第22話 錬金術
中世に発達した錬金術は化学を産み出した母体である。
錬金術の基礎概念は「金属はゆっくりと成長して他の金属に変わる」というものである。それらの金属成長の最終形態がそれ以上変化しない貴金属である黄金である。
鉄は錆びて赤くなる。これは赤銅に成りつつある姿である。鉛は錆びて鉛白に、銅は錆びて緑に。いずれも他の金属に変化する途中である。
その過程を早める目的で酸を加えたり、火で熱したり、水銀を作用させたりする。
これが錬金術である。
自然銀などの析出を見ているとただの紐状から、銀色のシダの芽に見えるもの。雪の結晶のような析出を見せるものがある。これらを中世の人々は見て、そこに成長する植物との類似性を見て取ったのであろう。
錬金術の極致はどの金属に作用させても黄金を生成する賢者の石と呼ばれる触媒の作成である。それは卑金属を貴金属に変える作用を持つものであるから、人間に作用させる当然ながら不老不死を引き起こすと考えられた。
よくもまあここまで夢を膨らませたものである。
錬金術は東洋に移ると錬丹術と名を変える。その目的は飲むだけで仙人になれるという仙薬作りである。
水銀を中心に作られるこれらの仙薬はもちろん猛毒である。だがこれを飲んで死んだ人間の体が腐らない(毒の塊りなのだから当然だ!)のを見て、これはきっと不滅の体を持つ仙人に成りかけているのだと解釈して、ますます強力な毒薬作りに精を出したという。
P.S.
だが私は魚が石に変ずる所を見たことがある。
(身の回りの実話怪談「藻石」参照)
となると意外にも、この世界の裏側には錬金術が働く余地があるのではないか?
黄昏の蘊蓄 のいげる @noigel
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