第2話 僕は誰、ここはどこ? 1
僕は空を見上げていた。というより地面に寝っ転がり上を向いているようだ。
青い空に白い雲がゆっくりと流れる、普通の空だ。
「カエデちゃん、会えなかった?・・・・ カエデ? 誰だ?」
雲が流れて行くところを、ただボーと眺めていたら、無意識に出た言葉に違和感を覚える。
女の子の名前だよな? でも誰なんだ?
多分、良く知っているとは思うのだけど、頭の中に霧が掛かっているように不鮮明でうまく思い出せない。
でも、凄く重要な、忘れたらいけないような気はするんだけど・・
「痛っ!!」
頭に強い痛みが走った。
一体何がどうした? 痛みが走る頭を抱えながら、ゆっくりと上半身だけ起こす事にした。
まず、痛みのする後頭部当たりを手で探り痛みの原因を探る。
髪の毛の間にヌルっとした感触が伝わってくる。
触れた手を見ると、血の色が手のひらに、そう多くはないがはっきりと付いていた。
「なんだ?怪我していたのか?」
その手に付く血の痕をじっと見るのだけど、なにも思い浮かばない。
一体どういうことだ? それに、ここはどこなんだ? なんでこんな屋外で倒れているんだ?
僕はどうしてこうなったのかを思い出そうとするのだが。
「・・・・・・・・・・・・・・・・?!」
「思い、出せない?」
いくら考えても、思い出せない。
どうしてここ、何故? 怪我をしていたのか。そもそも僕は・・・
「僕? 僕は一体誰だ? 名前が出てこない! それにさっきの女の子の名前は、一体?」
頭の怪我の痛みもあって、上手く思考出来ない。
だからと言って自分の名前が分からないなんて事は無いはずだ。
「記憶喪失?」
そんな言葉が僕の口から漏れた。
「? 記憶喪失? 意味は分かる。今の自分がそれだ。でも? なんでそんな言葉を知っているんだ? どこで覚えたんだ?」
考えれば考えるほど分からなくなる。
とにかくまずは落ち着こう。
そうだ! 深呼吸、深呼吸をしよう!
「すうー、はああああああ、すうー、はあああああああ」
僕は、二度程大きく深呼吸をして混乱した頭に酸素を送る。
それが功を奏したのか、見えていなかった周りが見え始めた。
僕は今、仰向けに倒れているようだ。
だから空しか見えなかったのか。
じゃあ周囲はどうなっているんだ?
僕は、取りあえず頭を左右にゆっくりと動かし周囲を確認する。
地面が近いな。
森の中か? 樹木が覆おい繁っている。
地面は草ばかりや木の根が見えるけど、血だまりとかは無いみたいだ。
「ふう、頭の怪我の血は、周囲を見てもそれ程流れ出している訳ではなさそうだ」
まずは、落ち着いて自分の状況をまずは確認しよう。
さっき確認した頭の傷は、血が出ているものの大量に流出した訳でもないし、今、すぐどうにか成る訳じゃなさそうだということが分かった。
それと今は、日の光がまだ柔らかいし、空気が澄んだ感じがするから、早朝かな?
怪我の状態から考えればと、まだ怪我をしてからそんなに経過していないのではないのか?
一晩、気絶していた訳ではなさそうだ。
じゃあ怪我をしたのは、つい先程なのか?
とりあえず命の危険がと、いうほどの怪我でもなかったようだ。
でも、このまま放っておいたら化膿して取り返しがつかない事になるかもしれないぞ?
動くにしても、まずは周囲の把握だな。
周りは森かな? 周囲はかなりの樹木で覆われているし、草木も花もいたる所に咲いている。
ちょうど僕が寝ていたところだけが、大きな樹木が無いポッカリと開いた空間になっていた。
「完全に森だな」
「体の方は? っと」
手は動く、指も全部大丈夫だ。
頭のこの傷も出血の量にしては浅いようだし、口も動く。嗅覚は、森の木の匂い、草、土の匂いがしっかりと分かる。大丈夫だ。
鳥のさえずりも聞こえるから耳も問題ない。
僕は自分の体の部位を順番に動かす。問題なく各部位は動けるようだ。
これなら行けるか? まずは、ここから移動しよう。
「ガサ、ガサ、」
地面に手を付き、身体を起こそうとした時、僕の正面の方向から、草が擦れるような音が耳に届いてきた。
「何か、いる?」
僕は、近づく気配に気づいた。
待て、待て! こんな森の中で怪我をした僕なんか、獣の餌にはうってつけじゃないか!
でも、どうすりゃいいんだよ!
「バキッ!ガサ!」
そんなこと人の胴周りはある木々を押し倒しながら、それはやってきた。
2mくらい上にある太めの木の枝を易々と折ってしまう巨漢の黒い物体。
それが、僕の方へゆっくりと向かってきた。
ちょうど朝日と交錯してシルエットしか分からないが、どう見ても2m以上ある巨漢の大熊のようだ。
「ま、まずい!に、逃げなきゃ」
何とかこの場から離れたくて身体を起こそうとするが、全然いうことを聞いてくれない。
足に力が入らない。
やはり、頭を打ったのが影響しているのか!?
いや! それよりどうする?
このままじゃ、食われてしまうぞ!
何か、考えろ!何か!何か!無いのか?!
いくら考え、周りを見ても何も無い。
助けてくれる人も、いなければ警察なんかもある訳が無い。
ん? 警察? なんだ、それ?
自分で言っておいてそれが何だか分からない。
でも、もういいや、そんな事。
大熊はもう僕のすぐ側までやって来ている。
もう。終わりだ・・・何が何だかわからない内に僕は死んでしまうようだ。
「せめて、一瞬で殺して下さいね。痛いのは嫌です」
「おい・・・おい!・・・・おい!!」
何か声がする。
人の声? 熊の声? 熊がしゃべった?
あれ? 僕、おかしくなったのか?
待てよ? これは、全て夢なのでは? そうか! これは夢だ! いきなり大空の下で怪我して寝ていて、突然、熊が現れたと思ったら人の言葉しゃべるなんて、ありえない!
早く覚めろ、僕の夢!
「・・・・おい!おい!大丈夫か!!」
「!!!!」
僕はハッ!となっていつの間にかつぶっていた目を大きく見開く。
なんと、熊が僕の肩を持って揺さぶりながら、人の言葉でしゃべっている?!
「や、やっぱり、く、熊がしゃべっている?!」
「誰が熊じゃい!わしはれっきとした人間だ!」
「に、人間?」
僕の肩をつかむ手は毛むくじゃらで異様に大きい。
身体全体も獣の毛で覆われているし、顔も毛むくじゃらだ。
それに何より図体が馬鹿でかい!
「これが熊でなくて何なんですか!」
あれ? でも腰に何か巻き付けているような。
最近の熊は、お洒落さんなのか?
それに二本足で立っている。
いや、熊ってそもそも二本足でも立っていられたかな?
・・・・・・・・いや、まてよ。自分の事が分からないのに、熊の事は分かるのか? 何故か理不尽に思える。
まあ、落ち着け自分! 記憶の事は後だ! 今は目の前の馬鹿でかいものが何かが問題だ!
人の言葉をしゃべったんだ。良く見れば人のはずなんだ!
「・・・・・・・・・・やっぱり熊だ!」
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