救いのない一本道こそが「彼女」の運命なのか?

 最新話まで読了。この作品に下衆は存在しない。しかしそれゆえに救いがない構造になっている。主人公の「少女」エヴィスはたしかな倫理観を持った、良い子供である。周りの人間にも悪人は見当たらない。しかしそれゆえに、一歩踏み外した運命のイタズラが人生を狂わせていく。自力救済を是とするスパイラルは、関わったもの全てを不幸にするのだ。

 もはや枷であるムラの掟(共同体思想)。殺戮を生む主権国家の道理(ネイション)。すでに去った社会主義の理想と、勝ち誇る民主主義自由経済の仕組み(リベラル・イデオロギー)。すべての要素が、エヴィスにその果実を与えることなく直接間接に牙を剥く。部族は彼女を護らず、国家は彼女に教育や福祉を与えず、広汎な思想は地球の裏側から彼女を助けにきたりなんかしない。それぞれの歪みをただ押し付けるだけである。

 いかなる過程を経ようとも、エヴィスは救われない。エヴィスは善人だが名もなき人間で、英雄でも皇帝でも革命家でも聖人でもない。よって世界は変わらないし、自身の運命に従うしかない。それが「彼女」の辿る結末なのだろうか。そういう悲哀を第三者視点で感じさせてくれる稀有な作品でした。