主夫系男子が待っている
ゆうさん
第1話 出会いと感情
「もぉ~姉さんいい加減にしてよ。」
そう嘆くのは、私の弟、
「どう生活したらこういうことになるの。」
「ごめん。」
苦い顔して謝る私、
「このままじゃいつか仕事で失敗するよ。せっかく今の会社が波に乗っていい感じなのに毎日汚い部屋に帰ってくるのは嫌でしょ。」
最近、奏多が母親に似てきて小言が増えたなと感じつつ、部屋の惨状を見る限り申し訳なさが上回ってしまう。私は、大学在学中に広告やホームページなどのデザインの会社を起業し、大学を中退して会社を大きくするために働いた。今では会社を大きくすることができ上場企業の社長だ。忙しさにかまけて目をそらした結果が洗濯物がたまり、物が出しっぱなしの現状である。
「俺も大学生になったし、サークルにも入ったからもうそんなに来れないから。」
「え?」
急にそう告げられ思わず声が出てしまった。
「当たり前でしょ。俺にも付き合いがあるんだから。」
「どうにかならない?もうすぐ会社も繁忙期に入るし。」
「まぁ、俺も姉さんが仕事で忙しいのは知ってるし、頑張って欲しいけど・・・。」
少し考えた後、奏多はある提案をしてきた。
「じゃあバイト雇えば?高校からの友達で家事が得意な奴いるよ。同じ学部にいてバイト探してるって言ってたし姉さんが良ければ紹介するよ。家事スキルは俺が保証する。」
「うーん。奏多がそこまで言うなら。」
私は、奏多の友達に次の日曜日に私の家に来るよう奏多に伝えてもらい、内心不安だったが次の週末になるまで待った。
次の日曜日・・・
家のインターホンが鳴り、玄関の扉を開けるとそこには、奏多と友達あろう私より少し高いくらいの身長の男の子が立っていた。玄関に入ると、奏多が友達の紹介をしてくれた。
「こいつがこの前言った高校からの友達の
「初めまして奏多のお姉さん。門野祐司です。よろしくお願いします。」
いい子そうだが緊張しているのか委縮しているように見えた。
「この子大丈夫かな?」
内心そんなこと思いつつ
「初めまして祐司君。早苗でいいよ。今日はよろしくね。」
挨拶を済ませ、簡単に部屋の間取りやキッチンの説明をしていたところで1本電話がかかってきた
「誰かしら。」
スマホを見ると、会社からだった。
「なんだろ。ごめん。ちょっと電話出てくるね。」
「早苗さんって会社の社長なんだっけ。大変なんだね。」
「そうなんだよ。しかも今は、繁忙期だから死んだ顔になっていることもザラだよ。だから、祐司には姉さんさんの代わりに家事を欲しいんだ。」
「決めるのは早苗さんだけど、やるならちゃんとやるつもりだよ。任せて。」
「ごめんね。会社のほうで不具合があってちょっと出社しないといけなくなった。」
「わかりました。どのくらいで戻ってこれそうですか?」
「え?えっと..そんな大きなトラブルじゃないから3時間くらいかな?」
彼は自身のスマホを取り出し、何かメモのようなものを取り、
「では、その間に家事を済ませておきますね。奏多、夕飯の買い出ししてきて。買ってきて欲しいものはさっきメールに送ったから。お願いね。」
「応。わかった。」
その一通りの会話で大丈夫だと判断し、出社の準備をして、玄関を出ようとしたところで祐司君が私を呼び止めた。
「早苗さん!」
「どうしたの?祐司君。」
「いってらっしゃい。夕飯楽しみにして下さいね。」
久しく聞かなかったその言葉一つで疲れ切った体に気合が入った。
「ありがとう。行ってきます。」
この言葉を何年ぶりに言っただろう。起業してから部屋が寝るだけの場所となったころからこの言葉を言わなくなり、職場とさほど変わらない場所となっていた。
「早く終わらせて帰ろ。」
心からそう思った。
「姉さん行ったか?」
「行ったよ。さぁこっちも始めようか。奏多も夕飯食べるだろ。」
「もちろん。祐司の飯はうまいからな。」
「じゃあしっかり働いてよ。買い出しは任せたよ。掃除は俺がしとくから。」
「任せろ。」
二時間後・・・
思ってたより仕事が早く片付いた私は、いつもより軽い足取りで家へ向かった。部屋に着くと
「おかえりなさい。お疲れさまでした。」
祐司君が出迎えてくれた。部屋を見渡すと自分の部屋かと疑うくらいにきれいになっており、温かいご飯も作ってあった。
「あれ?おかえり姉さん。思ったより早かったね。」
キッチンから奏多の声が聞こえた。恐らくつまみ食いしようとしていたのだろう。
「しょうがないなあ。早苗さん着替えてきてください。一緒に食べましょう。」
着替えるために戻った自室を見て私は再度驚いた。参考資料や写真で足の踏み場もなかったのにきれいにそしてわかりやすく片付けられていた。感心していると、リビングから
「姉さんまだ?冷めちゃうよ。」
私は、急いで着替えリビングへ向かった。
「ごめんね。食べようか。」
「はい。お口に合うといいのですが。」
三人で食卓を囲んだ。職場の同僚や他会社の社長と食べるのとは違う懐かしい雰囲気の心が温まった。
「ごちそうさま。おいしかったよ。」
「お粗末様です。お口に合ってよかったです。」
彼は、片づけを始めようとしたので
「いいよ。片づけは私がやっておくよ。料理も作ってもらったし。」
「片付けといってもあとは、食器だけなので大丈夫ですよ。食洗機もありますし。早苗さんはお仕事で疲れているでしょうから休んでいてください。」
彼は食器を片づけを始めた。
「そういえば、姉さん結局祐司を雇うの?」
さっきまで満腹で寝ていた奏多が言った。
「もちろん雇うわ。家事スキルは全く文句ないどころか圧巻だしね祐司君さえ良ければだけど。祐司君はこんなバイトだけど大丈夫?」
「もちろんです。誰かのために料理を作るのは楽しかったですし雇っていただけるなら誠心誠意サポートしますよ。」
「ありがとう。給料やその他もろもろは後日改めて決めるとして、一つだけお願いがあるの。」
彼は首をかしげて「なに?」という顔でこちらを見つめてきた。
「毎日『いってらっしゃい』と『お帰りなさい』を言って欲しいの。今日、この2つの言葉を裕司君に言ってもらってすごくやる気が出たの。だから、モチベーションの向上につながると思うの。身勝手なことだとは重々承知している。でも、これだけは譲れない。」
姉弟間ですら本気で本音をぶつける様なことをしなかったのに初めて自分の願望を他人にぶつけて内心引かれてないか怖かった。
「そんなことでしたか。もちろんいいですよ。早苗さんの仕事のモチベーションに繋がるなら喜んで。早苗さんには安心して仕事に取り組んで欲しいですし、家に帰ってきて欲しいですから。」
そんな彼の答えにそっと胸をなでおろした。
「これからよろしくね。祐司君。」
「はい。よろしくお願いします。早苗さん。」
こうして祐司君と私のアルバイトという名の半同棲生活が始まった。
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