詩的な文章で綴られた怪異譚が、読者の空想力を揺らす。

変わらぬ詩的な文章を読めて嬉しくなりました。

もう2行目からいいですね!

「吹き付ける風が穏やかさをはらみ、妻の手のあかぎれも少し和らいできた頃、石の多い砂浜から子供が上がってきていた」

この1行で場所(風景)も浮かぶし、季節もわかるし、あかぎれという言葉で時代もなんとなくわかる。そして2文節まで詩的につないで、最後に突然「石の多い砂浜から子供が上がってきていた」と怪奇をくらわす!見事。

おそらく少し前の時代の、海沿いの田舎村が舞台。
短いですが、説明をあえてしないから成り立っている、雰囲気のある短編です。

読み終わると「薄手の着物を着た」「桶をかかえた女」も本当に人間だったのだろうか?と思う。なにせ村人も「わらべうたの中でしか知らない」のだから。

なぜ子供が現れたのかもわからない。「神の恵み」というのもよくわからないが、主人公の「病みがちな妻」はこのあとどうなったのだろうか? どことなく病は快方に向かい、街へとふたりで帰った気がする。

ホラーというよりはやはり怪異譚な気もしますが、地方に残る「怪異」にふと触れてしまう、そんな昔の日本ではよくあったできごとような気にもさせる、味わいのある作品だと思います。