肩を掴まれた。

「こら、本当にトラックに乗ってどうする。あれだけの戦いをやったあとだ、車などあとで掃除すればいい。乗り心地がいい方にしておけ」

 背後を振り向くと、マルシルが笑みを浮かべて立っていた。

「えっ?」

「ほら、こい。エアコンで冷え冷えだぞ」

 マルシルに引っ張られるようにして、私は黒塗りピカピカ車の後部座席に、なかば強引に押し込まれた。

「い、いいの?」

「うむ、構わん。私も同乗しよう。トラックは任せて、先に帰るとしようか。

 マルシルが後部座席の隣に座り、車を出すように指示を出した。

 あとは乗るだけ十五分。私たちは里に戻ってきた。

 マルシルの家にいくと、ランスロットとエミリアが大人しく待っていた。

「ラシル、どうだった。怪我をしているけど大丈夫?」

 ランスロットが慌てた様子で声を上げ、エミリアが回復魔法で治療してくれた。

「ありがとう。いや、魔物しかいない盗賊団で、頭張ってるのが人間の女性でさ。腕が立つから時間がかかったけど、なんとか倒せたよ」

 私は笑みを浮かべた。

「気をつけて下さいね。命は一つしかありません」

 エミリアが苦笑した。

「無理はしていないつもりなんだけどね。はぁ、鎧を直さないと…」

 私は革鎧を外して汗まみれのシャツ一枚になり、鞄からワックスと布を取りだして、手早くしっかり手入れをした。

「うーん…小傷は消えたけど、特に強烈なものをもらっちゃった背中は傷が深いな。えっと、リペアキットはと…」

 私は空間ポケットを開いて中身を漁り、長さ四メートル幅一センチ程度の細長い革を取りだして革鎧の傷に押し当て、革挟みで適当な長さに切ると、それに糊を塗って気が付いた。

「あっ、圧着する道具がない…」

 革は糊をつけて、かなりの力で圧着しないと接着出来ない。

 しかも、すぐ接着できるわけではなく、何日かおく必要があった。

「まいったな。修理は難しいか…」

 私は小さく息を吐いた。

「あれだけ派手にやり合ったら、体が痛むだろう。医師を呼んできたのだが、浮かないなにか問題があったのか?」

 エミリア、ランスロットと一緒に通された客間に、マルシルがやってきて問いかけてきた。

「うん、この鎧は修理しないともう使えないんだけど、修理出来る見込みがなくて。どうしようかなって…」

「なるほどな。まあ、まずは体だ。そのゴザの上に仰向けで横になってくれ」

 私は鎧を傍らに置き、草で編んだマットの上に仰向けで横になった。

「失礼する。女医がいなくてな」

 白衣を着て入ってきたオジサンが、黒い鞄を持って入ってきた。

「簡単な目視確認だ。気分が悪いとか頭痛はあるか?」

「今のところないよ。シャツを脱いだ方がいい?」

 私は小さく笑った。

「そうだな、その方が助かる」

 私がシャツを脱ぐと、その医師が私の体を見て確認している様子だった。

「そうだな。体の正面に異常はない。うつ伏せになってくれ」

 医師にいわれた通り、私は体を転がしてうつ伏せになった。

「むっ、これは酷いな。首の下から袈裟懸けに打撲傷が出来ている。痛むか?」

 医師の指が背中に触れ、重い痛みが走った。

「イテテ…。ちょっと痛みます」

「そうか、やはりな。一週間くらいは安静にして欲しい。薬を用意してきたので、これを一日一回塗ってくれ。あとは大丈夫だ。では、これで失礼する。薬は自分では塗れない場所なので、誰かにやってもらうといい」

 医師が頷くと、大きめの軟膏容器を私のそばに置いて、医師が部屋から出ていった。

「うむ、まずはそのシャツを変えねばな。風呂の脱衣所に新しいシャツが置いてある。今のシャツは、鎧の隙間から返り血が飛び散ってもうダメだろうな」

 マルシルが笑みを浮かべた。

「なんだか、シャツばかり換えているね。ありがとう」

「なに、こちらの都合で戦ってもらっているからな。この程度では申し訳ない。その鎧はちょと預かる。腕利きの職人がいてな。直せるかどうか聞いてみるとしよう。その間に、シャワーで体を洗っておくといい」

 マルシルが私の革鎧を持って、部屋から出ていった。

「よし、さっそくシャワーを浴びてくる。上がったら、軟膏塗りはランスロットにお願いしようかな」

「はい、喜んで。できる事はなんでもしますので」

 ランスロットが笑みを浮かべた。

「一度しか見た事がありませんが、恐らくそれはあらゆる傷に効く、最高級の塗り薬ですよ。急いでシャワーを浴びて下さい。時間が経つと、気が付かなかった打撲の痛みがくると思いますので」

 エミリアが笑った。

「そうだね。急いでいってくる」

 私は笑みを浮かべ、部屋をでた。

 マルシルから教えてもらっているので、家の間取りは大体分かっている。

 風呂場にいくと脱衣所があり、カゴに新しいシャツとタオルがあり、ズボンまで入っていた。

「あっ、前回忘れてたやつだ。上ばかり気にして、下を忘れていたから、血なまぐさくてどうにもならなくて捨てたんだっけ。予備の着替えがあってよかったんだけど、今回でもう予備がないからね」

 これは素直に助かった。

「よし、シャワーを浴びよう」

 私は笑みを浮かべた。


 シャワーを浴びてみると、そこら中に小傷があったようで、なかなか痛かった。

 脱衣所で体と頭を拭き、ドライヤーで髪の毛を丁寧に乾かしてからシャツとズボンというパンツルックになった私は、さっぱりして客間に戻った。

「お待たせ。上がったよ!」

 私は笑った。

「あっ、お薬塗ります。シャツを脱いで、うつ伏せに…」

 ランスロットが軟膏容器を持ってきたので、私はシャツを脱いで先程と同じように、ゴザの上にうつ伏せになった。

「塗ります。痛いかもしれません…」

 ランスロットが背中に薬を塗ってくれた。

「イテテ…。はぁ、私もまだまだ未熟だなぁ」

 私は苦笑した。

「シャワーの間にマルシルから聞きました。なにも、盗賊団の頭と一騎打ちしなくてもいいのに…」

 エミリアが笑った。

「いや、みんなが雑魚退治に忙しかった感じだし、マルシルと一緒なら最悪動けなくなっても、ちゃんとフォローしてくれそうだったから、ちょっと無茶をしたかな」

 私は苦笑した。

「そういう時は、マルシルと共闘して下さい。まあ、過ぎた事です。お陰でラシルさんは、この里ではもうしっかり女傑ですよ。ほどほどにして下さいね。心臓に悪いです」

 エミリアが苦笑した。

「ラシルは強くていいな。私はもっと鍛えないといけないです」

 ランスロットが笑みを浮かべた。

「うん、頑張れ。景気づけに、お母さんにある召喚呪文を教えておくよ!」

 私は笑って、エミリアの耳元に口を寄せ、ある呪文を小声で教えた。

「ええっ!?」

 エミリアがぶっ飛んだ声を上げた。

「えっ、お母さん。なに、どうしたの!?」

 ランスロットの声がひっくり返った。

「と、とんでもない召喚です。命がけです。契約してくれるかどうか…」

「ああ、私が飼い慣らしてるから平気。怒られるのは私だから!」

 私は笑った。

 エミリアに教えたその呪文。考え得る限り、最強のなにかを召喚をするためのもの。

 無害と分かるから出来るこのイタズラ。さて、どうエミリアがどう出るか…。

「いえ、召喚術士としてこれはダメです。自信ができたら、試してみましょう。よもや、こんなものを召喚出来るとは…。一体、何者ですか」

 エミリアが笑った。

「なんだ、気合いで召喚しちゃうかなって思っていたんだけど…。さすがに妥当な判断をするね。ランスロットには?」

「当然、教えません。冗談では済まないので」

 エミリアが笑った。

「えっ、教えてくれないの。なんで?」

 ランスロットが頬を膨らませた。

「百万年早いです!」

 エミリアがピシャッと切った。

「そ、そんなに危険なものを…。ラシル、なにを召喚するの?」

「お母さんに聞いて。これは、あちこちに話して広げちゃダメ」

 私は笑った。

「そ、そんな、ご無体な…」

 ランスロットが肩をガクッと落とした。

「ちょっとだけ教えてあげる。これ私の世界の話しなんだけどね、無から有を最初に生み出した存在。神とまで畏怖されるなにか…とだけいっておくよ。いつも亜空間にいるから、召喚自体は簡単だよ」

 私は笑った。


 客間でランスロットの猛攻を受け流していると、扉をノックする音が聞こえ、マルシルが入ってきた。

「うむ、防具を専門に扱っている職人が呼んでいる。今は大丈夫か?」

「うん、平気だよ」

 私は笑みを浮かべた。

「よし、ではついてこい。そう遠くはない」

 私はマルシルに続いて家をでた。

 しばらく歩いていくと、文字は読めなかったが盾のマークで、防具を扱っている店だと分かった。

「ここだ。この里で防具といえばここだな。様々あるがパーキングエリアでは販売していないものもある。戦いに巻き込んでしまったのは不本意ではあるが、何度もこの里を救う戦いで活躍してもらったのだ。今回の鎧はその礼金として受け取ってくれ」

 マルシルが笑みを浮かべた。

「えっ、いいの?」

「うむ、ほんの気持ちだ。革鎧の修理ついでに、採寸もやったからな。まあ、入ろう」

 マルシルが笑い、私たちは店内に入った。

「いらっしゃい。さっそくきたね」

 どんな頑固オヤジが出てくるかと思っていたが、私の予想は外れ人の良さそうなおじさんが笑顔を浮かべた。

「こんにちは。鎧の具合はどう?」

「いや、ビックリしたよ。最近は銃があるから、鎧は滅多に見なくなったんだがね。この鎧は、かなりの名工が手塩にかけて作った逸品だとすぐに分かったよ。ただちょっと修理は出来ないな。これだけ深く抉られてしまうと、革でパッチを当てて修理しても、すぐに剥がれてしまうと思う。とはいえ、廃棄処分にするくらいなら、持ち帰って置いておくといい。長年の相棒だと思うからね。そうなると、今度は新しいものだ。材質は金属でも革でもなくて、イライコという樹木から切り出した無垢材を使っているんだが、ちょうど既存のものにサイズがピッタリ合うものがあったんだ。イチから加工しようとするとなると一年以上かかるからラッキーだったね。これだがどうだ?」

 おじさんがカウンターの上に、白く塗装された鎧を置いた。

「植物か…。扱いが難しいかもね」

 私は笑みを浮かべ、試しに鎧を着けてみた。

 木製なので恐ろしく軽量。感覚的には、装着していないのとほぼ変わらない。

 私はこれを一発で気に入った。

「これいいね。気に入ったよ」

「そうか、よかった。ちなみに、これは拳銃弾も跳ね返す防御力がある。手入れの仕方を教えよう」

 おじさんが笑みを浮かべた。


 新しい鎧を身につけ、古い鎧を空間ポケットに入れて、私とマルシルは家に向かって歩いていった。

「この鎧、軽くていいね。触った感触は金属とも革とも違うけれど、頑丈そうだし」

 私は笑った。

「うむ、慣れぬと不安になるかもしれんが、そこいらの鎧より頑丈だ。安心するといい」

 マルシルが笑みを浮かべた。

 途中、小さな広場で激しい怒号が飛び交っている現場に出くわした。

「やれやれ、ちょっと仲裁してくる」

 マルシルは苦笑して、野次馬の囲みをかき分けて内側に入っていった。

「なんだ、景気が良さそうだな。なにが起きた?」

 姿は見えないが、マルシルの声が聞こえた。

「ラシル殿への贈り物だぜ。鎧はあそこには勝てないのは分かっているが、他にも防具工房はあるんだって覚えてもらおうと思って持参したら、隣のコイツが同じ防具を持ってきてよ。俺が先だっていっても、聞かねぇんだ!」

「あたりめぇだ。お前のヘボい品を渡せるか!」

 …とかなんとか。

 こういう場合、とっとと逃げるに限る。

 こそこそ逃げようとした時、右手をツンツンと誰かが引いて、私は背後を振り向いた。

「お姉さん、渡したいものがあるんだ。私はジーン。よろしく」

 ジーンと名乗った相手は、まだ若い女の子だった。

 群青色のツナギを着て、いかにもなにかの職人という感じだった。

「私はラシル…って、もう知ってるか」

 私は笑みを浮かべた。

「うん、知ってる。こっち、喧嘩に夢中で誰も見ていないうちに…急ごう」

 ジーンは私の手を握ると、なにかから逃げ去るようにダッシュで進み、私も合わせて走った。

「もうすぐ着くよ!」

 ジーンが向かった先は表から一本入った路地で、そこにはささやかに建っている小さな二階建ての家だった。

「ここは私の住居兼店だよ。狭いけど許してね」

 家の玄関から一階に案内してもらうと、ジーンが笑った。

「凄い数だね…」

 確かに広いとはいい難いが、店内の壁や床に置いた木箱の中などに、大量の武器が置いてあった。

「まあ、下手なりに頑張っているよ。それで、用件なんだけど防具の一つにバックラーなんてどうかなって思って。試作してみていいのが出来たから、それをプレゼントしようかと」

 ジーンが笑った。

 カウンターの上に置かれたものは、直径三十センチくらいの小さな金属製の盾だった。

 バックラーとは小型の盾で、守れる範囲は狭いが急所を隠す事は出来るし、小回りが利くのでなにかと便利であった。

「ありがとう。大事に使うよ」

「うん、上手に使ってね!」

 ジーンが笑った。

「それじゃ、広場まで案内するよ。あまり私が出ちゃうと、こっそりやってる事がバレちゃうから。許可をとっていないんだよ」

 ジーンが笑った。

「ああ、なるほど、モグリの武具店か。分かった」

 私は笑みを浮かべた。

「それじゃ行こう。こっそりとね!」

 ジーンが笑った。


 ジーンにそれとなく誘導してもらい、広場が見える場所にでた。

「それじゃ、またね!」

 ジーンは笑みを浮かべ、路地の向こうに消えていった

「さて、こっちはどうなったかな…。あっ、まだやってる」

 広場の騒ぎはまだ収まる気配がなく、嫌気が差したのか、仲裁をやめてため息を吐いていた。

「全く…。ん、防具が増えているな。どこで調達したのだ」

 マルシルが笑った。

「まあ、ちょっとね。そんな事より、いつまでこの騒ぎが続くんだか…」

「それがな、二人揃ってバックラー装備なのだ。急いでこの場を離れよう。巻き込まれかねん」

 マルシルが苦笑した。

「そうだね。行こう」

 私は笑った。

「全く、付き合いきれん。あの二人の処遇は決めてある…武器防具店の許可を取り消す。危険なものを扱っているという自覚が足らん。しまいには、バックラーで殴り合いまではじめる始末だ。あれは、痛いでは済まんぞ」

 歩きながら、マルシルは呆れ顔で苦笑した。

 盾は使い方によっては、打撃武器になる。

 特にバックラーは片手で扱う小盾なので、白兵戦になればそういう使い方があった。

「まあ、それが妥当だと思うよ。武器で攻撃したら、もう喧嘩じゃない」

 私は苦笑した。

「そうだな。すでに警備隊に連絡してある。今頃はもう鎮圧されている頃合いだろう。それにしても、そのバックラーはどこで手に入れたのだ。なかなかの業物だぞ。いい職人だ」

マルシルが笑み浮かべた。

「それがいえない。そういう約束だから」

 私は笑みを浮かべた。

「なるほど、モグリの店だな。この里では五件ほどあると聞いている。どうしてそれを知ったのだ。作りはいいが相応の値段らしいからな」

「うん、名前はいえないけど、そこの店主が、わざわざ呼びにきたんだよ。試しに作ったらいいものが出来たって」

 私は笑みを浮かべた。

「そうだったのか。広場からいなくなっていたので、先に帰ったのかと思っていたよ。あの時、私は二人のどう処罰するかと考えていたのだ。やっと結論が出た時に、ちょうどラシル殿が帰ってきたというわけだ。よし、家に着いたぞ。町に帰るのは少し待ってくれ。先にいっておくが、これは私がそうしろといったわけではない。この里の気持ちの現れだと思って欲しい」

 マルシルが笑み浮かべた。

「な、なんだろ。もし銅像だったらこっぱずかしいから、やめてね」

 私は笑った。

 マルシルの家に入り、ランスロットとエミリアが待っている部屋に入ると、待ち疲れたのか、畳の上に布団を敷きスヤスヤと寝息を立てていた。

 ちなみに、畳は私の世界にもあって、草を編んで作ったマットだ。

 そのまま寝ても気持ちよく、土足禁止なのはいうまでもない。

「あれ、寝ちゃたか。それにしても、さっきから凄い魔力を感じるな。でも、マルシルがなにもいわないから、問題ないか」

 私は笑みを浮かべ、畳の上にそのまま横になった。


 一体どれほど疲れていたのか。

 ふと目が覚めた時、外はもう夕方だった。

「あっ、ラシルさんが目を覚ましましたよ」

 エミリアが笑みを浮かべた。

「あれ、ずいぶん寝ちゃったね。起こしてくれればいいのに」

 私は苦笑した。

「あまりに気持ちよさそうだったもので。マルシルさんからお話しがあるそうです」

 エミリアは笑って、隣にいたマルシルにバトンを渡した。

「うむ、話しというより実際に見た方が早いな。起きられるか?」

 マルシルが笑み浮かべた。

「うん、大丈夫。みた方が早いって、気になるなぁ」

 私はそっと立ち上がった。

「うむ、待たせた。気に入ってくれればいい。もう一度いうが、これは里の者から要望があったものだ。行こうか」

 マルシルが笑みを浮かべ、私とエミリアが続いた。

 そのまま玄関から外に出ると、マルシルの家の隣に真新しいログハウスが建っていた。

「えっ、まさか…」

「そのまさかだ。勝手に作って申し訳ないが、ここを別荘感覚で使って欲しい」

 思わずのけぞってしまった私に、マルシルが笑った。

「ラシルさん。ランスロットが中を掃除していますので、覗いてみて下さい」

 エミリアが笑みを浮かべ、マルシルと立ち話しをはじめた。

「ま、まさか、こうなるとは…」

 私は苦笑して、ログハウスの扉を開けて中に入った。


 木の香りが漂う目新しいログハウスの中は、キッチンとリビング・ダイニングがあり、

 なかなかいい雰囲気だった。

「あっ、ラシル、ちょうど掃除終わったよ」

 オレンジがかった照明が心地よく、私はやってきたランスロットの肩に手を置いた。

「ありがとう。ここまでこの里に貢献できたかな…」

 私は苦笑して、ランスロットとログハウスの中をみて回った。

「主寝室が一部屋に、普通の寝室が三部屋、全ての寝室はエルフ式にハンモックか。かなり贅沢だね」

 私は笑った。

「はい、ここに引っ越ししたくなってしまいました。もちろん、ここはあくまでも別荘だと思っています」

 ランスロットが笑った。

「私もそうだよ。エルフの里だからこっちに住むなんていわないよ」

 私は笑みを浮かべた。

 その後、ランスロットと一緒に浴室やトイレを見回っていると、エミリアとマルシルがログハウスに入ってきた。

「マルシルさんと話しをしました。もう夜になってしまいましたし、ここの使い勝手の確認を含めて、今日はここに泊まる事にしました。夕食と明日の朝食に関しては、マルシルさんが食材を用意して下さるという事なので安心して下さい」

 エミリアが笑みを浮かべた。

「分かった。こんな家まで用意してもらったら、戦った甲斐があるよ」

 私は笑ったのだった。

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