僕は将来、偉くなりたい

ぐらにゅー島

将来の夢

「太郎くんは、大きくなったら何になりたいの?」

ある母親が、息子の太郎くんにそう尋ねた。将来の夢。それは、いつの時代の人間にも輝いて見えるものです。そんな普遍的で素晴らしい会話をこの親子はしていました。

「んんー?」

しかし、太郎くんはまだ小学一年生。まだまだスーパーヒーローとか、お父さんとかに憧れちゃうお年頃。将来なんて言われても、まだ漠然としているようです。

「ぼくねー、おっきくなったら、えらくなりたい!!」

ニコニコしながら、そうやって話してくれました。

「え、偉くなりたいの?」

母親も、まさかの返答に困惑しています。ヒーローになりたい、とか、バスの運転士さん、とかならまだわかる。しかし、どんな母親が、小学一年生が50代のサラリーマンみたいなことを言い出すと想像できましょうか?

「太郎くんは、どうして偉くなりたいの?」

「んー?」

母親に聞かれると、太郎くんはじっくり考えるとこう言いました。

「お母さん。宇宙って今この瞬間も膨張を続けてるんだよ。だから、今この瞬間も地球と月の距離は遠くなり続けているんだ。」

太郎くん、大真面目です。

「…急になにを馬鹿なことを言っているの?」

しかし、母親は取り合ってくれません。

「ね、お母さん。このニュースを見てよ。」

太郎くんがパソコンの画面を開くと、そこはNASAのホームページです。確かに太郎くんが言ったとおりに、宇宙が膨張を続けているという論文が書かれています。

「あら、本当ね。すごいわ!」

母親はすっかり感心してしまい、何回もうんうんと頷きました。

「お母さん、そういうことだよ。」

太郎くんはお母さんに向かって話します。

「お母さん、僕が言ったって信じなかったでしょう?だって、僕にはなんの力も権力もないからさ。」

クリクリとした黒目が可愛い太郎くんは、続けます。

「偉いって言われている人が言ったことは無条件に信じられるんだもの。羨ましいよ。だから僕は偉くなりたいんだ!」

「ええと…。」

天真爛漫にそう言われても、お母さんも困ってしまいます。全く、小学一年生のセリフではありません。

「人間なんて、権力に弱いからね。特に、日本人は!偉い人間に騙されてしまうより、僕が騙して搾取する側になる方が都合がいい。だから、偉くなりたいんだ。」

母親は、困ってしまいました。どうしようかな、この子供狂っているのでは、と思いました。全く手に負えません。

「太郎くん、ちょっと今日はお母さんとお出かけしよっか?」

「お出かけ…‼︎ 行きたい!」

太郎くんはとっても嬉しそうです。小学一年生らしい表情が垣間見えます。


さて、その時母親はこう考えていました。

「この子供は気味が悪い。専門の先生に診てもらおう」と。


やはり、専門の先生はから信用できますしね。

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