エピローグ

 僕には過去の記憶がない。自ら望んでそうなった。

 隣で思い出を語る護英くんに、その感覚を聞いてみた。

「思い出が持てるって、嬉しい?」

 出てきた答えはのんびりで、未だ思考中であることが見て取れた。

「時を経ても蘇る喜びがあるのは、嬉しいことかもしれないな」


 僕は記憶を手放して三年、込み上げる感情を秘めた記憶はまだない。そこに対して思い悩むことや悲嘆に暮れることはないけれど、胸の隅で形にならない歯痒さが見え隠れ。そこを見透かされたのか、彼は穏やかに聞いた。

「寂しいの?」

 すぐさま否定したものの、距離が近づく肩と肩。

「思い出は、増やしていけるから。君が忘れても、君を覚えている人が、きっといるから」

 気付けば、同じ星彩を見上げていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

星の在処 木之下ゆうり @sleeptight_u_u

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ