エンディングは終わり、それでも人生は続く

 一度は改善に向かったはずの異常気象の、揺り返しが来ているのではないか。

 そんなニュースが流れるくらいには、連日季節外れの暑さが続いていた。


 かつて両親と妹を見送った時とは違うなと思いながら、俺は一人外に出る。

 先輩の家の、よく知らない宗教に則った葬儀が終わり、家族ではない部外者の俺がいても仕方ないだろうと抜け出してきた。

 外に用意されていたベンチに体を預けると、全身の疲労が一斉にのしかかってくるようだ。


 先輩が亡くなった日は一晩中泣き続け、次の日も事あるごとに先輩のことを思い出しては泣いて、泣き疲れて気絶するように眠り、目が覚めては泣いて……そうして二日ほど過ごした辺りで体が慣れてしまったのか、ほとんど涙も出なくなった。

 人間は慣れる生き物だとはよく言ったもので、先輩が予言していた通り腹は減るし、眠くなるし。我ながらさもしい奴だと思いつつも、そのおかげで先輩の葬儀には出席することができた。


 未だ、胸の中にはぽっかりと穴が空いたような虚無感が残っている。

 先輩と過ごしたこの一ヶ月間は、まるで夢の中にいるみたいだった。

 今朝、無意識に病院に行こうとしている自分に気付き、やっぱり夢じゃなかったんだよなと、よく分からない納得をしたりして。

 でも思っていたよりも、後を追いたいとか思わないものだな、なんて。そんな自分に呆れるような、これで良かったような。

 ただただ不自然なまでの、静謐と平穏。

 現実感がない。

 一言で言えば、それだった。


「隣、いいかな」

「……どうぞ」


 広い空に一瞬影が差し、ベンチ越しに体重を感じる。


 遠くの空に入道雲があることに、たった今気付いた。

 まるで空まで夏に逆戻りしたみたいだ。

 そして、ああ、そうだった。夏の雲は作り物みたいに美しい。

 ことさらに陰影がはっきりしていて、嘘みたいだ。


「……あんたも来てたんだな、久米さん」

「よしてくれよ、さん付けなんて。私と君との仲じゃあないか」

「あんたは大企業の社長サマだろ」

「……そうだね」


 隣を見ると、そこには小柄な少女が座っていた。

 いつもとは細かい部分が少し違う黒いスーツを着ている。

 こうして実際に至近距離で見ると、思っていたよりずっと小さいのだなと気付く。


「……悪い。意地悪なこと言ったな久米。こうして直接会うのは初めてだけど、ずいぶん小さいんだな」

「こら。謝った口でそのまま悪口を言うんじゃないよ」

「悪口じゃなくてただの感想」

「やれやれ……けどまあ、良かったよ三友くん。まだそうやって軽口を叩けるとは思っていなかったから、安心した」

「おかげさまでな……久米、あんたがちょくちょく話しかけてきたのも、全部、これを見越してたんだろ? 先輩がいなくなった後、俺が突拍子もないことをしでかさないように、きちんと元の生活に戻れるように、ケアしてくれてたんだよな」

「なんだ……バレてたのか」

「まあな。立場が違い過ぎるあんたが俺にちょっかいを出す理由なんて、他にないだろ。結果的に俺はあんたに借りを作ったし、あんたは得るものがあったはずだ」

「……本気でそれだけだと思ってる?」

「なんだよ。他にあるなら言えよ」

「いや、別に」

「まあ……ありがとうよ」

「ふん……」


 それきり久米は黙り込んでしまった。

 何か機嫌を損ねるようなことを言っただろうか。

 まあ、どうでもいい。

 今の俺にとっては、大抵のことはどうでもいいことだ。


 確かに久米という心の内を話せる友人がいたことで、それが現実世界と俺とを繋ぐくさびとなって、俺は自暴自棄にならずに済んだのだと思う。

 それでも……つらいものはつらい。

 まだ、涙が枯れるほど泣いた訳じゃない。事あるごとに先輩のことを思い出しては、その度に俺は泣くんだろう。

 全てを思い出にして前に進むには、まだ少し、早すぎる。

 ……疲れてるんだ。

 もう少しだけ立ち止まらせてくれないか。


 じわじわと、冷房によって冷やされていた体に暑さが染み込んでくる。

 どこか建物の中に入るべきなんだろうけど、なんとなく、隣の久米が気になって動けなかった。

 そうなると必然的に、我慢比べのような形になる。

 俺は一体誰と戦っているんだ。


「まったく、自分が世界で一番不幸だって顔してるねえ」

「いや、これはただ暑いなって思ってる顔。見ろよこの汗を」

「暑いなら中に入ろうよ」

「嫌だね」

「……子供みたいだなあ、まったく」

「あんたは中に入れよ。俺に付き合う必要はないんだぞ?」

「私と君とは一蓮托生ということになったから」

「なにそれ」

「君には、私の専属秘書として働いてもらう」


 急にこいつは何を言い出すのか。

 俺は思わず振り向いて、久米の横顔を凝視した。


「……え、なんで?」

「対価だよ。君が言い出したんだろう? 自分の人生の残り全てを差し出すから、願いを叶えてくれってね」

「確かに言ったけど……それは、俺がモルモットになるって話じゃなかったのかよ」

「私は一言もそんなことは言っていないよ。ログには何も残っていないが?」

「いやでも秘書って……」

「君には文句を言う権利もないということを、お忘れなく」


 色々と気になる点はあるが、そういえば久米に取引を持ちかけた時点で、俺には怖いものなんて何もなかったのだ。それに気付くと、少しだけ気持ちが楽になったような気がした。


「……わかったよ。それで、間違いなくやってくれたんだろうな?」

「ああ。なんならその目で確かめてもいい。ちゃんと帰ってくるならね」

「いや……信用する」

「そうかい。それは嬉しいね」


 そうして俺は、ようやく立ち上がる。

 久米もそんな俺を見て、腰を上げた。

 こいつを見下ろすというのはなんだか不思議な感覚だが……これからは、それが日常になるのだろう。


 本当はもう少しだけ空を見上げていたかったけど。でも、そうやって先延ばしにしていたら、いつまでも動けなくなってしまうような気がした。


         ◆


 波の音が響いている。

 夕日が沈みかかった海を見渡すように、堤防の上に、二人の男女が腰掛けていた。


         ◆


 その日、万橋ばんきょう学園のとある部活……メタ部は、大騒ぎになった。

 一ヶ月以上音信不通になっていた部員が、ひょっこりと姿を現したのだ。

 しかも、一人ではない。

 彼らは手を繋ぎ、まるでいつもの部活に顔を出すような気軽さで、放課後の部室に普通に入ってきたのだった。


「ぎゃあああなっちゃん先輩! なっちゃん先輩じゃないっすか! うわあああ!」

「桜、そんなに強く抱きついたら……ほら! 夏秋かしゅう先輩が青くなってる!」


 一年生コンビは、突如戻ってきた二人に大騒ぎして抱きつき、引き剥がされ、泣きわめくという阿鼻叫喚の様相を呈していた。


「龍……見つけたんだな」

「おう……多分な。つーか一年生たち、俺には目もくれないんだな……」

「いや、向日葵ひまわりさんはともかく、天世あまよは単に向日葵さんの暴走を止めるので精一杯なだけだと思うぞ」


 遠い目をする茶髪の男子……友田に、その親友の望月が慰めの言葉をかける。


「さて、どういうことか説明してもらおうかしら?」


 混沌と化していた部室に、副部長である芽多めたの凛とした声が響くと、サッと波が引くように全員が落ち着きを取り戻した。


「よう芽多、ただいま。なんかしばらく見ないうちにカリスマ増してね? てゆーか独裁者感が……」

「無駄口はいいから。友田、何がどうなったのか、経緯を説明しなさい」

「って言われてもな……」


 友田は、未だに繋いだままの手の先にいる少女、夏秋を見る。

 その手に部員たち全員の視線が集まっていることも、自覚しつつ。


「なんか、気がついたら海岸にいたんだよ、俺たち。こうやって手ぇ繋いで。んで、戻ってきた」

「龍、それはさすがに意味が分からんぞ」

「……説明になってないわよ、友田」


 まあそういう反応になるだろうな、と友田自身そう思う。

 しかし、話せることは本当にそれしかないのだ。


「何も覚えてないんだよ。俺も、なつ先輩も。よくわからんのだ」

「……つまり、記憶喪失ということかしら? 夏秋先輩、本当なの?」

「たぶん……そう。よく覚えてないの」

「……二人とも、まずは病院に行きなさい」

「もう行った。二人で。そしたら二人とも異常なしだって」

「んなわけあるもんですか!」

「おい芽多、キャラが崩れてるぞ」

「あー……頭痛くなってきたわ……それで、どこからどこまで覚えてないの?」


 文字通り頭を抱えながら、芽多はノートにペンを走らせている。

 彼女なりに時系列を整理しようとしているのだろう。


「私は……夏休みが終わる少し前から覚えてないかな……退学届が出てるって龍くんに聞いて、びっくりしちゃった」

「俺は先輩を探しに行くっつって学校を出て、その後からもうあやふやだな。一度家に帰ったような気もするが……あと、なんかすげー大事なことを忘れてるような気がするんだよな。それがなんなのか思い出せないんだけど」

「あ……それ、私も。なんだかとても大きなことを忘れてる気がする……」


 友田と夏秋の証言を聞いて、芽多は深くため息をついた。


「そりゃ大事なことを忘れてるでしょうねえ……一体何があって夏秋さんを見つけ出して、二人して海岸なんかにいたのかという部分よ。何らかの事件に巻き込まれたのだとしたら警察に行くべきだけど……もう無事に戻ってきてるのよねえ……」

「うーん、まあ部のみんなのことも覚えてたし、問題ないんじゃねえの」

「私も……特に困ることはないかな」

「私が困ってるのよ……あら?」


 更に頭を抱えそうになった芽多は、そこで自分のスマホに着信が来ていることに気が付いた。最初は表示されている番号に心当たりはなかったが、持ち前の記憶力で、それが学園の番号だということを思い出す。


「はい……ええ、そうですが……ああどうも、お世話になっております……え? すみません、もう一度……はあ、え? はい。わかりました。どうも……」

「誰から?」


 呆然とした様子で電話を切る芽多に、彼女の恋人である望月が思わず声をかけた。


「学園長からで……夏秋先輩の退学を取り消すって……」

「えっ?」

「マジか」

「わー……よかった」

「えっじゃあなっちゃん先輩、また部活に出られるってことっすか!?」

「突然ですね……」


 部員たちはそれぞれリアクションを見せるが、一番驚いているのは電話を受け取った芽多だった。

 あまりにもタイミングが良すぎる。

 そして、意味がわからない。

 理由も何も説明せずに、言うことだけ言って電話は切られた。

 友田と夏秋が揃って部分的な記憶喪失というのも、二人が口裏を合わせているのでなければ、どう考えても不自然すぎるのだ。そして仮に口裏を合わせているとしたら、わざわざ記憶喪失なんて怪しすぎる設定にするだろうか?


「……製作者側が、事実を改変しようとしている可能性があるわ」

「おっ、なんか久しぶりに聞いたな、芽多のそういうやつ。そのキャラまだ生きてたんだ?」

「冗談じゃないのよこっちは。ここまであからさまにされたら、普通あなたたちだっておかしいと思うでしょうに」

「あのなあ、別に記憶喪失なんて普通にあることだろ? それがたまたま二人同時に起きたって、天文学的な確率でそういうこともあるかもしれないじゃん。この世界が誰かの作り物だって言われるより、よっぽど現実的だろ」

「あなたは……どこかに違和感というものを置き忘れてきたのかしら? なんだか以前よりすっとぼけた感じになってるわよ。これも製作者による操作かしら……」


 芽多は一人、どこか空恐ろしいような感覚を覚えていた。

 一番この状況に違和感を覚えていなければならないはずの当人たちが、のほほんとしている。それは明らかに異常で、この世界が恋愛ゲームの中だという説を信じている彼女にとっては、その裏付けをされたようなものだった。


「てゆーか、あのー……さっきから気になってたんすけどぉ……お二人は、付き合うことになったんすか?」


 芽多の懊悩をよそに、向日葵は未だに繋がれたままの友田と夏秋の手をチラチラ見つつ、そんな質問をする。


「ああ……うん。まあ」

「二人は恋人同士……」

「きゃぁ~っ! ついに! やりましたね! なっちゃん先輩!」

「ありがとう、桜ちゃん……」

「なんだ、お前らそんな関係だったのか、龍」

「修……まあ実は、夏休み中からそんな感じではあったんだが……なかなか踏ん切りがつかなくてな。先輩を探しに行った後、何があったのかは全く覚えてないんだが、気付いたら先輩と手を繋いで海にいて……手を離そうとしたら、なんか、すげえ離れたくないって感じがしたんだよ。ずっと近くにいたいっつーか」

「龍くん……ちょっと恥ずかしいかも」

「うわあ、完全にラブラブじゃないっすか! やったー!」

「桜、ちょっと声が……もう少しボリューム落とした方が」

「いいじゃないっすか今日くらい! 真くんも、一緒に騒ごう!」


 理由も告げずに退学届を出して音信不通になっていた先輩が戻ってきて、更には退学は取り消しだと学園長から直々に通達があり、その上、以前からそんな感じの雰囲気があった二人がついに恋人同士になったのだ。

 めでたいが三つも重なってしまったら、もう止まらない。恋バナ大好きな向日葵を筆頭に、意外に悪ノリ好きな望月が続き、照れ隠し半分、ヤケクソ半分で、友田が乗っかれば、もう芽多の一声でも制御できないお祭り騒ぎとなった。


「よし、これはもうお祝いだな。俺ひとっ走りジュース買ってくる!」

「あっ、ちょっと修くん」

「じゃああたしはお菓子買ってくるっす!」

「向日葵さん! 待ちなさい!」

「無理です、芽多先輩。ああなった桜はもう止められません……」

「天世くん……あなただけよ、今この部でまともなのは」

「そんじゃ、俺は飾り付けでもするかな」

「私も手伝うね、龍くん……」

「あなたたちはそこに座りなさい!」


 芽多はハァハァと盛大に息を乱しつつ、友田と夏秋を座らせる。


「……はぁ。あなたたちが戻ってきたのは確かに、喜ばしいことだわ。でもね、原因不明というか、不透明なことが多すぎるのよ」

「でも最終的にいい感じになったんだし、それで良くね?」

「うん……いいと思う」

「だまらっしゃい!」

「キャラ変わってきてるぞ」

「誰のせいよもう……疲れるわね……」


 芽多も彼らの向かいに椅子を動かして、腰を下ろした。

 腕を組み、少しの間思案に耽った後、再び二人に鋭い視線を向ける。


「あなたたちは、恐らくこの世界の真理にかなり近い場所に触れてしまったのね。そのために、記憶を消された。そう考えれば辻褄が合うもの」

「相変わらず何言ってんだって感じだが、まあ……いいんじゃねえの。そういう、設定を大事にする所も含めて個性っつーかさ……」

「芽多さん、とっても真面目な人だから……」

「ええい、二人して生暖かい視線を向けて来るんじゃないわよ。ともかくこれはチャンスよ。この世界の秘密を紐解く手がかりになるわ」

「芽多よー、主人公と結ばれたらそれで満足なんじゃなかったのか?」

「もちろん満足はしているわ。でも、それとこれとは別よ。どうして私だけが、この世界の秘密を知っているのか。その理由を解明できるかもしれないんだもの」

「人はそれを妄想と呼ぶんだがな……そういや関係ないけど、新入部員はどうしたんだ? 募集したんじゃなかったのか?」

「募集してないわよ。どうせ戻ってくるって思ってたから」

「おいおい……こいつはとんでもねえツンデレがいたもんだな」

「か、勘違いするんじゃないわよ。ともかく、これからしばらくの間、あなたたちには協力してもらうから。少しでも記憶を辿って、行った場所の調査をしましょう。まずは二人が気がついた時にいたという海岸を調べなくちゃ」

「なんか……生き生きしてんなあ」

「でも、楽しそう……かも」

「そうですね、先輩。俺、夏先輩と一緒なら、どこにでも行きますよ」

「私も……龍くんと一緒なら、どこでも楽しいよ」

「……あなたたち、ナチュラルに二人だけの世界に入るじゃない……本当に変わったわね。自覚してないのかしら? それとも恋は盲目というやつなのかしらね……」


 油断すればすぐにピンク色の世界を作り出してしまう友田と夏秋に呆れたような目を向けつつも、芽多は心の内の高揚感を抑えきれずにいた。

 とうとう、自分が長年疑問に思ってきたことの答えに辿り着けるかもしれない。

 その予感だけで、世界が輝いて見える。

 それはまるで、自分が主人公と認めた望月と結ばれた時にも似た感覚だった。


「さて、明日からこの部は忙しくなるわよ。ようやく掴んだ手がかりだもの、逃すもんですか」

「張り切ってるなあ……つーか芽多、本気でやる気か? この世界がゲームの中なわけないなんて、言うまでもないことだろ」

「どうかしらね。果たして本当にそう言い切れるのか、検証していきましょう」

「まあ……楽しそうだからいいか。ね、先輩」

「うん。きっと明日から……ううん、今日からまた、楽しい時間が始まるよ……」


 その日のメタ部は、日が沈んだ後もどんちゃん騒ぎが続いた。

 見回りの警備員に注意されて解散するまで、彼らは大いに笑い、喜び、楽しんだ。


         ◆


「……んでハッピーエンド、と。こんな感じでどう?」

「わはは。めちゃくちゃ強引だな。最高。何も言うことはないよ」

「本当に、これで良かったのかい?」

「そりゃ良かったに決まってるじゃないか」

「いやさ、これだと君があっちの世界に行くことが……できなくはないけど……」

「いいんだよ、それはもう。これで良かったんだ。これが、良かったんだよ」

「私には今ひとつ、分からないんだよ。向こうで休眠状態になっていたアバターの中にある記憶は、君たちが戻ってくる直前までのものだけだ。それを今さら……記憶操作までして動かして、一体何になるんだい?」

「自己満足」

「身も蓋もないねえ……君が照れ隠しでそういうことを言うのは知ってるけどさ」

「いや、本当にこれはただの自己満足なんだ。先輩の心残りを……部のみんなにもう一度会いたいっていうこととか、二人で海に行きたいっていう願いとか……そういうのを叶えるにはこれしかなかった」

「んー……言っちゃ悪いけど、これはただのデータだよ?」

「わかってる。だから自己満足だって言ってるんだ。それに、俺たちだってただのデータかもしれない。上の世界の誰かにとっては」

「……ふむ」

「でもまあ、重要じゃないんだよ。そんなことは。重要なのは……」

「重要なのは?」 

「納得できるかどうか、かな」


         ◆


 不思議な形の墓石を背に歩き出した二人は、何やら軽口の応酬をしながら、広大な墓地から去っていった。

 揃いの黒いスーツを着た彼らがいなくなると、後に残ったのは物言わぬ石だけ。

 夏の青い空はどこまでも続きそうなほどに広く、嘘みたいにきれいな形の雲が、地平線より少し上にいくつも浮かんでいる。


 ギラギラと照りつける日はまだ高く、それが海に沈むまでには、もう少しだけ時間がかかりそうだった。








 おわり。

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メタな彼女と 高山しゅん @ripshun

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