第3話 ハプニングと本音
次の日、朝日とお味噌汁のいい匂いにつられて目が覚めた。ぼんやりと昨日のことを思い出し、恥ずかしさで悶絶していた。
「やっちゃった。酔っている姿はまだ、祐司君に見せたことなかったのに。何も変なことしてないよね。最後のほうだけ思い出せない。」
そんなことをしていると、私の部屋に月乃がやってきた。
「社長、おはようございます。ってなにしてるんですか?布団ぐしゃぐしゃにして。」
「おはよう月乃。ねえ、昨日のこと覚えてる?」
月乃は満面の笑みで、
「はい、覚えてますよ。社長って酔うとあんな感じなんですんね。」
「え?待ってどんな感じだったの?覚えてないんだけど。」
「そんなことより、朝食できてますよ。祐司君が冷める前に呼んできてって言ってましたよ。」
月乃にわかりやすく話をそらされたが、昨日のことが気になってもやもやしていた。着替えを済ませ、リビングへ行くと、月乃と祐司君が楽しそうに話していた。
「あっ、早苗さん。おはようございます。コーヒーでいいですか?」
「おはよう。えぇ、ありがとう。」
祐司君がこちらに気づき、挨拶を交わしたが、なぜかまだもやもやする。昨日のことがまだ気になっているのだろうか。そんなことを考えながら、3人で朝食を食べていると、月乃が祐司君に
「祐司君って今日暇?」
「?はい。あらかたの家事は終わりましたから。」
不思議そうにしている彼に、月乃がある提案をした。
「じゃあ、3人で買いもの行かない?昨日のお礼もかねて。」
その提案に対して、祐司君は、
「お礼なんていいですよ。大したことしてないですし。」
「まぁまぁ、そんなこと言わずに。私がお礼したいの。社長も来ますよね。休みですし。」
確かに、今まで家事全般をやってもらっていて、給料は払っているが、大したお礼もできてなかっし、ちょうどいいかも。そう考えた私は、承諾した。
「わかりました。でも、一人友達も一緒でもいいですか。」
「いいよ。多いほうが楽しいし。」
「ありがとうございます。では、一度着替えてから行くので先に行っててください。」
「わかったわ。」
今日の予定を決め、片づけを済ませた。祐司君は一度家に帰り、私と月乃は大型ショッピングセンターへ向かった。電車で向かっている最中に月乃が、
「社長、祐司君が欲しいものって何ですかね?物欲なさそうですよねあの子。」
「確かに、何が欲しいとかは言わないわね。できるだけほしいもの買ってあげたいけど。」
「あっ、そういえば、スニーカーが好きって言ってましたよ。でも、高いから手が出ないって。」
「へぇ、そうなんだ。いつ聞いたの?」
「今朝、社長が起きてくる間に色々聞きました。」
なぜだろう、またもやっとした。最近、祐司君のことを考えることが増えたし、月乃と仲良くなるのはいいことのはずなのになぜかすっきりしない。そんなことを考えていると、ショッピングモールに着いた。
月乃と二人で祐司君と友達を待っていると、男性二人組が声をかけてきた。
「お姉さんたち何してるの?暑いでしょ。一緒に涼める場所に行かない?」
「こんなところでナンパする人がいたんだ。」
「二人とも連れを待っているのでご心配なく。」
男性たちに呆れ、冷たくあしらっていると
「まぁまぁ、そんなこと言わずに、変なことしないから。」
「嫌っ」
男性二人組が私と月乃の腕を持って引っ張ろうとしたとき、後ろから
「あのー俺等の連れの腕をつかんで何してるんですか。」
「出るとこ出ますか。」
祐司君と奏多が来てくれて、内心ほっとしたと同時にドキッとした。二人組の腕をつかむと、
「ちっ、本当に連れがいたのかよ。」
男性二人組はどこかへ走っていった。
「二人とも大丈夫ですか。道が混んでて、遅くなってすいません。」
少し祐司君の顔を見つめてしまい、顔が赤くなってしまった。
「早苗さん?大丈夫ですか?」
「う、うん。大丈夫。祐司君も奏多もありがとう。」
我に返り、慌てて返事をした。
「月乃ごめんなさい。私が冷たくあしらったから向こうに火をつけたみたいで。」
月乃は、首を横に振り、
「あれは、あの二人がしつこかっただけなので、社長が悪いわけではないですよ。」
「それより、祐司君そのお友達は?」
月乃はそう言って、奏多のほうを向いた。
「あぁ、天川さんは初めてでしたね。早苗さんの弟の奏多です。俺とは、高校からの友人です。」
祐司君が奏多を紹介すると、月乃は少しびっくりして、
「えっ、社長の弟さんなんですか。あー、言われてみれば少し似てますね。」
「初めまして、社長の後輩の天川月乃です。」
「椿木奏多です。よろしくお願いします。」
ハプニングもあったが、挨拶を済ませ、4人でシューズショップへと向かった。
「祐司って相変わらずスニーカー好きだよな。どんな奴が好きなんだっけ?」
「ちょっとブーツみたいなハイカットのやつかな、ローカットも好きだけど。」
「じゃあ、俺が祐司に似合うやつを選んでやるよ。任せな。」
「はいはい、期待してるよ。」
少し先を歩いている二人を見て月乃が、
「なんか、奏多君といるときの祐司君って年相応の男の子って感じですね。昨日はもうちょっと大人って感じでしたけど。」
月乃の言うとおりだ。いつもははしゃいだりせず、年齢に対して大人びていたが子供っぽいところもあるんだなと新しい発見ができて嬉しく感じた。
そうしているうちに、シューズショップに着き、祐司君と奏多がスニーカーを選び始めた。心なしか、祐司君の目がキラキラしていて、はしゃいでいる姿に不意に「かわいい」と思ってしまった。
「あの、このスニーカーでいいですか?」
「意外と早く決めたわね。それでいいの?」
「はい。奏多が選んでくれましたし、自分も気に入りましたので。」
「わかったわ。月乃行くわよ。」
支払いを済ませ、二人のもとへ向かった。
「はいどうぞ、いつもありがとうね。」
「ありがとうございます。大切にしますね。」
突然、奏多のおなかの音が鳴った。
「奏多、お腹すいたの?」
「もう6時過ぎだぜ。そりゃ腹減るだろうよ。」
「それもそうだね。帰りがてら夕飯の買い物してなんか作ろうか。」
「賛成、祐司の飯は久しぶりだな。」
「それでは、買い物してから帰りましょうか。ここまで車で来たので、荷物は載せれますよ。」
みんなで夕飯の買い物していると、月乃が
「ちょっと荷物が多くなったので車に乗せるので、奏多君借りますね。」
「ちょっえっ。」
月乃が、奏多を連れて車へ行ってしまって。
「月乃さんどういうことですか。急に二人から離れるなんて。」
「理由も雑ですし。」
「まぁまぁ、奏多君もお姉さんの気持ちをなんとなくわかってるでしょう。当の本人がピンと来てないけど。」
「まぁ間違いなく姉さんは祐司に惚れているでしょうね。祐司と毎日いて、惚れるなというほうが難しいですよ。俺でも惚れそうですよ。あいつも相当鈍感ですど。」
「だから、ずっともやもやするくらいなら、気づかせてあげようと思って。まずは、二人っきりにしてみた。」
「うまくいかないと思いますけど。」
一方、おいて行かれた私と祐司君は、急なことに唖然としていた。
「天川さん急にどうしたんでしょう。」
「さあ?急にわからない行動することあるしねあの子。」
「え?まって、月乃と奏多がいないってことは二人っきり?」
今の状況を理解しだして、急に緊張してきた。
「なんで?1か月前までは全然平気だったのに。」
「・・えさん、早苗さん!」
「え?ごめんなんか言った?」
「大丈夫ですか?最近上の空なことが多いですよ。何かありました。」
祐司君は心配そうに顔を近づけた。
「近い!」
「大丈夫よ。ちょっと疲れてるだけよ。」
彼の顔を見てみると、少し怒ったような顔をしていた。
「本当ですか?早苗さん、すぐに無理しますから心配になりますよ。ただでさえ今日はハプニングもあったんですから。」
「早苗さんは、もう少し周りを頼ることを覚えたほうがいいですよ。俺や奏多に言いにくいなら天川さんとかに頼ってください。話を聞いてもらうだけでもすっきりしますよ。」
「でも私、相談事って苦手なのよね。自分のことばっかり話して相手に不快な思いさせないか不安で。」
祐司君は、私の目をまっすぐに見つめて
「確かにそういう人もいるでしょう。ですが、少なくとも俺や奏多、天川さんはそんなこと思いませんよ。早苗さんは、社長で人の上に立つ人間として、いろんな責任やプレッシャーがあるでしょう。ですが、早苗さんも一人の人間です。必ず限界があります。今のままでいくと、すぐに押しつぶされてしまいます。」
「だから、ちょっとずつ分けてください。俺たちの方にもちょっとずつ。せっかく知り合ったんです、支えるくらいさせてください。大丈夫です。そんなやわな体はしてませんよ。」
彼の言葉に自然と涙がこぼれた。人の上に立つ人間としていろんなことを我慢してきた。自分は、大丈夫だと信じてきた。でも、自分ではわからないくらいに背負いすぎていたようだ。
「そうね。いろいろと我慢しすぎたみたいね。これからも頼っていくと思うけどお願いでる?」
「任せてください。さあ、奏多と天川さんが待ってますよ。帰りましょうか。」
車で待っている月乃と奏多のもとへ行き、さっき会ったことを話した。
「ってことがあって、二人にも頼ることになると思うけど、大丈夫?」
月乃が前のめりになって
「当たり前じゃないですか。いつでも肩を貸しますよ。任せてください。」
続いて奏多も食い気味に
「やっと気づいたの。相変わらずそういうことには鈍感だよね。もっと回り見ようね。」
心が軽くなったような気がした。私は、周りの人に恵まれている。そんなことが再確認できた1日だった。
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