第49話 エピローグ

 戦いが終わり、燃えつき症候群的なものを一瞬だけ感じたものの、僕はやっぱりまた絵を描きたい気持ちになった。


 僕は、もうずっと絵を描き続けるのだろう。学校とか、就職とかを考える必要がなくなった現在、僕は絵を描き続けられる環境にある。これからも思う存分描いていこう。

 流石に、壁画のような大仕事は、もうないと思うけれど。


 そして、スフィーリアがナギノアの町への滞在を望んだので、僕たち一同、特に何も変わらない日々がこれからも続く予定だ。


 さておき、諸々が一段落したその日の夜。

 僕は、スフィーリアと共に、ベッドの端に並んで座っている。

 スフィーリアは僕に体を預け、頭を肩に乗せている状態。


「アヤメの国の神様が一瞬だけ姿を現したのは、アヤメのジョブの力だと思うんだよね」

「でも……僕、特に何かをしようとしたわけではないよ?」

「たぶん、無意識に何かの力を使ったんだと思う。神絵師っていう不思議ジョブの何かを。完成した神様の絵が守護の力を持つとかさ」

「そっか……。まぁ、そうなんだろうな。リーキスは、他の誰もとめていないんだから」

「神絵師の本来の意味は、とても上手に絵を描く人。でも、こっちでジョブとして与えられてから、変質したのかもね」

「うん……。かもしれない」

「ありがとう。わたしたちのあの場所を、守ってくれて」

「意図してやったわけでもないけどね」

「かもね。でも、結局全部上手く行ったのは、アヤメが頑張ってくれたおかげでもある。ありがとう」

「僕だけの頑張りじゃないけどね」

「わかってるって。……ちなみにだけど、ルリエの様子から考えると、もしかしたら、もっと大きな仕事を頼まれることも、あるかもしれないね」

「え? もっと大きな?」

「ルキアルト教はまだ布教活動中。各地で教会とかを建てたりしてる。その中で、アヤメの絵を求める声もあがるかも」

「……はは。またあんな苦労して絵を描くのか」

「ふふ? うんざりしているようだけど、内心結構わくわくしてるでしょ?」

「……少し」

「アヤメは本当に、絵が好きなんだね」

「うん。……それしかないよ」


 ぼやいたら、スフィーリアに手の甲を摘ままれた。


「わたしがいるじゃない。わたしがいるのに、絵しかないだなんて言わないで」

「……うん。それもそうだ。ごめん」

「わかればよし。ねぇ、ちなみになんだけど、実は三日後、わたしの誕生日なんだよね。アヤメの国では、誕生日を祝う習慣、ある?」

「うん。あるよ」

「プレゼントを渡す習慣は?」

「あるね」

「わたし、アヤメから欲しいプレゼントがあるんだよね」

「うん? どんな?」


 スフィーリアが僕に求めるもの? なんだろう?


「アヤメの国の文字って、すごくおしゃれじゃない? だから……アヤメの国の言葉と文字で、わたしに名前を付けてほしい。アヤメだけが呼ぶ、特別な名前」

「……そうきたか。うん。わかった。いいよ」

「誕生日までに考えておいてね?」

「うん」


 スフィーリアの名前、か。

 そう言われて、一つの名前が浮かんだ。

 祈璃いのり

 僕がつけるなら、この名前にする。


「……あ、そういえばさ、リーキスに復讐する方法は考えてるって言ってたよね? あれ、なんだったの?」

「ああ、あれ? えっとねー……」


 スフィーリアが何かを唱える。すると、床に魔法陣が出現し、そこから……神々しい槍が現れた。


「これ、壊されたっていう聖槍」

「……え? 無事じゃん」

「そうだよ。リーキスが隠してただけだから。本当は、最後にこれを見せつけて、そもそも聖槍は壊れてないからわたしに罪なんてないよね、ってやるつもりだったの。でも、いらなくなっちゃった。

 もし実行してたら、リーキスとしては、すごく立場が危うくなったと思う。でも、もうリーキスとかどうでもいいの。

 ちなみに、この聖槍を呼び出す魔法の研究をしているときに、異世界人を召喚する魔法を知って、試してみたのね。勝手に呼び出して、ごめん。でも、アヤメが来てくれて良かった」


 スフィーリアが聖槍を魔法陣にぽいっと放り込む。槍はどこかに消えた。


「アヤメがいなかったら、リーキスへの復讐に燃えてたかもしれない。

 今は、復讐とか考えるより、アヤメと将来のことでも考えたい」

「……そっか」

「ねぇ、アヤメ」

「うん?」

「あの約束、覚えてるよね?」

「……うん。……壁画が完成したら、って奴だろ?」


 忘れるわけもない。


「もう、いいよね? 半年も一緒に過ごしているんだから」

「……うん」


 スフィーリアが体を起こす。そして、婉然と微笑む。


「明日は……思い切り寝坊しちゃおうね?」



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 最後までお付き合いくださってありがとうございます!

 一体何名くらいが読了されるのでしょうね……? 数字的にはかなり苦戦した作品ですが、人によっては悪い作品ではないと、期待してます……。

 では、また別の作品で!


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神絵師って神様を描く絵師じゃないよ!? 本当に僕が礼拝堂の壁画描いちゃってもいいの!? ~聖女様に頼まれて異世界の女神たちを萌えキャラにしちゃった件~ 春一 @natsuame

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