これがセパタクローだ!!!!!!!!!!!!!

「よっこらせぇ……さて、八雲はどのコートにいるんだぁ?」


 試合を観に来た武生たけきが、体育館に到着して辺りを見回す。しかし広々としていて、コート三つを使って各々練習している為、すぐには見つけられない。


「お、おい……あれって本当に高校生か?」


「やばくね? なんだよあのアタックパワー、プロ並なんじゃ……」


 隅にいる学生達のヒソヒソ声に、武生たけきは耳を傾け、注目を向ける先を見る。そこで、丁度アタックを決める瞬間の八雲を見つけた。


「……!」


 武生たけきは、その姿に目を奪われた。テコンドーで見た足技を活かしたアタックは、ダイナミックで力強い。ネット側の攻防の一瞬は正に、空中の格闘技だ。


「しゃあああッ!」


 アタックが決まり、熱きスポーツマンの声を上げる八雲を遠目に見て、武生たけきは早歩きで試合をしているコートに向かう。テコンドーから身を引いた孫が、始めたマイナースポーツ。手を使えないルール上、何度も足が上に向き、頭が下に向く。


「あれが……セパタクローの、試合なのか」


 サッカーで言えばスーパープレーと言えるオーバーヘッドキック。しかしセパタクローでは、それは攻撃の基本。そのスポーツの全容が、コートに近付く度に武生たけきの視界に入っていく。


「ナイスサーブ、ハルくんッ!」


 本気で取り組む八雲の声が、武生たけきの耳に届く。簡単に言えば、足でやるバレーボール。初心者お断りと言わざるを得ない、派手でアクロバティックな動きの数々。求められる身体能力のハードルが、あまりにも高すぎるスポーツ。


「いけぇッ! クモ、決めろーッ!」


 攻撃を託したサルジの声とトスが上がる。武生たけきは、手鞠のような黄色いセパボールを目で追った。合成繊維で編み込まれたそれは、柔らかく空洞が目立つ作りで軽そうに見える。


「……でゃああッ!」


 しかしその印象を、八雲のシザーズアタックが一瞬で蹴り飛ばす。強靭な足から放たれる攻撃の球速は、150キロに届くレベル。相手コートにいる大学生達は、足を伸ばしても、背中でブロックしてもそれを止められなかった。


「フッ……、フォーティーン・スリー!」


 主審の宣言に、周りで練習していたセパ選手の殆どがコートを見た。めくるタイプの黄色い得点板は、八雲達のチームがセットポイントである事を示している。


「ナイスアタッククモ——ッ!」


「さっさと終わらせて、ハルを病院に連れてくぞクモッ!」


 今まで人との関わりを控えてきた八雲の周りに、チームメイトが集まっている。コートの外側まで来た武生たけきはそこで、足を止めた。試合はもうラストセットで、これが決まれば快晴達の勝利だ。


「八雲……!」


 武生たけきの目線の先には、汗をかいて肩で息をする八雲がセパボールを抱えて、快晴にトスを上げようとしていた。怪我をしている二人の負担を減らす為、誰よりも多く飛び、長く滞空し、頭から落下している。


ハルくんッ!」


 しかし八雲に、疲れは関係なかった。目の前の試合に集中して、アタッカーとしての役割を全うする。山なりのトスに対して、左腕を骨折しているはずの快晴は、頭上を通過する足技のサーブをバァンッと打った。


 練習試合とはいえ、追い詰められた大学生達も本気でボールに食らい付く。丁寧にレシーブしたセパボールは、順番にトスされて、威力重視のローリングアタックで攻める。


「ッ!」


 そこに八雲が足を伸ばして迫った。足と足が衝突するネット際の戦い。どちらが有利か分からなくなるくらい、その攻防は迫力満点。大学生が放った高威力のアタックを八雲は阻止するが、ボールはコート外へ向かっていく。


「ごめん! ハルくんッ、サルくんッ!」


 八雲の声が追いかけるボールは、サルジが拾いに向かった。触れてしまった以上、これを返さなければこちらの失点となってしまう。サルジは声を張り上げて自慢の長足を伸ばし、スライディングでギリギリ拾った。


クモ————ッ! お前が拾え————ッ!」


 快晴に負担かけるなと指示を飛ばすが、八雲はブロックから腕で着地したばかりで、トスを拾える体勢ではない。セパボールは真横に飛び、落下を待つタイプの球ではなく通常プレーですら、簡単に取れるものではない。


「俺が取——————るッ!」


 声を上げながらも足が伸びない快晴は、怪我した頭で飛んできたボールをトスした。腕の骨折と合わせて激痛で意識が飛び、背中で落下して転がる。


「ガハッ……くッ、頼むぞクモォ——ッ!」


 快晴が全身で上げたトスを、八雲は追いかける。ネット付近へ真っ直ぐに飛んでいくトスは、相手にとってはチャンスボールだ。これをアタックするのはあまりにも難しい。


「任せてッ!」


 しかし八雲はビュンッとボールに追い付いた。跳躍力で勢いを乗せると、そのままローリングアタックに繋げて、相手コートに閃光の如くボールを叩き付けた。


「……! ゲ、ゲーム・セット!」


 主審の宣言で、快晴達は身を寄せ合ってよっしゃああッと勝利を喜び合った。何度もプレーは、まさに圧巻。全くそのスポーツを知らなかった武生たけきは、それを間近にそれを見て、世界がひっくり返る様な衝撃を受けた。


「これが、お前らの挑戦する『セパタクロー』なのか……? すげぇカッコイイじゃねえか!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

セパダン!!! 篤永ぎゃ丸 @TKNG_GMR

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ