ゴッドハンド中村
夏伐
第1話
前にタクシーに乗ったのは修学旅行の時だったか、見知らぬ街の夜景を眺めながら私は、ふとタクシーの運転手に目を向けた。
普段から節約している私にとってはかなり
運転手は気の優しそうな親父さんで、ただこういう人を無味乾燥とでも言うんだろうと思った。
ゆったりと眠くなる時間を過ごし、目的地についてから私は料金を支払った。
「領収書はご入用ですか?」
「いえ」
「良ければアンケートはがきがありますので、お暇な時にでも。アンケートに答えると粗品がもらえるんですよ。せっかくなのでぜひ!」
「はあ」
私はアンケートはがきを受け取って、タクシーを降りた。
「この度はご利用ありがとうございました。またのご利用お待ちしております」
扉が閉まる時にそんな定型文を言われるが、悪い気はしない。
後日、アンケートはがきを書こうと思った時に、そのタクシー会社のHPを見てみた。他の人はどんなことを書いているんだろう、という好奇心からだった。
なんとも茶目っ気がある会社のようで、運転手の顔写真と『二つ名』と共にどんな接客を目指しているかが書かれている。
「えーと、あの人は……」
探すと、彼の名前は『ゴッドハンド中村』と書かれていた。
安全運転で、コップの水もこぼさないような丁寧な運転さばき。漫画を見て、車に憧れ運転技術を磨き続けて30年。
なるほど。これはとんでもない人物にぶち当たっていたんだな。
そう思いながら私はアンケートはがきに『とても丁寧な運転でついつい眠くなってしまうくらいゆっくりした時間が過ごせました』と書き投函した。
無味乾燥と思っていても、実は面白いものが世の中にはいっぱいあるのかもしれないな……。
面白いタクシー会社だったから万が一またタクシーを使わなきゃいけない時はきっとここを利用しよう。そう思っていた数日後、タクシー会社から粗品が届いた。
「そういえば粗品ってなんだろ」
封を開けると、孫の手。
今どき孫の手!?
メッセージカードには『お客様の足になりたい ○○タクシー会社』。
「足になりたくて手を送ってきたってこと!? どういうこと!?」
終始つっこみが追い付かないタクシー会社の対応。メッセージカードの裏に手書きで中村さんからのメッセージがあった。
『子守には自信があります。うちの子供はみんな私の運転で眠らせてきました。眠れない夜にもぜひともお呼びください! 中村』
「子育てで磨かれた運転技術か……」
そりゃ眠くなって当然だ……。戦場を生き抜いた技術だもん……。
タクシーの出費は少し痛かったが、それを補えるくらいに笑わせてもらった。
娯楽としてのタクシーも良いかもしれない。
そしてゴッドハンド中村は確かなゴッドハンドだった。
ゴッドハンド中村 夏伐 @brs83875an
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます