読み手に「いつか通った道」を思い起こさせてくれる、空疎で鉛色のモラトリアムに漂う少年の一風景の物語でした。
平凡な一生徒。生きている意味も目的もない。さりとて死ぬ気も当然ない。目にするものが無価値なら、最初から見なければいい関わらなければいい。
そういう思春期特有の(シニカルな)雰囲気が作中世界を曇天色に彩っています。無論ここに(一見真っ当な)(その実「逸般人」な)善良少女が変数として関わってきて、物語展開に巻き込まれていくわけです。王道のボーイミーツガールです。
主人公は少女に惰性で絡んでいるうちに絆されていくわけですが……この辺りこそ「クラスメイト以上、恋人未満」といった距離感で一種の懐かしさを感じます。
雨の街。学校の人間関係。連続怪事件。一噛みするアングラ人間。理外の機関……。
これらの要素が混ざり合うことにより、あり得ないようで届いてしまったように纏められた規模感が伝奇的非日常を演出しています。これこそティーンエイジャーの憧れです。日常の世界に住む少女と、日常にありながら捻くれた少年が、タッグを組んで挑む非日常。これぞ王道です。
魔法という道具立てといい、謎の人間たちが織りなす展開といい、総じて「あの頃」を思い起こさせるような、上質なジュヴナイル伝奇作品でした!