第5話 僕は誰、ここはどこ? 4
「さて、着いたぜ。ここが村長の家だ」
ドルガさんが塞がっている手の代わりに顎で差した先には、木造の骨組みに土壁で塗られた大きな家だった。
屋根は植物の茎の様な物を幾重にも積み重ねた厚みのある仕上げで重厚感のある佇まいだ。
此処まで来る時に見た他の家も作りは同じだったが、その規模が倍ぐらいの大きさがある。
「村長さんの家、大きいですね」
少し見上げながら呟く。
その間に、ドルガさんは村長さんの家の戸を引いて開けると、ずけずけと入って行った。
「おーい! マリアちゃん! いるか? おーい!」
大声で村長? マリアさん、と呼ぶトルガさんの声だけが響き渡るが、返答が無いようだ。
「おーい、おらんのか? ちょっと上がるぞ!」
いいのだろうか?
いくら知り合いでも、勝手に人の家に上がり込んでしまって?
それにマリアさんって名前からしたら、まだ若いのだろうか? そんな若い方の家にズケズケと上がって問題にならないのかな?
「なんじゃうるさいのぅ! 馬鹿ドルガ! わしゃここじゃ!」
「うおっ!!!」
突然気配もなく後ろから声をかけられた。
反射的に後ろを振り返るドルガさん。
僕はドルガさんに背負われているので全く前が見えないから、その村長さんの事を確認出来ない。
「お、居るじゃねえか。後ろから脅かすなって」
「何言っとるんじゃ! 勝手に上がり込んで文句言うんじゃないよ!」
「まあ、そう怒るなって。ちょっと急いでたんでな」
二人は結構仲が良いんだろうな。
喧嘩っぽく話してるけど、本当に嫌ってる様な話し方じゃないもの。
「あの~、お二人とも仲が良いんですね?」
「おう!」
「はあ~!? 誰が仲良いって?! て誰じゃ何処におる!?」
二人の反応が真逆なのでちょっとおかしかった。
でも、そうかドルガさんの背中が大きくて僕が見えないのか?
「す、すみません。ここにいます。ドルガさんの背中に張り付いている者です」
なんか変な挨拶になってしまった。
すると、多分村長さんだと思われる方がドルガさんの後ろに回り込んで来て僕の事を見つけてくれました。
この人が村長さん? でマリアさんかな? 雰囲気は名前とそんなに違和感がないけど、背は僕より小さいかな? 凄く可愛らしいんだけど何処か凛とした雰囲気もあるお婆さんだった。
「は、始めまして。こんな格好で申し訳ありません。僕、怪我して森で倒れていたんですけど、このドルガさんに助けてもらってここまでお邪魔させてもらいました。突然でごめんなさい。」
僕は取り合えず、小さく会釈をして村長さんに挨拶をしました。
「あれまあ! なんと、めんこい子だろうね。それに丁寧な挨拶で、どこかのお嬢様なのかい?」
「いや、それがな、記憶が無いから分からねぇらしいだよ」
ドルガさんが僕の記憶が無いことを伝えてくれると、少し眉間にシワを寄せて不審がる村長さん。まあ当然だよね。
「ババ様、どうかしたの?」
そんな村長さんの後ろから一人の少女が声をかけてきたのが見えた。
長い美しい黒髪に吸い込まれそうな黒い瞳が印象的な僕より少し年上に見える美しい少女だ。そう本当に綺麗な女性で、僕はたぶんみとれていたと思う。
だからじっと僕が見つめていたんだろう。彼女は少し恥ずかしそうに顔を赤らめていた。でもその瞳は僕の視線から外れることはなかった。逆に僕の事を探ろうとするかの様に、凝視してくる。
かえって僕の方が恥ずかしくなりそうだった。
「どうしたんじゃ、アマネ?」
「へ? あ、え、その! はい!」
マリア村長さんの声で正気に戻った、アマネさんって言うのか? 彼女が慌てたためか変な返事でかえしていた
「どうしたんじゃアマネ? あまり人と関わるのが苦手なお前さんにしては珍しく食いついているねぇ。 そんなにこのお嬢ちゃんが気になるかい?」
冗談なのだと思う村長さんの言葉を、聞いているのか分からない表情のアマネさんだったが、一呼吸おいてから小さく頷かれた。
「ほう、本当に珍しい事もあるもんじゃ。まあ嫌がるよりは治療がしやすいというものだよ。馬鹿ドルガ、そのお嬢ちゃんを、布団敷くからそこに寝かせてやんな」
「お、おう、でも何も聞かなくて良いのか?」
マリア村長さんが、特に僕の素性を探ろうとしない事にドルガさんも少し不思議がっているようだ。
「ふん! あんたがここまで連れて来たって事は、馬鹿ドルガはそのお嬢ちゃんを信用しておるんだろ?」
「ま、まあな。そんなに俺の事を信用してくれてたんだ。」
「馬鹿言うんじゃないよ! それはほんの少しの理由でしかないよ! ただこのアマネが初対面なのに興味を持つなんて珍しいからね。私も、もうちょっとこのお嬢ちゃんの事知りたくなったんだよ」
どこか嬉しそうに話すマリア村長さん。
「ババ様! 話しは後で良いですから、この方の治療をさせてください!」
マリア村長さんとドルガさんのやり取りに業を煮やしたかの様に話しに割って入り、僕の怪我の治療を訴えてくれるアマネさん。
そんなアマネさんに、僕も何故か引き付けられるものを感じていた。
凄く身近な存在に感じるんだよね? 記憶はないけど、状況から考えれば知っていたなんて事は無いはずなのに。
「わ、分かったよ。馬鹿ドルガ! さっさとお嬢ちゃんを寝かせてやんな! 後はアマネに任せるからね?」
「はい!」
嬉しそうに笑顔で返事をしてくれるアマネさん。
僕はドルガさんに抱えられ、マリア村長さんが敷いてくれた布団に寝かされると、その横にアマネさんが寄り添う様に座ってきた。
「お嬢さん、体に力を入れずにゆっくり目を閉じてください。」
自分の子供を優しく見る様に、アマネさんが話しかけてくれた。
僕は、その言葉のままに、体から力を抜き、目を閉じた。
すると、額に柔らかい、たぶんアマネさんの掌が乗せられてくると、しだいにその手が熱くなって行くのを感じはじめていた。
「凄く温かい。気持ち良い。」
僕は思わず口走っていた。だって本当に気持ち良かったんだもん。
「ありがとうございます。そのまま少しお休みになってください」
凄く優しいアマネさんの声に僕は身を委ねていく。次第に外界の音が消え、アマネさんの手の温もりだけを感じていると、心の奥底へと自分が沈んでいくような気持ちになってくる。
眠い、とてつもなく眠たい。
僕はその睡魔に抗う事を忘れ、ただただ深く意識を沈ませていった。
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