第6話 少し時間を戻って 1

「おめでとう、楠木誠君! 君の魂は神様へと昇格を果たしたぞ!」

「! 何? 何ですか?!」


老齢だけどハッキリとした大きな声が突然、耳に届いて、僕はビックリして体を強張らせてしまった。

一体、何だ? 魂? 神様? 何を言ってるんだ?


「お? すまんの。びっくりさせてしまったかの? もう一度、言うのでよく聞いておいてくれ給えよ! 君、楠木誠君の魂は、幾度かの転生の結果、位が最高位に達し、神へと昇格を果たしたのじゃ! いやあ500年ぶりの昇格者なので、年甲斐もなく、ちょっとテンション上がってしまったわい!」


白髪の老人が、右手を頭の後ろに置きながら、笑顔を振りまいていた。

しかし、その光景を見ても僕はまだピンときていない。

だいたいここはどこなんだ?

周りはたぶん空なのか? 清々しいほどの青の中を白い雲が流れている。

僕はそんなど真ん中に立っていた。

そう、ほぼ全方位、空なんだ。でも僕と、そのおじいさんが立っている、10メートル四方の部分だけ、少し灰色掛かった床があった。

その床と空の境はぼやけていて、はっきりとした境目が見当たらない。


これは夢なのか? それにしてはリアルな感覚がある?


「夢では、ないから安心してくれ」


うお!? 僕の、心の中の言葉を読んだ?


「ふぉふぉ、神ならこれくらい朝飯前じゃ! と言いたいところじゃが、この神階域では、魂の誠君の言葉は、発声ではなく心の中で思う事がそのまま言葉として伝わるからの。別に故意に心の中を覗くとかではないから、警戒せんでくれたまえよ」


ちょっと待って!

頭が混乱してきたぞ? ここは冷静になろう! まずは深呼吸!

僕は目をつぶり、大きく息を吸い始めた。


「スウー、ハアー、スウー、ハアー、」


よし! 落ち着いた。まずはもう一度周辺状況の確認だ。

目の前に居るのは、白髪で白くて長い髭を蓄え、紺色で和服の着物に似た服装をし、白地のマントを羽織っている、神様らしい。

うん、見た目にも神様っぽいし、何となく威厳? も有るかも?

それに、僕が魂? そういえば体の感覚が無いぞ。手とか足とかも見えない。

周辺の状況も、どう見てもさっきまで居たはずの日本の街中とは思えない。

やっぱりここは死後の世界なのか?


「どうかの? 少しは落ち着いたかの?」


僕が眉間にしわを寄せて、神様? を見つめていたら、やさしそうな声で質問された。


「え? まあ、日本でない事だけは分かりました」


とにかく、現状は把握した事だけは伝えた。夢であることは、まだ否定できないけど、僕の中の何かがこれは現実に起こっている事だと言っているようで、夢とは思えない以上、今の状況を受け入れるしかないようだ。ここがあの世だということを。


「なら、さっそく神へ転生してもらおうかの」

「ちょ、ちょっと待ってください!!」

「どうかしたかの?」

「僕ってやっぱり死んだんですよね?」

「そうじゃよ。それはもう悲惨な事故じゃったよ」

「そうですか」

「なんじゃ、案外落ち着ておるな?」

「まあ、何となく今の状況を考えれば想像がつきますし、今、騒いだところで生き返るわけじゃないですよね?」

「それは、そうじゃが、なんか、わしより悟っておらんかの?」

「そんな事はないですよ。それより神への転生というのは、一体どういう事ですか? 説明をしていただけないと、簡単には了承できませんよ?」


楓ちゃんから借りて読んでいた本にも同じような事が書かれていたはず。最初に説明をちゃんと聞いていないと、後で困る事になるって。


「え? 神様だぞ? その世界で最も偉いのだぞ? なんでも出来るのだぞ? ハーレムだって作れるのだぞ? 説明する必要なんて無くても問題無かろう?」


本当に不思議そうな顔で、言われるから、僕の方がおかしいのかと思いそうになったけど。


「おかしいのはそっちの方だからね?! 神だからってそんな事をして良いんですか?」


ビシッ!


「何ですか、その問題ないってポーズは? 親指立てて僕に向かって突き出さないでください!」

「ホホホ、まあそう怒りなさんな。さすがに私利私欲の為に行う行為は全ての世界の創造主である全能神様から罰を与えられる事はあるがの、ハーレムでも、相手が幸せや喜びを感じるならそれは良きおこないになるから、問題ありゃせんよ」


ん~ん、案外神様の世界も俗世まみれだな?


「神になった者が、その世界でどう選択しようが、その神自身の責任じゃ。神とて万能ではないからの。それに邪な者が神に昇格できるわけがなかろう?」


それもそうか?


「じゃあ、何故そこまで僕に神への転生をゴリ押しするんですか?」


あれ? 神様、僕の事をジッと見つめてきた。ちょ、ちょっと怖いんですけど。


「もし、君が転生を断ると、君の魂は長きに渡り、各世界を彷徨い、誰にも気付かれずに消滅してしまう事になるのじゃ。それでも良いのかの?」


それって、幽霊とかそういう類のものなのか? 確かにそれは嫌だな。でも


「でも、神様へ転生っていうのは、どうかと思うんです。僕みたいに何の取柄も無い人間がやっていける自信がもてませんよ?」

「ふぉふぉ、その謙虚さもまた神の資質の証じゃよ。それにそればかりが神へ転生してもらう理由ではないのじゃ」

「他にも理由があるのですか?」

「ある。最初に話したが、神になれる位、階位というのがあっての、誠君は今までの何度かの転生で徳を積んでおって、死ぬ直前に階位が上がって神の位に達したのじゃよ。なので、君の魂はもう神と同等の力を内に秘めておる。そしてその状態で、今までの様な普通にの人間に転生したら・・・・」

「・・・したら?」

「母親の胎内である程度成長すると、その力に耐えきれなくなり、バン!!って、母親共々爆散してしまう事になるのじゃよ」


神様が僕の目の前で手の平をバッと開いて見せて、爆発を演出してくれる。


「そんな、演出止めてください! 想像してしまったじゃないですか!」

「おお、済まん、済まんのう」


そんな、嬉しそうに謝られても、ちっとも誠意が見えませんけど?


「それじゃあ、どうやって転生するんですか?」


母親となる母体が耐えきれないなら、どうやってその世界に転生するっていうのだ?


「誠君は、神の降臨とか聞いた事は無いかの?」

「ありますけど?」

「それじゃよ。神と言うのは、その世界に降臨するのじゃよ。つまり、ある程度の神の体、幼生体となった時点で、地上世界にそのまま降臨するのじゃよ」


なるほど。じゃあ転生というより転移? でもないか。魂が新しい体に移るんだから、転生なのか? 

そう言えば、楓ちゃんが持っていた小説にも、そういう話もあった様な気がする。

彼女は、小さい時から体が弱くて入退院を繰り返していたからな、特に躍動感溢れる物語が好きで、生まれ変わったら異世界へ転生して、冒険者になってみたい、とか言っていたな。

でも、その転生を僕がする事になるなんて。

・・・・もう会えないのか。

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