第5話 結

※  ※  ※


 三年後。

 長旅から帰ってきて、パンクバード家を尋ねた。

 帰ってきた、といっても、僕はまだ帰り道の途中だけど。


 エルフの里でこしらえたセンサーやドワーフの鉱山で作ってもらったボディにおやっさんは興味津々だったけど、ひとまずそれは置いといて、僕は第二工場の工場長に就任したウィンディ姉さんのもとへ向かった。


「姉さん。調子はどう?」

「もう大変よー。目を離すとすぐどっかいっちゃうしね。ああ、こらこら、そんなの食べちゃダメでしょー!」


 姉さんは作業台の上で遊んでいた女の子がしゃぶっていたネジを取り上げた。


 この子は姉さんの子供だ。今年で二歳になるそうで、旅の最中に受け取ったメールによるとけっこう腕白らしい。


 ただ、ここに帰ってきたのはこの子に会うためじゃない。


「あの、僕が聞きたいのはその子のことじゃなくて……」

「ああ、そりゃそうよね。心配しなくても大丈夫。ちゃんとメンテナンスしてたから。ついてきて」


 姉さんにつれられ工場の奥に進む。


 とある一室に入ると、そこには蛇のように大量の配管や配線が床の上を這っていた。


 部屋の中央にはそれらが接続された蕾のような形のカプセルが鎮座している。半透明のカプセルの中にいるのは----ユウヒだ。


「あの時のままだ……」

「見た目はね。でも駆動系や各種センサーは最新型にアップグレードしてあるわ。もともとかなりガタがきてたしね」

「ありがとう姉さん。助かるよ」

「いいのよ。弟の恋人なんだもの。わたしにとっては妹みたいなものじゃない」

「姉さん……本当に……本当にありがとう」

「まったく大げさなんだから……それで、ちゃんと集めてきたの?」

「はい!」


 僕は姉さんにぱんぱんに膨れ上がった革袋を差し出した。

 中身は全て魔石だ。新品ではなく、すでに劣化が始まっている魔石。


 僕はこの三年間で、この魔石を百個集めた。

 そう、これはすべて、ユウヒが捨ててきた魔石だ。

 姉さんは魔石を受け取ると、部屋の片隅置かれていたガラスの容器に投入した。


「記憶補填率……百パーセント。これでユウヒちゃんの記憶が戻るわ」

「よかった……」

「でも、よく他の魔石と間違えなかったわね?」

「僕は彼女のオーナーですから。彼女の魔石にアクセスする権限があるんです。なので」

「ひとつひとつ魔石の記憶を確認したってわけね……乙女の記憶を覗くなんていい趣味してるわぁ」

「い、いや! それは非常事態だから!」

「あはは、わかってるって! それじゃ、いくわよ?」

「……はい!」


 姉さんがカプセルに備え付けられた端末を操作すると、容器の中の魔石が赤く輝き始めた。


 魔力が配線を通ってユウヒが眠るカプセルに集まっていく。


 やがて魔石が完全に光を失い灰色に変わったころ、代わりに彼女の胸に装着された魔石が赤く輝いていた。


「ん……うう……?」


 カプセルの蓋が開き、ユウヒが身をよじる。

 彼女が目を開き真っ赤な瞳で僕を見上げた。

 その瞳をみた瞬間、僕はたまらず彼女を抱きしめた。


「おかえり……ユウヒ」 

「お前、まさかエレンか……? ずいぶん雰囲気が違うけど……あれ? そういえばアタシは……いったい……」


 まだ少し混乱しているみたいだ。

 僕はずっと彼女に伝えようと思っていた言葉を口にした。


「帰ろう、ユウヒ。僕たちのホームへ」


 止まっていた歯車じかんが動き出す。

 

 僕らはまだ、帰り道の途中だ。

 

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追放されたゴーレム「自分で自分のオーナーになりました」 超新星 小石 @koishi10987784

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