シャーロックの原理

 量子力学の話なので、非常に難解です。

 ゴメーンネ


 本来はSachdev‒Ye‒Kitaev模型(SYKモデル)まで突っ込んで、ブラックホールがどういった理由で量子力学上においてブチ壊れた存在なのかも説明したかったのですが、あまりにも専門性が高いので諦めました。

 ・

 ・

 ・

 シャーロックの原理はかなり根本的な部分でアンデッドと関係しているのですが、あまりに難解すぎて、登場人物に語らせるにしても、もう娯楽小説じゃねえ!!!!という結論にいたったので、コラムとして残そうと思います。


 フユたちが端末で使用している、過去の情報をホログラム、MR(マージナルリアリティ)として表示するシャーロックのシステムは、現在非常に難解かつオカルティックな物にしか見えない、量子力学の結晶です。


 そしておそらく、アガルタ世界のヒトが残した中で最も安全な代物です。

 というか他がヤバすぎるでは……?


 以下にシャーロックがどういったものか説明します。


 ベッケンシュタイン博士とホーキンス博士はブラックホールの円周の圧縮された面、その2次元の空間に、ブラックホールの全ての情報が記録されているという事を発見しました。


 つまりこの世界の情報というのは、非常に微細な情報のエネルギーを発しています。電子のスピンは結晶化の過程で情報力学における、エントロピーの増大が発生させ、そこにエネルギーが発生します。これは「量子もつれ」に関係します。


 それは世界が1方向に進む流れ(時間のようなもの)の中で常に行われています。

 しかし時間というのは一方向ではなく放射状に拡散する者であり、過去も一方向でしかありません。時間は常に重ね合わせの状態で存在します。


 そして、それがために、世界の事象というものは、観測者の世界に対して、あたかもホログラムの様に映し出されているという事です。


 ゲームをしているコンピューターが、毎フレーム液晶に空間の情報を送り、表示させているのを想像してください。それにエネルギーと物理的記録が発生しているという事は、つまり世界の幽霊(ゴースト)が延々と生まれているという事なのです。


 シャーロックはそれを捉えて廃墟の中に在りし日の姿を再現しているのです。


 ・

 ・

 ・


 さて、ここで相対性理論について語りましょう。

 ここで語りたいのは「時間」についてです。


 なぜシャーロックは過去をさかのぼれるのでしょうか?

 それは「時間」という「モノ」は存在しないからです。


 かつて時間は全宇宙で同一とされていましたが、アルベルト・アインシュタインが発表した特殊相対性理論によって、そうではないことが知られるようになりました。


 特殊相対性理論によればローレンツ変換により、固定的な時間と変動する空間がスケールとして混合してしまうので、両者を完全に独立した「定規」として使う事が出来なくなります。


 速さによって長さが変わる定規とか、意味が解りませんよね?

 そしてその内部時間で更に変わるのです。もはや使い物にはなり得ません。


 こういったことから、時間と縦、横、奥、この4次元空間を、時間と空間が一体化した「時空」だとする考えが生まれました。

 さらに重力は、4次元時空の「曲がり」相当するのでは……?と、一般相対性理論の発想につながります。


 この考え方によれば、時間は「経過」しているのではなく、空間と質的、量感的に等しく散らばっていくもの、「拡がり」を表すものとみなされます。


 ★補足

 一般相対性理論では、重力と加速度は等価で、この二つは空間と共に時間も歪めます。重力の低い位置での時間の進み方は、高い位置よりも遅れるとされます。


 例えば、惑星や恒星の表面では宇宙の中心よりも時間の進み方が遅いとされます。

 非常に重力の強いブラックホールや中性子星では、とくにこの効果が顕著であるとされます。

 ・

 ・

 ・

 さて、量子力学では、この時間の流れというものは逆方向にも存在します。


 正確には量子力学が寄ってきている、というものでもあるのですが……。


 時間が一方行に流れるというのは、エントロピーによって説明されるのが一般的です。つまり、岩から石へ、そして砂へ、最後に塵へ。

 閉鎖系で発生するこの流れが、複雑系においても一切変わることが無いのであれば、「時間」とは一方向に流れるものである、そう見ることができます。


 このような「熱力学第二法則」を、粒子系の実験をモデルとして説明することもできますが、証拠としては弱いのです。それは、実験室が狭すぎるからです。

 現実には外部からエネルギーを追加されると言ったことも存在していますし、偏ることが普通です。そして宇宙では実際に質量がエネルギーとなり、太陽となって新たなエネルギーの拡散を生んでいます。


 進行する現象中で、時計の針を逆に回すような変化も起こり得る現象ですが、これは振り子の運動や、惑星の公転を運動としてあらわす力学系では、可逆性が成り立ちます。蒸気機関のような可逆熱機関はズバリですね。


 このことは、その系の時間発展を表す運動方程式が時間反転対称性を持ち、時間の進む向きを逆転しても方程式の形は変わらないためであると説明できます。


 また量子力学や一般相対性理論、それに含まれる電磁気学もこれまた同様に、時間反転対称性を持ちます。


 時間発展を記述する方程式が、時間反転対称性を持つために、ある運動が方程式によって記述され解があるのなら、その逆向きの運動も存在するということです。


 そしてこれがなぜ我々の直感に反するかというというとですが……。

 記憶を含めた生命活動というのは基本的に、エントロピーが増大する方向、つまり拡散して死という方向にしか働きません。


 ヒトが定期的に白い繭を作って閉じこもり、また赤ん坊になって記憶をリセットして生まれてくるとかいう、バケモンみたいな生物でない限り、この理論は直感に反するのです。


 つまるところ、我々の世界での見方、常識のウェイトが大きいという事です。

 直感とはつまり経験則なので。


 炭を水を溶かしたらインクになって戻ることは無いと考えますし、それが外からの力、大量の水をぶっかけるという事で、水に戻っても、「流した」だけであり、乾いてインクが炭になったとしても、それぞれを水と炭の状態に戻ったとは考えません。


 時間が一方向に流れる、という認識は、そう言った「常識」、ミームの力によるものが大きいのです。


 実際コンピュータの記録(より正確にいえばメモリの消去)はエントロピーの上昇させますし、有機生命体の生命活動はDNA>RNA>蛋白質という、エントロピーの増大を利用して方向性をもった反応もあります。

 そもそも有機生命体の持つセントラルドグマが、代表的な一方向の矢です。

(たまに逆転もするので不適切な例えかもしれませんが)


 時間には様々な矛盾があります。


 そもそも、最初の時計である日時計を考えてみましょう。

 結局は物体の状態の変化を時間の経過と捉えて測定しているだけです。


 これは、「時間そのもの」は物質として存在しないことを、遠回しに意味しているのではないでしょうか?


 シャーロックが読み取るのは、現実の年輪。

 ミルクレープの様に折り重なった3次元空間を取り囲む膜の記録です。


 より正確に言えば、重力現象です。「モノが存在する」これだけでも三次元空間においては重力異常が発生するのは一般相対性理論で説明しましたね?


 私たちを取り囲む空間、その空間の一点の情報というのは、面に広がった(時間は無いと説明しましたね?)「量子もつれ」の情報から書かれています。


 そしてこの符合化と記録方法は、不気味なほどに量子コンピューターと一致しました。しかし、私たちの世界にその情報の行き止まり、端末のモニターに相当する「外側」があるのかどうかまでは解りません。


 シャーロックのもとになった、量子点群情報、量子重力理論の数学理論では、閉じた空間でも、開かれた空間の複雑系でも、両方成り立つからです。


 以上です

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

死人たちのアガルタ設定資料 ねくろん@カクヨム @nechron_kkym

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ