Act.7

「うひょーー! タケルさん、本当に良いんですか! こんな良い女好きにして!!」


 薄暗い、酷く草臥れたラブホテルの一室。


 そこに据えられた安っぽいベッドの上でガタガタと震える1人の女を囲う男達。

 品性や理性を何処かに置き忘れてきたかのような風貌のその男達は、目の前の女をまるで狩りの獲物を見るような目で見ている。


 対して、部屋のに据えられたソファーに深く座りこんだ若い男。

 その、タケルと呼ばれた男は微かに甘い香りのする紫煙を吐き出しつつ、


「ああ、好きにしろよ。

 ……まったくよぉ、古いハメ撮り動画も役に立つもんだよなぁ。

 お蔭でまたソレが金になるんだからよ。

 次は『美人声優の卵、輪姦レイプ』なんてタイトルはどうだ?」


と、何も気負った様子も見せずに言いながら灰皿に煙草を押し付ける。


 それを聞き他の男達は下卑た声で笑い合う。


 その笑い声は、部屋中に響き渡る。

 グルグルと渦巻くように。


「……ひっ、イヤ……。

 いやだ、誰か、助けて……」


 恐怖に顔を歪ませ、必死に懇願する女。

 いや、深田美雪。



……彼女は、その身体で客を取らされるだけでなく『個人撮影』というお題目の元、違法なAVを撮影され、自らの夢も未来も全てを踏みにじられようとしていた。


「へっ、何が嫌なもんかよ。

 昔も散々犯してやって、ヨガりちらしていたじゃねぇか。

 なぁ?」


 そう言って立ち上がったタケルは、美雪へと近づくと怯える彼女の肩に手を置き強引に引き寄せる。


「や、やめて……お願い……もう、私……!」


「あ~? 聞こえねェなぁ?

 もっとハッキリ喋れよ? それとも何か? あの時みたいに優しく抱いて欲しいってか? なら仕方ねえなァ……!」


 獣性の赴くままに腕を振り上げるタケル。

 美雪の頬を打つ音が響く。


バチンッ!! バチン!!


「……あっ、イヤ……イヤ!!」


 何度も、何度も打たれる美雪。


 そして野蛮な腕がが彼女の衣服を掴む。

 そのまま服を引き裂き、剥ぎ取ろうとする男。

 その顔には嗜虐的な笑みが浮かぶ。


――だが、その時。


バン!!!


 扉が勢いよく開け放たれ、複数の男達が雪崩込んで来る。


「なんだてめぇら!!」


 怒号を飛ばす美雪を囲んでいた男達。

 だが、それを上回るようなドスの効いた声が部屋に響く。

「ゴラァ! てめえら誰のシマで商売しとんじゃあぁ!!!ああ!?」


 入ってきたのは厳つい見た目をした強面の集団。


「な、なんだこいつら!?」


 その気迫に思わず後退りする男達。

 到底堅気とは思えぬ男達の後ろから更に大柄な男が姿を現す。


「おう、邪魔するぜ。

 だがな、兄ちゃん達よ。この辺のウリやビデオは俺らにナシを付けるって決まってるんよ。

 人のシマでシノギしよって

 ……この落し前、どう付けてくれるんかいのう?」


 男は懐からタバコを取り出すと口にくわえる。


「ふ、ふざけるな! 勝手に部屋に入って来て!   

 警察呼ぶぞ!!」


 そう言ってスマホを取り出そうとした、未だに葉っぱがキマっているタケルの胸ぐらを掴みあげる大男。


「ああ、良いぜ呼べよ。

 ただしよぉ、テメエらが俺らの面子潰したってのは……分かっとるよなぁ? 俺はよ、そういう仁義を欠いたクソ野郎はよ、死ぬよりキツい目にあわせるって決めてるんやわ。

 分かるか? お前らのオイタは終わりだよ。

 ……おい、てめぇら。コイツら連れてけ」


 男はそれだけ言うと掴んでいたタケルを突き放す。


「ヘイ、組長!!」


 男達はタケルを担ぎ上げ、その取り巻き達。その、腰が引けて録な抵抗もしなかった男達をやくざ者達等が協力して外へと連れて行く。


 それを見届け、組長と呼ばれた強面の男も部屋を後にする。


 チラリと美雪に視線を向けてから。


  後に残るは、静寂と困惑。

 それを呑み込むは、幾人かの男女。

 知られてしまった。知ってしまった。見届けてしまった。


 様々な感情が盤踞する。

 執着、後悔、罪悪感、羞恥心

 それは、幸せな事なのだろうか。


 それは、彼女達にも分からない。

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父娘探偵~父の威厳を取り戻せ!~ ほらほら @HORAHORA

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