皆さんお大事に

そうざ

Take Care of Yourselves

 こぢんまりとした町の病院。

 受付に座る美人看護師が事務的に対応する。会計金額を伝え、現金を受領し、領収書と明細書、お釣りを提示する。

 帰り支度を済ませた老眼鏡の老人は、十二面体の賽子さいころを手に取る。賽子は看護師の傍らに置かれたトレイの上でからんころんと転がる。

 目が出ると、看護師は一拍置いた後、感情を込めて言う。

「誰の入れ歯だってそれなりに臭うに決まってますよ」

 老人は深々とお辞儀をして応える。

「いつもご親切に……」

 看護師は次の患者を呼び、また淡々と会計処理をする。

 品のある老婆が賽子を転がす。

 看護師は軽く咳払いをした後、おもむろに言う。

「お嫁さん、きっと関東育ちだから味付けが濃いんですよ」

 老婆は笑顔を返す。

「そうよねぇ、きっとそうなんだわねぇ」

 看護婦が間髪を入れずに次の患者を呼ぶと、足下あしもと覚束おぼつかない老人が受付に近寄って来る。初診の患者である。

 会計処理の後、看護師は感情を込めず形式的に説明をする。

「この賽子を振って下さい」

 怪訝そうな老人は、言われた通り賽子を震える手に取る。『6』が出る。

 看護師は心の中で6番、6番と呟きながら手元の用紙を確認する。用紙には『今月の一言表』とあり、1番から12番までの番号が振られた箇条書きの文章が記されている。

 看護婦は6番の一言『お孫さん、つい出来心で千円札を抜き取っただけで、不良なんかじゃないですよ』を滑らかに唱える。

 何となく安心した老人は、よろよろと病院を出て行く。

「良かった、良かった……」

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